『山崎』とならび、サントリーを、そしてジャパニーズウイスキーを代表するウイスキー『白州』。それを生み出す『サントリー白州蒸溜所』がリニューアルして10月2日から一般公開している。

それに先立つこと数週間……筆者はサントリーが開催したプレスツアーに参加させてもらった。

起点となるのはこのビジターセンター。地元の花崗岩でつくられている。以前を知っていると、変わりすぎていて「ここどこ?」とおもってしまう

そもそもとても気持ちいい八ヶ岳エリア

小淵沢駅から2023年12月24日(日)まで毎日運行しているシャトルバスで20分くらい。八ヶ岳が代表的な南アルプスにある「サントリー白州蒸溜所」はリニューアル以前から、とても気持ちのいいところだった。

夏でも比較的涼しいし、美しい緑を満喫できるロケーションで、かの『サントリー天然水』(南アルプス)の採水地でもあるから、酒に興味がなくても訪れて楽しい。周囲はハイキングするもよし、乗馬を楽しむもよし。もちろん、食も豊か。

ちょうど雲がかかっていたけれど、ビジターセンターの向こうに八ヶ岳が見える

酒は、といえば、うまい酒がたくさん造られている土地でもある。そう遠くないところに、日本のラグジュアリーホテル『星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳』があり、そこには地域の銘酒が揃っているし、北杜市の方に向かえば、ぽつぽつと日本ワインファンを魅了するブティックワイナリーがある。ビールなら「うちゅうブルーイング」が知る人ぞ知る名品と名高い。日本酒ならば『七賢』の「山梨銘醸」。そして、もちろん、ウイスキーは『白州』がある。

「サントリー白州蒸溜所」は1973年に完成した。ここに蒸溜所がつくられる決め手となったのは水で「サントリー山崎蒸溜所」の工場長を務め、水に関する造詣の深さから"水の狩人"と呼ばれていたという、大西為雄氏が、この地の水に魅了されたのがきっかけだったそうだ。南アルプスの花崗岩層を通った軟水(硬度30度ほど)は「山崎蒸溜所とは異なるウイスキーを造る」というサントリー創業者・鳥井信治郎の息子にして、二代目マスターブレンダー・佐治敬三氏の思いに応える決定的要因だった。

ビジターセンターには、白州蒸溜所の歴史を語るパネルもある

そして、山崎蒸溜所の50年後、1973年に竣工した白州蒸溜所から生み出されるウイスキーは、いま、人気がありすぎて「欲しくても買えない」ほどのウイスキーになっている。山崎蒸溜所のそれと比べた場合のちがいは、山崎が重厚なら、白州は軽快。両者ともに、日本最高のシングルモルトウイスキーとして世界に名を轟かせている。

白州蒸溜所謹製のジャパニーズシングルモルトウイスキーたち

サントリーのものづくりへの向き合い方が感じられる

今年、大きくリニューアルした白州蒸溜所。家族で休日を楽しみたい場合には、来年、レストランまで完成してからのほうがより楽しめるかもしれないけれど、現在でも、リニューアルした「ビジターセンター」から、約50種類の鳥が生息する「バードサンクチュアリ」を横目に、山林の小道を進んで、おなじみの2つ屋根の「ウイスキー博物館」、そして、そのすぐ横の「テイスティングラウンジ」はオープンしている。

「ビジターセンター」を出たら、林間の小道を抜け「テイスティングラウンジ」方面へ

この白州蒸溜所、いまでこそ、ハイクオリティなウイスキーを生み出す蒸溜所だけれど、約82平方メートルもの敷地面積は、その約8割が森とはいえ、広大で、ウイスキーがよく売れていた1970年代、筆者調べで日本最大、世界でも最大規模の生産能力を誇るモルトウイスキー製造所だった。つまり、最初は、ウイスキーをたくさん造るために建てられた蒸溜所だった。

奥に見えるのがサイロ。粉砕前のモルト(麦芽)の貯蔵施設だ。巨大!

しかし、1980年代になると、日本のウイスキーブームは急激に沈静化。ここから2000年くらいまでは、日本のウイスキー市場は結構、厳しい時代を過ごしている。

ジャパニーズウイスキーの復権は、2000年代後半に入って、国外で評価が高まったこと、国内では「ハイボール」が普及したことで果たされているのだけれど、ハイボールを普及させたのがサントリーのマーケティングなのは有名な話だし、国外での評価についても『山崎12年』が2003年にISC(International Spirits Challenge)で金賞を受賞したのを皮切りに、『白州18年』が2006年に同じく金賞受賞と、やっぱりサントリーが業界のリーダー的役割を果たしている。

ポットスチル。左が初溜用の大きいもの、右が2回目用のやや小ぶりなもの。これだけのたくさんのポットスチルがひとところにある様は圧巻

今回、白州蒸溜所を訪れて知ったのだけれど、白州蒸溜所では、ウイスキー市場が厳しかったはずの2005年に蒸溜器の更新をしているそうだ。市場動向への対応力とものづくりに手を抜かない姿勢。どうしたって長い年月を要するウイスキーへの腰を据えた取り組みは、サントリーだなぁ、とあらためて感じるところだ。

コンセプトはLIVE!

