『七賢』の「山梨銘醸」と「アラン・デュカス」の新作は、なんと蒸溜酒! しかもサステナブルで白州の地でウイスキーづくりを行う「サントリー白州蒸溜所」の樽で熟成させているというではないか。この情報量多すぎな新製品は一体、何で、どうやって造ったのかを、山梨銘醸の社長・北原対馬さんに聞いてきた。

アラン・デュカス・サステナブル・スピリッツ
2023年12月1日(金)発売
3,300円(税込)720 ml アルコール 37% 

蒸溜酒なのに日本酒の香りがする! なんで?

『アラン・デュカス スパークリング サケ』 に続くアラン・デュカスと山梨銘醸のコラボ酒『アラン・デュカス・サステナブル・スピリッツ』が12月1日(金)に発売される。

発売に先駆けて、日本でのお披露目会が「パレスホテル東京」で開催され(パリでのお披露目は「ル・ムーリス・アラン・デュカス」で開催されたそうだ)、お呼ばれしたので参加してきた。

デュカス・パリの日本代表、ジャン=フィリップ・ザ―ムさんと山梨銘醸株式会社 代表取締役社長 北原対馬さん

そこで、ざっと概要を聞いたところ、要するにこれは、日本酒の酒粕を原料とするウイスキー的なもの、つまり蒸溜酒、日本的にいえば、焼酎、ということらしい。

『アラン・デュカス・サステナブル・スピリッツ』は山梨銘醸と同じく、白州の地にある「サントリー白州蒸溜所」の樽で熟成されたそうだからシングルモルトウイスキーで考えてみよう。

シングルモルトウイスキーはモルト(麦芽)を砕いたものを水と混ぜた液体に、酵母を加えて発酵させることで、アルコール度数の低い「ビールみたいな酒」をまず造る。

この「ビールみたいな酒」をデカいヤカンみたいなものである「ポットスチル」で熱する。水が100℃で沸騰する一方、アルコールは70℃で沸騰するため、水は沸騰しないがアルコールは沸騰するあたりの温度で出てきた蒸気を集めて、これを冷やせば、アルコール度数が、元の10倍くらいになった液体が取り出せる。これがウイスキーの原酒であり、この沸点の差を利用してアルコールとその他水分を分離する行為を蒸溜という。

ただ、この方法には「ビールみたいな酒」の「ビールみたいな」な風味は、普通にやったら、その大半が蒸気を冷却して得た原酒の側ではなく、水側に残っちゃうという弱点がある。もちろん、欲しい風味をうまく原酒に取り出すのが蒸溜所の技のひとつだけれど。

『アラン・デュカス・サステナブル・スピリッツ』も仕組みは同じ。

一般的には酒粕から造られる焼酎は酒粕焼酎なんて言われることもあるけれど、何にしても、日本酒の風味はほぼ置き去りになるのでは? とおもって、試飲のグラスに顔を近づけて「!?」

七賢? 日本酒の香りがするではないか! なんで?

なんで? 北原対馬さんに聞いた

そもそも、変な話だ。

山梨銘醸は日本酒は造っているけれど、焼酎は造っていない。発表会で、北原対馬さんは「サントリー白州蒸溜所の樽を使った」とは言っていたけれど「ポットスチルを使った」とは言っていない。だいたい、いくらサントリーが懐の深い会社で、同郷の山梨銘醸とはリスペクトし合っているにしても、ポットスチルを貸してくれるか、といったら話は別だろう。ということは、まず、どうやって蒸溜したんだ?

もう、そこにいるんだから本人に聞いてみようと対馬さんにたずねた。蒸溜器、導入したんですか?

「そうです、蔵に蒸溜器を作りました」

作った? でも蒸溜してこんなに日本酒の香りがするものなんですか? 

