プラダの創業は1913年、マリオ・プラダが、ミラノに高級な旅行用品や小物を販売する専門店として開業したことに始まる。世界中から高品質の皮革や珍しい素材を集めて製品を作ることで評判となり、イタリア王室の御用達となった。

 1970年代後半、マリオの孫娘にあたるミウッチャ・プラダがデザイナーとして就任してからは、斬新なデザインや革新的な素材使いで国際的な発展への転換期を迎えた。とりわけ、工業用防水ナイロン素材を用いたバッグが話題となり、その後も続々と発表されるバッグやリュックで高い人気を誇っている。メンズのアパレル分野に進出したのは比較的最近、1993年のこと。

 メンズの分野でも、過去を再編集して現代に活用する手法は巧みで、2018年秋冬には件の「ブラックナイロン」を使ったウェアを発表して新世代の顧客の心をつかんでいる。

 さてそんなプラダの2019年秋冬メンズである。このルックが表す気分は、ほんとうの自分を見せたいと願う、若きはみだし者である。

 イメージの源となったのは、「アダムズ・ファミリー」や「ロッキー・ホラー・ショウ」など、世間の常識からはみ出した登場人物が不思議な魅力となっているカルト的なダークロマンティック映画。あるいは「フランケンシュタイン」。愛されたいという大きな心を持っているけれど、世間からはモンスターとして拒絶されてしまう、哀しくもいとおしいキャラクターである。

 こうした源から生まれたロマンティック・ポップなビジョンが、カラフルなファー付きの帽子であり、複数のベルトであり、鮮やかな色彩のファーつきの薔薇柄ベストであり、ハイウエストのトラウザーズであり、細部に凝ったナイロンリュックである。一見、倒錯して見えるけど、プラダ流のセンスでぎりぎりバランスを保ち、妖しい魅力を発している。

 はみ出し者は、自分に忠実な少数派というだけである。間違っているのは、実は世の中の方なのではないか。とりわけ政治的にも社会的にも腐敗や荒廃がすさまじく目立つ現代社会の中で、アウトサイダーとして自由にロマンティックに生きたい(でも自分をわかってほしい)という衝動と葛藤をかかえるのは、プラダ・メンだけではないだろう。

文:中野香織