今回は、大河ドラマ『光る君へ』で、財前直見が演じる道綱母(ドラマでは藤原寧子)を取り上げたい。段田安則が演じる藤原兼家の妻で、上地雄輔が演じる藤原道綱の母、『蜻蛉日記』の作者でもある彼女は、どのような人物なのだろうか。なお、彼女の実名は不明なため、ここでは「道綱母」で表記する。

文=鷹橋 忍

長谷寺(奈良県) 写真=フォトライブラリー

本朝第一美人三人内也

 道綱母の生年は明らかでないが、承平6年(936)頃とみられている(川村裕子『新版 蜻蛉日記Ⅱ』下巻)。

 ここでは道綱母の生年を承平6年として計算すると、延長7年(929)生まれの夫・藤原兼家より7歳年下となる。

 道綱母の父親は、上総、河内、伊勢などの地方官を歴任した正四位下藤原倫寧。

 母親は、通説では主殿頭春通女(とのものかみはるみちのむすめ)であったが、最近では源認女(みとむのむすめ)ともいわれている。

『更級日記』の作者・菅原孝標女(たかすえのむすめ)は姪にあたる。

 南北朝時代に編纂された系譜集『尊卑分脈』には、道綱母に関して「本朝第一美人三人内也」(日本三美人の一人)」と記述されている。

 

和歌と装束の仕立てが得意

 歴史物語『大鏡』第四巻「太政大臣兼家」に、「きはめたる和歌の上手」とあるように、歌人としても知られ、中古三十六歌仙の一人に数えられている。

 また、当時、夫の衣装の作製は妻の役目だったが、道綱母は裁縫や染色など、服の仕立てに関して、優れた技術をもっていた。夫の藤原兼家は、道綱母のもとにあまり通わなくなってからも、衣装の仕立てを頼んでいる。