石川県加賀の伝統猟法で仕留めた天然鴨。ブルゴーニュのピノ・ノワールと。

アマン京都の日本料理店「鷹庵」で、冬の味覚をふんだんに盛り込んだ贅沢なコースに合わせ、世界的ソムリエ・石田博氏が監修するワインと酒のペアリングが楽しめる特別なコースがスタートしている。世界を舞台に活躍する料理人、ソムリエが、日本料理×ワインペアリングの世界を拓く。

世界の舞台で活躍する料理人、ソムリエの競演。

ファインダイニングの世界ではスタンダードになりつつある、ワインのペアリングコース。少量多皿のデギュスタシオンコースが主流の今、ボトルで通すより理にかなっている場合が多く(重厚なリストから一本を選ぶプレッシャーからも解放される)、店側も、ワインのセレクトや提案を通じて個性が打ち出せるのが魅力だ。一方で、「ペアリング」という言葉だけが先行して、内容が伴っていないと感じることも少なくない。そんな折、アマン京都「鷹庵」で石田博氏がセレクトするワイン、日本酒のペアリングコースが期間限定で提供されるとの報せを聞き、京都へ向かった。

鷹峯三山の麓に広がる静かな森の中に佇むアマン京都「鷹庵」。

「鷹庵」は、金沢でミシュラン二つ星の日本料理店「銭屋」髙木慎一朗氏が総料理長を務める。国際的な舞台での経験も豊かな髙木氏が、「アマン京都」独自の美学にふさわしいプレゼンテーションで日本料理の神髄に触れる食体験を提供。京都の日本料理店の中でも際立った存在で、国内外のゲストの支持は厚い。その髙木氏が、目利きと仕事で「よそには負けられない」と話すのが、北陸の冬の味覚の王様、ずわいがにと寒ぶり。石田博氏セレクトのペアリングと合わせて供される特別なコースも、このスター食材が主役だ。

石田博氏。
ゲストのテーブルを回り、ワインやペアリングについて解説。

可能性を秘めた日本料理とのペアリング。

ワインの伝統産地では、相性を考える以前に、郷土の料理とともにあったワインだが、日本料理は元来、ワインと合わせる習慣のないもの。ゆえに、「自由度も高く可能性を秘めている」と石田氏は話す。ただし、考え方の基本は、料理の強弱、風味に共通するワインを合わせる、逆に相反するワインを合わせる、産地を合わせるなど、マリアージュの理論に根ざすとのことだ。

「椀盛 厚揚げ豆腐 焼き蟹 針葱 露生姜」。熟成感のあるブラン・ド・ノワールと。

午後6時、いよいよディナーがスタートした。はじまりのワインは、シャンパーニュ「フィリポナ ブラン・ド・ノワール」2014年、マグナムボトル。贅を尽くしたコースの幕開けの相応しく、心が沸き立つワインだ。先付は、壬生菜とずわいがにの酢の物。加減酢の旨味、酢とスダチの深みのある酸味に、ふくよかさと酸のバランスが美しいシャンパーニュの味わいがぴたりと重なる。続いて、焼き蟹と厚揚豆腐のお椀。

「二品目ですが、日本料理のメインディッシュともいえるお椀。鰹だしの濃厚な旨味に、6年の瓶内熟成を経たブラン・ド・ノワールの複雑味を合わせました」と、石田氏。さらに「後半はこちらで」と、供されたのがフランス、アルザス「ドメーヌ・オステルタッグ」のピノ・グリ。

「この造り手のピノ・グリは、テクスチャもキャラクター。厚みがあり、メロウな印象で、ふっくらときめ細やかな揚げ豆腐の食感とも合います。このワインで、次のお造りまでどうぞ。寒ぶりの脂のテクスチャとも非常に相性がいいはずです(石田氏)」

一皿に一杯ではなく、ワインが料理と次の料理の間に橋を渡すような提案が楽しい。

三品の進肴の一品、唐墨大根。食感、風味の濃厚さが格別な唐墨が定番の味を引き上げる。

冬のスター食材の味を引き立てるワイン、日本酒。

全品オールスター級の食材が揃う中でも、続くは、ハイライトといえる二品だ。

まずは寒ぶり。部位ごとに異なる味を楽しませるべく、腹と背それぞれを土佐しょう油の染めおろしとともに。「しょう油をつけても弾くほど脂ののりです。わさびをたっぷりつけてお召し上がり下さい」と、髙木総料理長。身の張りがよく、咀嚼して脂の甘みと旨味を味わうぶりに、とろりとした果実のふくよかさのあるピノグリが、なるほど素晴らしい。

お次は、香箱がに。酢で蒸した酢飯で、寿司に仕立ててある。「赤いダイヤ」と賞される内子、外子もたっぷりで、海の滋味を蓄えた深いコクと軽快な食感が楽しい。ここは王道の日本酒、産地合わせで石川の地酒「天狗舞 山廃純米 五百万石」を低めの温度の燗酒で、というのが石田氏の提案。

「五百万石の持ち味である丸みと、酸の豊かさが、かにの甘みと酢飯のまろやかな酸味に寄り添います(石田氏)」

「箸休 香箱寿司 蒸しズワイガニ」には、石川の地酒を。

味を足すのではなく、極上の素材の味そのものを極限まで引き上げ仕立てられる料理は、それだけで、一つひとつの食材の認識を新たにするおいしさ。器の中で完成された美味だが、石田氏がセレクトしたワイン、日本酒を合わせると、また豊かに表情を変える。贅と技を尽くした冬のごちそうを味わいながら、日本料理におけるペアリングの可能性を体験できる特別なコース。焼き物の坂網鴨とブルゴーニュのピノ・ノワール、干し柿の甘味に甘口ワインと、最後まで陶然たる流れだが、これ以上の詳細は、予約される方々のために伏せておこう。髙木総料理長と石田氏、二人が揃ってのサービスは一夜限りだが、美味の競演は年末まで楽しめる。

ソムリエ 石田博(いしだひろし)
株式会社HUGE所属。社団法人日本ソムリエ協会副会長。都内の一流ホテル等で活躍した後、2004年、「ベージュ アラン デュカス 東京」開業時マネージャーに着任し、後に総支配人を務める。全日本最優秀ソムリエコンクールの優勝は3回(1996年、1998年、2014年)。2014年、黄綬褒章を受賞。著書も多数。

鷹庵 総料理長 髙木慎一朗(たかぎしんいちろう)
石川県金沢市出身。大学卒業後、京都の老舗懐石料亭「京都吉兆」で修業。1996年、実家が経営する「銭屋」に入り、2008年、二代目として店を継ぎ、ミュシュラン二つ星へと導く。同年、ニューヨーク総領事公邸晩餐の料理を担当したことを契機に、ニューヨーク、パリ、ミラノなど活躍の場を海外に広げ、日本料理の普及に尽力する。2020年4月より現職。