13代目にあたる北原対馬さんが継いでから、高品質化のために蔵に大きな投資をした山梨銘醸のヘッドクオーター。創業は1750年の老舗

「そう、普通に蒸溜したら日本酒の香りはなくなってしまいますよね。だから気圧を変えているんですよ」

つまりこういうことだ。山の高いところだと、水は麓より低い温度で沸騰する。エベレストの頂上だと理論上、水は50℃で沸騰するらしい。これを減圧沸騰という。酒も然り。減圧蒸溜といって、圧力を操作すれば、高熱でなくても蒸溜を起こして、熱が風味に与える影響を抑えながらアルコールが高い液体と低い液体を分離できる。低アルコールワインを造る際にも使われる手法だ。それをやったのか!

しかも、仕込み水が同じ地域のものだからなのか、樽の影響なのか、ミドルには白州蒸溜所でつくられるウイスキーのような雰囲気も感じられるようにおもう。多分ハイボールにしても美味い。そして、余韻では、両者のハーモニー。

七賢とアラン・デュカスのコラボ企画らしく、日本的で複雑性のある酒。これは面白い!

白州といえば南アルプスの清水。山梨銘醸はこれに惹かれてこの地に酒蔵をつくり、それから約200年後、サントリーもこれに惹かれて蒸溜所をつくった

サステナブルで友愛的

なんでこんな発想が生まれたのか、というと、どうやら、七賢が売れていることとも関係があるらしい。以前のインタビューによると山梨銘醸は、北原対馬さん、そして、酒造りを担当する弟の北原亮庫さんが参加したころ生産量はわずか1700石程度だった。これが、二人の努力の結果、現在、目標の4000石にだいぶ近いところまで来ている。となると、酒粕もいっぱい出る。が、今は昔ほど、酒粕を一般的に使わない。結果、ゴミになってしまう。

しかしこの酒粕から、焼酎を造ることでアルコール発酵にまつわる分を使い切り、米の栄養が凝縮した酒粕の酒粕は、牛の飼料にすれば、無駄がないどころか、畜産農家の負担が減る。

うんちくだけれど、和牛は幼い頃に草と穀物を混ぜた飼料をどう与えるかで味がかなり変わる。草は稲わら等で、そこまで負担は大きくないが、穀物はほぼ輸入だより。これが年々高騰しているため、下手すると、仔牛の購入金額+餌代>成牛の販売価格になる、と筑穂牛の肥育農家が教えてくれた。だから、この取り組みの意義はきっとかなり大きい。

ついでにいうと、山梨銘醸は、エネルギーも現在、グリーンエネルギー(水力発電)だ。

アラン・デュカスは10種のカクテルレシピを提案

ス―ズ アンド スピリッツ
20 mlの『アラン・デュカス サステナブル スピリッツ』に同量の『ス ―ズ』(ハーブリキュール)、80mlのトニックウォーターに加え、キューブアイスとともにステアして、1スライスのレモンを飾ったカクテル

『スパークリング サケ』のパートナーのこんなステキな取り組み、アラン・デュカスも喜んで協力するに決まっているわけで『アラン・デュカス・サステナブル・スピリッツ』にあたっては、そのカクテルレシピを、デュカス・パリのシェフ・ソムリエであるジェラール・マルジョンと、世界の「アラン・デュカス」グループのソムリエたちが提案している。

こちらは『トウキョウ ネグローニ』というカクテルで、カンパリと甘いベルモットをブレンドしている。『アラン・デュカス・サステナブル・スピリッツ』は海外展開を意識してカクテルのベースとして楽しめるように想定して造られたそうだ

詳細は、公式サイトで公開されているので、チャレンジしてみるのも一興だろう。

その際、絶対必要な『アラン・デュカス・サステナブル・スピリッツ』は、12月1日(金)七賢公式オンラインショップほか、百貨店、専門店等で発売。価格は3,300円だ。また「ベージュ アラン・デュカス東京」、「パレスホテル東京 エステール」、「ブノワ東京」、「ムニ・アラン・デュカス 京都」には、今後、常備される。