去る11月6日、東京・虎ノ門の東京エディション虎ノ門 ルーフトップのGARDEN TERRACEにて「TELMONT COCKTAIL PARTY — In the name of Mother Nature —」がJBpress読者を20組40名様を招いて開催されました。
ご参加くださった皆様、ありがとうございました。
今回はいままでJBpressオートグラフのお酒の記事の読んでくださっている方が主に参加してくださったため、シャンパーニュ好き、ワイン好きの方も多くいらっしゃいましたが「初めてテルモンに触れた」という方も少なくありませんでした。そして、色々と質問もいただきました。
そこで、ここではあらためて、シャンパーニュにおけるテルモンはどんな存在なのかを、そもそもシャンパーニュとは? というところもおさらいしながら、なるべく簡潔に紹介します。イベントに参加されなかった方も、一度ここで再確認して、この年末、シャンパーニュライフを楽しんでください。
シャンパーニュの特殊性
まず、シャンパーニュとは、シャンパーニュ地方で造られるスパークリングワインのことを指します。現在のシャンパーニュの原型は、この地方のいくつかの伝統的なワイン造りの手法が合流して17世紀から18世紀にかけて生み出されました。色々な技術が合流したためか、造り方は複雑で、一度ブドウ果汁を発酵させてワインを造ったあと、そのワインを複数ブレンドしてからボトルに詰め、酵母と糖分を加えたのちに打栓。瓶内という閉鎖空間で2度目の発酵を起こすことで発酵時に発生する炭酸ガスをワインに溶かして発泡させています。さらに、最短でも15カ月熟成させる必要があり、その熟成期間の後、活動を終えた酵母が変質した澱を集めて取り除き、それで目減りした分を少量のリキュールの添加で補い、再び打栓することで完成します。
この2回ワイン造りをしてから1年以上熟成させるという人手も時間も場所も多く必要な造り方と、各工程で厳格な規定の遵守を求められることが、シャンパーニュを高級なワインにしている理由のひとつです。
さらに、やはり厳格な規定が存在するのがブドウ栽培と収穫。シャンパーニュ地方という限定された地域内で定められた方法で栽培・収穫を行う必要があります。これも同地の1000年以上のブドウ栽培の歴史を背景にしたものです。
シャンパーニュ地方内でもっとも伝統的な北方のブドウ畑は、寒冷で、かつてはブドウ栽培の北限と称されていたブドウ栽培の難しい地域でした。そして土地の起伏や畑の向き、気候の組み合わせで、温度、湿度、適したブドウが異なります。それぞれで微妙に異なるノウハウがあり、収穫されるブドウにも個性があります。歴史的には評価が高くもっとも高い値段で取引されるブドウ産地をグラン・クリュ、それに次ぐ価格のつくブドウ産地をプルミエ・クリュと呼称したという伝統があるのですが、これらの土地にしても、特定のエリアに固まって存在するわけではなく、細分化され、パッチワーク状に存在しているのもシャンパーニュ地方の特徴です。そのため、シャンパーニュ地方には土地土地に、独特のノウハウをもった小規模なブドウ栽培農家が多数存在します。
結果、ブドウ栽培からワイン醸造、さらに販売までをすべてを自社で完全に完結させている例は、シャンパーニュ地方では多くはありません。シャンパーニュの造り手は、自分で畑を持っていれば、そこで欲しいブドウを作る技術と、足りなければ必要なブドウを農家から買う能力の両方が必要とされるのです。
こういった事情から、シャンパーニュ地方は、ワイン造りの難易度が高く、だからシャンパーニュは高価なのですが、栽培に関して言えば、天候に恵まれても難しいブドウ栽培を安定させるため、天候の不順等でブドウ樹に病害が広まったり、不作が懸念される場合には、ブドウ樹や土壌に対して化学物質等を使用したいという欲求があるのは当然のことでした。また、販売についても、派手なパッケージや派手なマーケティングに頼りたい、と考えるもの無理からぬこと。また、シャンパーニュは伝統的に、貴族をはじめ富裕層に愛されてきた、という事実も、多少無理をしてでも、顧客に安定的に豪華な商品を届ける、という行為を正当化していました。
が、近年これが急速に変化しつつあるのです。
保守的なスタイルと革新的なスタイル
変化しているといっても、シャンパーニュの製造部分は変化していません。相変わらず、シャンパーニュ地方で育ったブドウを、シャンパーニュ地方にある醸造所で、厳格な規定のもと、手間暇のかかる方法でスパークリングワインにしています。
変化してるもののひとつめは環境です。私たちも日々、体感しているように、地球温暖化に起因するとおぼしき各種の天候異常はシャンパーニュ地方でも起きています。
これに対抗する手段として注目されているのが、ブドウ樹とそれが育つ自然環境が持つポテンシャルを引き出す農業。ブドウ樹に人為的な干渉を極力せず、土壌中の生物の多様性を保ち、さらには畑だけでなく、その周囲の環境全体でバランスをとる農業が、結局は異常事態に強いブドウの生育につながるという考えが普及しつつあります。