モルトウイスキーの大量生産を目指していた、といっても、公害問題が取り沙汰された1970年代の日本、白州蒸溜所は「森林公園工場」 をコンセプトとして建てられ、最初から「バードサンクチュアリ」もあった。2005年には、子どもたちに向けた「水育」プログラムの一環として「森と水の学校」白州校を開校している。SDGsなんていう言葉が世間の耳目を集める前から、白州蒸溜所はずっと自然を尊重している。

ビジターセンターにある、白州蒸溜所の全体像がわかるミニチュア。デフォルメされているけれど、広大な敷地のどこになにがあるかが理解できる。テイスティングルームや、博物館、バードサンクチュアリなどがあるのが右下のエリアで、左中央部あたりが蒸溜施設。山の上のほうに樽貯蔵庫と『南アルプス天然水』の採水・ボトリング施設がある

このほどのリニューアルは、それをより見える化した、と言っていいようにおもう。

コンセプトは「LIVE!」だそうで、そこには白州を五感で感じてもらいたい、という思いが込められている。訪れる人々も、ここで働く人たちも。

具体的には「白州蒸溜所ものづくりツアー」(参加費:3,000円/人)に参加すると、ウイスキーの製造工程をわかりやすく解説してもらったあとに、実際の製造現場を見学できる。

蒸溜棟入ってすぐのところで、プロジェクションマッピングを使った、ウイスキーが出来るまでの説明がある。これ、大変わかりやすい

モルトの粉砕・仕込みから、白州伝統の木桶による発酵、ポットスチルでの蒸溜、という原酒ができるまでの一連の工程を間近で見た後に、テイスティングルームに戻って、商品の試飲。途中の移動では、白州蒸溜所の誇る森の中をちょこっとだけだけれど、歩ける。

ズラッと並んだ木桶の発酵槽。壮観!

さらに、もう少し奮発して参加費5,000円/人の「白州蒸溜所ものづくりツアー–プレミアム-」に申し込めば、白州で少量生産されているグレーンウイスキーの製造設備やボトリングを見学でき、テイスティングは貯蔵庫での開催となる。

貯蔵庫

となると、製造の現場に、お客さんがやってくるわけで、働いている人にとっては「邪魔じゃないのかな?」とおもうかもしれないけれど、実際のところ、消費地から離れた場所でものづくりをしている人は、お客さんの顔をみることが、あんまりない。自分のつくっているものに興味のあるお客さんの存在を肌で感じられるのは、働く人々のモチベーションにもなる、という話は、わりと聞くものだ。サントリーにもそういう考えがあるらしい。

こちらは博物館内。情報が場内見学と補完し合っているとおもわれるので、見学したら、博物館にも寄っておくと、体験がより豊かになる

「品質向上」もたゆまず

もちろん、サントリーが口が酸っぱくなるほど繰り返す「品質向上」のための製造設備のアップデートも今回の改修には含まれている。

具体的には、今後、つくり手がより、麦芽や酵母に触れるようにして、ウイスキーのそもそもの原材料を考える機会を増やすようだ。ウイスキーの場合、蒸溜・熟成が品質の決め手になりやすく、その前段階の素材の部分、特に、麦芽や酵母の扱いに関しては、それほど、こだわらない場合が多いけれど、サントリーはここに注目することで、さらなる品質向上の可能性を見ているようだ。このあたりは、ビールやワインでの経験が活きているのかもしれない。

先述のように、長期熟成のウイスキーとなると「欲しくても買えない」のが現在のサントリーのウイスキーの現状。生産数は、増やすようにしているそうだけれど、白州12年、18年、25年はいずれもその名のとおりの熟成年数を要す。12年前でも2011年だから、まだまだ、増産の効果が目に見える形であらわれてくるのは、時間を要するはずだ。

リニューアルの目玉のひとつ「テイスティングラウンジ」のカウンター。従来の「Bar白州」に加えて、緑を望む開放感のある空間でもテイスティングができるようになった。先行内覧会ではこの場で特別に『白州25年』のテイスティングが!

とはいえ、サントリーにしてみたら、たかだか10年、20年の話なのではないだろうか? 先輩にあたる山崎蒸溜所はもう100歳。日本ワインなら「岩の原葡萄園」で130年、「登美の丘」で100年やってきているのだ。サントリーはきっとずっと続けていく。だから、我々は焦らず、長生きすればいい。そのうち、いまよりもっとすごい、世界最高のウイスキーが飲めるんだから。