腕時計を丸1週間、実際にJB, autograph記者が身に着けて試します。身に着けたからこそ伝えられること、実感したことをつまびらかに書き記しました。1週間というセミロングな時間をともにしたからこそ、気づいたリアルな感想を綴ります。

第2回テーマ セイコー『KING SEIKO SDKA005』

この時計を1週間、試着したリアルな感想

1 ウェブや紙の誌面で見るより、段違いにキラっキラっ!!

2 ラグの張り出しがクラシカル。なのに、モード服のよう

3   当時の思想を受け継ぐフェイスデザイン

4 ブレスレットのコマがしなやか&滑らか

5 現行キャリバーで最も薄い。だからルックスがいい

 

日常でつけるリアルな腕時計とは?

そもそも皆さんは、日常で身につける腕時計とは幾らくらいのモデルが妥当と考えますか? って、いきなりお金の話題でイヤラシくスタートしてしまって、すみません。でもこれ、とっても重要な話だと思うんです。そもそも日々の移動に公共交通機関を利用するワタクシのような一般市民の場合、当然、混雑した電車に乗り合わせることがあります。そんな時、隣の人と予期せず腕がぶつかってしまうこともあると思うんです。

街なかを歩いているときもそう。繁華街を闊歩していたら、たまたますぐ脇をすり抜けていった人のカバンに腕がゴツっと当たってしまうこともありますよね。そんな時、大切な腕時計にキズが付いたら、たいへん。とはいえ、腕時計をかばうようにして歩きますか?

渋谷駅ハチ公前広場にて。これからスクランブル交差点を渡るのに、左腕が気になった昼下がり

金銭感覚は人それぞれですが、都市部に住んでいて、時には混雑のなかに身を置かざるを得ないワタクシにとっては、なんとなく50万円くらいがひとつのボーダーラインのような気がしています。それ以上の高価なモデルは、イザという時にヒヤヒヤして、時計への配慮に振り回されそう。だから、ざっくりと50万円。

その意味で、今回のKING SEIKOは、今の時代感覚のちょうど良さを狙ったグッドコンセプトだと思います。端的に言って、この仕上がりの良さで50万円を切る価格設定は、グイグイと値上がりが続いている時計業界のなかで、抜きん出た存在という印象です。

ちなみに“KING SEIKO”とは、かつて江東区亀戸にあった第二精工舎の代表的なブランド。当時、セイコーというブランドを支えた諏訪精工舎(現セイコーエプソン)と第二精工舎(ウオッチ事業は現セイコーウオッチ)というふたつの製造拠点が存在しましたが、諏訪精工舎が先行して手掛けたGRAND SEIKOを追いかけるように、その対抗馬としてKING SEIKOが誕生したとも言われています。両者はかつて、良きライバルとしてしのぎを削った存在(※)。そんな昭和のツウなエピソードも備えています。

(※)後に、両製造拠点が2ブランドをともに製作した時期もあります。

ウェブや紙の誌面で見るより、段違いにキラっキラっ!!

「想定以上に輝いているぅ!!」。腕に実際に載せて何より感じたのは、この時計の磨きの美しさでした。じつはKING SEIKOに限らず、セイコーの一定以上の製品について(体感的にはPRESAGE以上)、すべからく感じていることでもあるのですが、ウェブや紙誌面で製品写真を見るより、実物のほうが圧倒的にキレイなんです。

造形としての美しさと仕上げの良さで、ダイナミックな印象。モノトーンにより、かえって緊張感が漂っています

それは、時計ケースのインゴットの美しさ。金属表面がくすんで見えず、光の跳ね返りがシャープなのです。もちろん金属表面の凹凸が肉眼で見えるわけもありませんが、きっと顕微鏡で見ても、澄んだ水面のごとく平滑であることが想像できます。面の歪みがないから、光が乱反射せず一方向に揃っていて、キリッと引き締まって見えるんです。

その光の情報量が、もはや印刷や液晶画面を通しては再現できないのでしょう。それほど実物が美しいのです。この記事の写真でも同じことが言えますので、こればかりは店頭で実物を見ていただくしかありませんが、ハッキリ申し上げて、同価格帯の輸入ブランドと比べて、セイコーの仕上げがいかに丁寧なものなのかが如実に現れています。Made in Japan、良き! と思います。

青空の下では、コントラストが映えて、シュッとした雰囲気。堂々たるルックスです

ラグの張り出しがクラシカル。なのに、モード服のよう

次に目が留まったのがラグの張り出しです。これはもう、潔いほどに“武骨”(もちろん、いい意味で)。ケース径38.6ミリという小径サイズに対して、太くて安定感のあるラグが、がっしりと張り出しています。クルマで言う小型SUV感とでも申しましょうか、足回りが安定していて、浮ついていない。

単体で見るデザインはとても個性的なのに、着用すると品良く腕に収まります。すごいっ

時計を腕に装着した状態で、ラグの見え方は重要です。日常生活では時計を斜めから見る(見られる)ことが多いからです。造形として、腕との接地パーツは問答無用で目を引きます。

まるで彫刻芸術のようなラグ。この多面構成が、抜群に凛々しいのです

そして斜めにカットされた大胆な造形が、まるで折り紙のよう。3D曲面を造形的に表現することが量産ベースでは難しかった時代に、敢えて直線構成を提案したデザイナーの潔さを匂わせます。しかもそのフォルムが時代を経ても古びて見えないのが素晴らしい。“モード服”と形容したのはその意味合いがあります。強いデザインは、時代を経ても古びません。コム・デ・ギャルソン、ヨージ・ヤマモトのような屈強さが、このラグにあると思うのです。

