1811年に創業したシャンパーニュ メゾン ペリエ ジュエを象徴する作品「ベル エポック」の2015年ヴィンテージが発売となった。これを記念して最高醸造責任者 セヴリーヌ・フレルソンさんが来日。お披露目のイベントにて味わった2015年のブドウを使った「ベル エポック」はちょっと個性的だった。
ベル エポックは約束された名品である
「ペリエ ジュエ ベル エポック」は高級ワインの一典型だと私は常々感じている。
そもそもブランド力のあるシャンパーニュであること、そのなかでも高品質ワインの造り手として長い歴史と高い知名度、人気を誇っているペリエ ジュエの造る象徴的作品であることが、この「ベル エポック」というワインを、その時その時のワインの最新・最高峰が約束された銘柄としていると私は考えており、他人に「高級なワイン」という条件でワイン選びを相談された際には必ずラインナップに入れる。
基本的な特徴は、長期熟成されたワインならではの香りと旨味、その一方で硬質とすら表現したくなるシャープネスと緊張感、そして味わうものの気持ちと経験値次第でいくらでも個性を探し出せるかのような汲み尽くせないほどの複雑性、これらが奇跡的に絶妙なバランスの上に成立しているのが「ベル エポック」であり、この個性は経験上、何年の「ベル エポック」でも変わらない。
愉しみ方も多様で、グラスに注いでからしばらく時間が経っても温度変化や空気接触で緊張感が緩んでしまうようなことはないし、リリース後すぐに飲んでも、10年、20年と置いてから飲んでも、基本的にマイナスになるようなことは起こらない。
個性的な2015年
その「ベル エポック」ファミリーに新しく加わった2015年のブドウで造られた「ベル エポック」を、最高醸造責任者 セヴリーヌ・フレルソンさん同席のもと、同2013年、2008年、1999年と共に味わう、という贅沢極まりない機会で初めて出会った「ベル エポック 2015」は、個性的だと感じられた。私には、それが意外なことにおもえた。
名店のソムリエのようなプロ中のプロが評価する場合は別として「ベル エポック」はこれまで収穫年による違いを言い当てるのはかなり難しいワインだと感じていた。しかし、この2015年ならば、私でも「これは2015年」と言い当てられそうな気がしたのだ。
ワインには特徴的な年、というものがあって、シャンパーニュの2015年は他の造り手でも雰囲気が違っていることが多い特徴的な年。概要的に言えば暑い年だったのだけれど、「ベル エポック 2015」には、それが暖かみのある雰囲気として反映されているように感じられた。
ただ、何がそんなに違うのか?と問われると表現するのは難しい。言語化してしまえば、どの要素も、それこそ「ベル エポック」の特徴ではないか、と言われてしまようなものばかりだからだ。他の「ベル エポック」と比べながら「暖かみのある雰囲気」の正体を探って、ひとつ思い至ったのがタイミングだった。よく似た味わいの要素でも、感じるタイミングが異なることで印象が異なる。そういうことが起きていることで、暖かさを感じるのではないか?と私は推測したのだ。
そして、その結果、何が起こるかは、最高醸造責任者 セヴリーヌ・フレルソンさんの表現を聞いて、まさにそれ!で
「このキュヴェの構成は、アール・ヌーヴォーの象徴的なモチーフであるカーネーションの優雅さを思い起こさせます」
そう、カーネーションだ。華やかさにスパイシーさ、アーシーな雰囲気を感じる「ベル エポック 2015」はまさにカーネーションのようだ。
そこで気になったのが、この「ベル エポック 2015」は、他のベル エポックのように、今後、10年、20年と熟成したときにはどんな姿になるのだろう? ということで、正直に言って私は「ベル エポック 2015」は現段階でもうかなり完成していて、そんなに長く熟成させないでいいのではないか? と考えたのだ。
そこでセヴリーヌさんに質問してみると
「このイベントの最初で、私はベル エポック 2015をベル エポック一族に新しく加わったべべ(赤ちゃん)と紹介しましたよね?」
確かに。リリースしたてですものね、とおもっていたら、セヴリーヌさんはちょっとうれしそうに
「それもあるけれどベル エポックはリリースされた時にすでに赤ちゃんではないのよ。でも、2015年はまだ幼い雰囲気があると私は考えています。つまり、ゆっくりと時間をかけて、これから成長していくの」
そんな深い意味が込められていたとは……赤ちゃんというには熟成感があるけれど、確かにこの幸せそうな雰囲気はイノセンスなのかもしれない。
そんなことなので「ベル エポック」未体験の方は最新・最高峰のワインとして、「ベル エポック」ファンはこれまでとはちょっと違う、そして今後が楽しみな「ベル エポック」のニューメンバーとして「ベル エポック 2015」に触れていただきたい。
アネモネが現代に持つ価値
と、ここで話は終わりなのだけれど、ひとつ、ペリエ ジュエのコミュニケーションが年々、変わってきているな、と感じたのでその話を付け加えたい。
「ベル エポック」のビジュアル的な特徴はなんといっても、ボトルに描かれたアネモネ。これが、 ジャパニーズ・アネモネ(秋明菊 )で、アール・ヌーヴォーの工芸家 エミール・ガレがボトルに描いたものがオリジナル、というのは有名な話だ。アール・ヌーヴォーは植物と深いつながりがあるわけだけれど、この数年、ペリエ ジュエは、単にビジュアルの問題ではなく、ワイン造りにおいても、いかに自然と共生し、自然に敬意を払ってきたかを強調し続けている。そもそも、創業者 ピエール・ニコラ・ペリエとその息子 シャルルが園芸と植物学の専門家であり、ブドウの栽培、畑の管理を自然な方法で行っていた、ということもメッセージとして発信しているのは印象的だ。
そこから、現在は再生型の農法を実施していること、畑の周囲に植樹を行っていること、2030年までに温室効果ガスの排出量を大幅に削減するべく、特に主要なCO2排出源である包装(ガラス88%を含む26%)、農業生産(24%)、輸送(18%)に起因す排出量を半分に減らす、と話をつなげており、それはこちらのページで確認できるのだけれど
https://www.perrier-jouet.com/ja-jp/the-house/our-commitments
とてもリッチで充実したコンテンツ群だ。
こういったことが、ラグジュアリーブランドにとってブランド価値を保証する重要な要素になっていることをあらためて実感するとともに、起源で言えば1902年、商品としては1964年以来「ベル エポック」のボトルにはアネモネが描かれている、という事実は、この文脈においてペリエ ジュエの大きな強みになっているように感じられる。
それは今後もそのブランド力が維持されてゆく期待値が高いことにもなるのだろう。その価値も含めて「ベル エポック」は、やはり間違いない高級ワインだ。