ワイン好きにとって、自然派と言われるワインを指す「ナチュール」は、なんともモヤモヤするワードです。ナチュールとは何か? この程、日本上陸を果たすオーストラリア注目のワイナリーのストーリーはそれをパキッと説明してくれています。
ナチュール? ヴァンナチュール!
筆者、このあいだ、ワイン業界の方とお食事をした際に、東京・飯田橋の美味しいワインと美味しい食事が楽しめるお店に行きました。和の食材をイタリアスタイルで仕上げたお料理と、主にイタリア産のワインが楽しめるお店で、夜はワインバーとしても営業していらっしゃいます。
このお店が扱うワインの多くは、いわゆる「ナチュール」です。でもこのお店が素晴らしいとおもうことのひとつは、必要以上に「ナチュール」を強調しないこと。「あ、これナチュール?」「ええ、そうですよ」という目配せ程度。こちらが望めば、イタリアのなかでも、ここの産地で、こんな品種で、こんな人が造っていて……と、そこらのソムリエ顔負けの知識とワインが面白くなるエンターテインメントがあるのですが、能ある鷹は爪を隠す。平素は「このワイン美味しいですよ」「うちのお食事と合いますよ」くらいなのです。
そもそも、いまの世の中は、サステナブルでSDGsで、シンプルで素材の良さなので、それはワインもそうなりましょうよ。ただ、あんまりそこで大声を出すと、隣近所が勘違いするってものです。ワインの世界、特に「ナチュール」(ナチュラルをフランス語読みしたものをカタカナ化したワードだが、自然派といわれるワインのジャンルを指すことが多い)界隈は、ちょっと熱が上がりすぎたんじゃないかなぁ……オーガニックなどと違って、これといった認証・基準もないままに広まり、あとから諸々ついてきた感じなので、二日酔いしないとか、酸化防止剤は陰謀だとか、無添加が体にいいとか、どこでそういうことになったのかよくわからない尾ひれが色々ついてきていたのです。ワインを飲もうというときに、妙にナチュール、ナチュール連呼されると、なにか隠したくて、免罪符的に言ってるんじゃないか? とおもっちゃうんですよね。
自由なワイン
今回、紹介したいアンガス・ヴィンデンさん。オーストラリアワインの権威たちが褒めそやす若手です。
2015年に24歳で実家のワイナリーを引き継いだというから、まだ33歳。そのワイナリーは、両親が1990年に始めたもので、オーストラリアでも歴史も長ければ生産量も多い上に、数々の小規模にして名ワイナリーが集うハンターバレーにあります。そんな激戦区で、まだ30代の造り手の作品が、ワイン界最高峰のマスター・オブ・ワインの称号を持つ、ネッド・グッドウィンに「テンプラリーニョはこの国のトップクオリティ。シュナンは感動的」とまで言わせるのだから恐るべき才能というものです。
幼少期からブドウ畑が遊び場で、15歳で醸造を初めて手伝ったというアンガスさん。ワイン好きに育ったものの、両親は、アンガス少年がワインの道に進むことには反対で、建築家になって、仕事の傍ら、栽培学と醸造学を学んだのだそうです。流石にそこまでされては……と両親は息子にワイナリーを譲りました。
さらに、アンガスさん、師事したグレン・ハワードというブドウ栽培家のブドウ畑も昨年、引き継いでいます。そこはハワード家が6世代にわたって大切にしてきた畑なのだけれど、グレン・ハワードが昨年、他界してしまい、その遺志をハワード家はアンガスさんに継いでもらったのだそうです。
そんな人物が、大事な畑を薬剤などで汚さず、そのブドウにはなるべく手を加えず、と考えて、自然のままにワインを造る、いわゆる「ナチュール」を選択をしたとして、なんの不思議があるでしょう? しかもハンターバレーはナチュラルワインの造り手が少なくない。どう頑張っても完全にナチュラルなワインだけでやっていくのは無理、というワイナリーがあるのは事実ですが、ハンターバレーなら、できるのです。だから、ナチュラルなワインを、アンガスさんは造っている。
ナチュラルワインというのは、そういう、造り手それぞれの物語があって、選択される手法のひとつ。ワインが美味しくなるストーリーのひとつなんじゃないか、と筆者はおもうのです。
さて、そのアンガスさんのワイン、この程、日本に初上陸します。まずはMakuakeから。気になる方は、以下のリンクからご確認ください。
https://www.makuake.com/project/winelist5/