まぁ、それもそのはず。だってこのモデルは、「セイコースタイル」の系譜を継ぐ1965年誕生の2代目キングセイコーの系譜を受け継ぐものなのですから。

当時の思想を受け継ぐフェイスデザイン

太い針は、トルク力の象徴であり、すなわちキャリバーのスタビリティを示すものでした。そんなセイコーのヘリテージを示す、このルックス! もう惚れ惚れします。内面無反射コーティングで、文字盤もクッキリ

太い針と、太いインデックス。蓄光塗装に頼らず、インデックスの太さと、カッティングだけで、はっきりと時間を読み取らせているところが、これまたシブいです。しかも、時計の基軸となる12時位置のインデックスは他のインデックスの2倍の太さとなっていて、中央に1本の窪みがあり、その線でゼロ位置を示しています。その中央線を際立たせるために、12時位置のインデックス正面には格子状のレーザーカットが施されています。

日本には“用の美”という文化がありますが、まさにその王道を行くデザインです。実に、シビレますね。もちろん、まったくの暗闇では蓄光仕様に負けますが、蓄光材のスポーティな要素を全排除して、蓄光材なしに告時機能を追求していく姿勢が潔いです。いや、むしろ自信の現れかもしれません。デザインで直球勝負というわけです。

ベゼルから直角に切り立つボックス型風防。この厚みが文字盤をしっかりとガードします

加えてボックス型風防も、目を引きつける重要な要素。厚みを持たせることで、クラシカルな雰囲気を漂わせています。その風防を支えているのがベゼルですが、このベゼルパーツをポリッシュ仕上げとして光を回し、文字盤の輪郭を強調させているところが、デザインの勝利と言いましょうか、古き良き時代から受け継ぐデザイン文法が、現代において冴え渡っています。

ブレスレットのコマがしなやか&滑らか

ブレスレットも個性的。細やかですが硬派なイメージです。媚びないデザイン、大賛成

おおー。このモデルのブレスレット、7連リンクなんですよね。ですから、パーツが細やか。しっとりと腕に寄り添い、腕馴染みが別格です。そしてリンク側面だけをポリッシュ仕上げとして光らせています。光らせる面積を敢えて限定して、ブレスレットについては輝きを抑え込んでいるわけですが、それでも冒頭に申し上げたように、時計全体の印象としてキラっキラっ感があるのですから、どれだけ平滑なんだ? という思いがあります。

ブレスレット仕様は、やはり安心です。着用スタイルを選ばず、Tシャツでもスーツでも、どんな服装でも見栄えがいい。昨今、流行りのバンド付け替え仕様も素敵ですが、ブレスレットだけで年間を通す一張羅も、これもまた潔いと思います。

超高級モデルのブレスレットと同じく、両側から折り返しパーツが開く仕様。ブレスレットの端にはロゴ刻印が施されています

そしてバックルは観音開き。両端からつまむようにプッシュすると、留め金から折り返しがスルリと外れます。これ、時計を着け外しするときの所作がだらしなく見えないのでワタクシは好き。まあ、人前で着け外しすることって、それほどないかもしれませんが。

おっと! セイコーは、キングセイコー専用のレザーストラップを10種類用意していますので、付け替えの手間をかけると、楽しみはぐーんと広がることもお伝えしておきます。

現行キャリバーで最も薄い。だからルックスがいい

じつは、この要素がキモとワタクシは思っています。このモデルは、セイコーの現行キャリバーで最も薄型のCal.6L35を搭載しています。したがって、比較的ケースが薄い。普及機レベルの自動巻きですので、手巻きモデルや百万超えの高級機と比べるとインパクトは薄いかもしれませんが、日常使いでは必要十分の薄さ。

厚さ10.7mmの時計ケース。セイコーのなかでも最薄というわけではありませんが、実用的に十分なスペック
ムーブメントは普及機ですから、プレミアムモデルのような装飾は施していません。なので、ステンレスバックとしてムーブメントを見せることなく、むしろ防水面を考慮して閉じています。そして代わりに、キングセイコーの盾を刻んでいます

精度の話もさせていただきます。Cal.6L35はあくまで普及機ですから、グランドセイコーの基準には届きません。グランドセイコーとなると、スイスクロノメーターと同等またはそれ以上となってきます(条件設定が若干異なるので、厳密に比較できません)。とはいえ、このKING SEIKOは日々使用していて問題を感じることはまったくなし。そもそも機械式時計を数日間使っていて、1〜2分ズレてきたなと思ったら、リュウズでささっと修正すればいい。その修正が1週間に一度あるか、ないかなら、ワタクシは許容します。

逆に、その精度までも突き詰めているのが、現在のGRAND SEIKOであり、だからこそアップデートを重ねる中でプライスも上昇しているのです。つまり、ワタクシの理解では、GRAND SEIKOが数段高みに上がったその穴をビシッと埋めるのがKING SEIKO。そのスタンスがちょうどいい! 古き良きセイコースタイルのまま、日常で使える実用性を50万円以下で実現しているというわけです。

隣の吊り革にこの時計を見つけたら、「うわ、やるな!」とワタクシは思いますね

スペックをスマートコンセプトが凌駕するーー。これが結論。ちなみに、KING SEIKOには20万円台のモデルも登場していますが、ワタクシとしては現行普及キャリバー最薄かつ外装にこだわりを注いだ、このエレガントな見栄えが“推し”です。

KING SEIKO 品番SDKA005、自動巻き(Cal.6L35)、パワーリザーブ約45時間、ケース(径38.6mm)とブレスレットはステンレススチール、日常生活用強化防水(5気圧)、41万8000円