文=萩原輝美

ロエベ|大胆なカッティングとグラフィカルな切り替えのドレス。撮影はパリ・リヨン駅にある老舗レストラン「ル・トラン・ブルー」にて #LOEWE #LOEWEAW21

装う習慣のある生物は人間だけ

 人はなぜ、装うのでしょうか? 裸だと恥ずかしいから? ──いいえ、裸族たちは、それが日常だから恥ずかしくはないでしょう。でも私たちは裸で社会生活をおくることはできません。服を脱いだ自分が本当の自分ですか? ──いいえ、装う自分が本当の自分ではないでしょうか? 装う習慣のある生物は地球上で人間だけ。その知性や社会性で行われる行為が装うこと。服は、着る人の精神を表すのです。そしてその表現と自由を満たすためにファッションデザイナーがいるのです。

 自分をどう見せたいか? それがおしゃれの原点です。では、流行は誰がつくるのでしょうか? 「マスの中の個でありたい」。これはあるファッションデザイナーの言葉です。マスとは時代性と流行、そして個はオリジナリティとパーソナリティです。そしてその流行を先導するのは間違いなくコレクションと呼ばれている年2回のファッションショーなのです。

 「流行になんて左右されずに自分らしいおしゃれを楽しむのが大人のファッション」などと言う人がいますが、それはナンセンスだと思います。「自分らしさって何ですか?」と聞きたくなります。ほとんどの人は自分が着慣れているものを自分が似合うものだと思い込んでいます。私は「流行の波に上手に乗ること」こそ、おしゃれを日常の刺激や楽しさに繋げられると考えます。

 たとえば、10年前、いえ5年前のあなたの姿、ライフスタイルは同じですか? 自分自身だけではなく社会が変わればファッション、流行は変わるのです。

 30年前はジーンズでクラシックホテルへ食事に行くのはタブーだとされていました。当時、穴あきジーンズでランボルギーニのショールームに行った青年実業家がまともな扱いを受けずに帰され、後日スーツを着て行くと対応が変わり商談がスムーズに成立した、という話もあります。服は大切なコミュニケーションツールでもあるのです。

 

流行が生まれる場所

 現在、プレタポルテ(既製服)コレクションはパリだけではなく、ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、東京でも発表されています。その中でもパリは特別です。それぞれの都市ではその国のデザイナーがコレクションを発表していますが、パリには世界中から作品を発表したいデザイナーが集まります。フランス人デザイナーはほんの数人なのです。

 日本のコム デ ギャルソン(1969年川久保玲が立ち上げたブランド。1981年パリコレクションにデビュー。当時パリの保守的な新聞「フィガロ」で真っ黒の穴あき服をボロルックと非難されたが、今では世界中で賞賛されている)やヨウジ・ヤマモト(1972年山本耀司がY‘s設立。1981年ヨウジ・ヤマモトとしてパリコレクションにデビュー)もパリコレデザイナーとしてパリで発表を続けています。

 なぜなら、そこは世界中から3000人のジャーナリスト、3000人のバイヤーが集まる(コロナ禍前の人数)ビジネスの場だからです。流行の発信源と言っても過言ではありません。

 身近なところでは、多くの人が愛用するファストファッションも、デザイナーズコレクションの影響を受けて企画をしています。だからこそ、ファッションには大きな流行が生まれるのです。

 私自身は、昨年(20年)の3月はミラノ、パリとコレクション取材に出かけたのですが、直後に各都市がロックダウン。7月の秋冬オートクチュールに続いて9月の2021年春夏プレタポルテコレクションはほとんどのブランドがデジタルでの発表となりました。それはキャットウォークをライブ配信したり、映像作家とコラボして服のビデオを見せたりと、新しい環境で、新たな表現方法を模索しながらの発表でした。

 

非日常的な“ときめき”を

 イベントや旅行にも出かけられないステイホームの日常を踏まえて、デザイナーたちが打ち出したのはリラックスドレスや元気に散歩できるショートパンツ、スポーツテイストのルックでした。色は前向きな気分になれるということで、黄色やグリーンなどのビタミンカラーが揃い、私たちの日常に刺激を与えてくれました。

 そして、この3月発表された21-22年秋冬プレタポルテコレクションでは、さらに一歩踏み出すおしゃれをすることで以前のような非日常的なときめきを与えてくれる服が主役となったのです。

 それでは、今期発表された中から、今の気分を上手に映し出してくれたコレクションで、気になるアイテムや着こなしが印象的な3ブランドを紹介します。