そして、ワインの醸造・輸送・販売において、環境負荷を低減すること、低減どころかむしろ環境に対してプラスになることが、社会的にも求められています。
あわせて、注目すべきが消費者の変化です。
さすがに現代は王侯貴族の時代ではありませんが、現在でもシャンパーニュは高価で特別なワイン。その消費者に経済的余裕がある人が多いことには変わりはありません。しかし、いまや自分は豊かだから、自然や他人に負担を押し付けながら贅沢していいのだ、という人は減り、自分の買い物で世の中が良くなることを望む人が増えています。また、時代の変化と関係なくいつも同じ味や香りのシャンパーニュが飲みたいという保守派はもちろんいますが、時代が変化しているなら、その変化を反映したワインを楽しみたい、という人たちも増えています。
テルモンは、こういう新しい時代を表現しているシャンパーニュです。
テルモンがしていること
テルモンはブドウの畑がグラン・クリュかプルミエ・クリュかといった話よりも、まずブドウが健全な畑、健全な農業から生まれたかどうかを重視します。ひとつのわかりやすい指標として、テルモンの自社畑は25haのうち83%がすでにオーガニックに転換済み。さらに、テルモンがブドウを購入している農家の畑75haのうちの60%もオーガニック転換済みです。農家はもちろん、オーガニック転換にリスクがありますから、その負担もテルモンが補償しています。2031年までには、自社・ブドウを購入する農家ともに、完全オーガニック化する予定です。またシャンパーニュ・メゾンとして初めて、アメリカで2020年に誕生したリジェネラティブ・オーガニック〈再生有機〉認証®(ROC™)という認証も取得しています。
さらに輸送や販売にまつわる環境負荷をなくすため、ギフトボックスの類は一切用意しておらず、必要な情報はすべてラベルに書いて、それをボトルに貼っただけのものを販売しています。
そのボトルにしても、シャンパーニュでよく採用される特殊形状のボトルは使用せず、もっとも輸送も製造も効率が良い、ごく一般的な形状のボトルのみを使用しています。その成分は87%リサイクルガラス。かつ、リサイクルガラス製造時、色の変更にあたって破棄されてしまうガラスも使用しているため、ボトルそれぞれで色が微妙に異なり、19万3,000色ものボトルで、シャンパーニュが造られているそうです。
加えて、発泡ワインという高気圧のものを封じ込める事情から、重くなりがちなボトルの軽量化にボトルメーカーとともに挑み、軽量ボトルをさらに軽量化した800gボトルを開発した、と発表しています。
(シャンパーニュは熟成期間が長いため、これらの新しいボトルを使ったテルモンはまだ熟成中。出てくるのはまだもうちょっと先の話です)
輸送についても空輸は禁止。ほか、オフィスでは再生可能エネルギーのみを使用、畑では電動トラクターを使用など、努力を積み重ね、2030年までにクライメートポジティブ化(温室効果ガスの排出量より吸収量が上回る状態)を最初のステップにしています。
おっと、そんなことを言っても今回、ジャスティンさんは飛行機で日本まで来たんでしょ? という意見はごもっとも。
そこでテルモンはこういった出張については、その分のCO2排出量を算出し、追って回収するべきツケにしています。また来訪先では、さまざまな環境に対しての取り組みをしている団体とのコラボレーション等を行っていて、前回はmore TreesとTreeful Treehouse、今回は「エコロッジジャパン in 雪国」との協業を発表しています。
ただし、あらゆる企業活動の継続において、環境に対してのポジティブ化はもはや避けて通れない道でしょう。そう遠くないうちに、ここを達成できない企業は、いまの地位を維持できなくなるはずです。シャンパーニュ界隈でも、すでにそこでの下剋上が起こっていると私は考えます。
だから、環境に対してポジティブ化した先に何を表現するのか? どんな価値を世界にもたらすのか? が、次の競争軸となるように私にはおもえます。
これは私の私見ですが、味わいについても、テルモンは大胆な挑戦をしています。毎年、同じ味の再現を目指したり、同じレシピで造るほうが一般的なシャンパーニュにおいて、テルモンは、その時その時の自然とテルモンの状況に合わせて表現を変えてきます。今回、皆さまと楽しんだ完全オーガニックの『レゼルヴ・ド・ラ・テール』はまさに象徴的で、実は同名の作品は、これまでも存在していました。しかし、2024年、テルモンのオーガニック化がより進んだことを反映して、ビッグマイナーチェンジを行ったのです。結果、味わいも以前のものとかなり変わりました。
出会うたびにどこかが変わっている、何かニュースがある、もっと言うと常に今っぽいのはテルモンの面白さです。
一方で、テルモンの同一性はどこで担保されるのでしょうか? それは、軽快感だといえるとおもいます。これは、ほとんどのシャンパーニュにおいて、あまりよい価値観とはされていないものです。それは軽快と重厚は矛盾するもので、重厚のほうにより価値があるという、一種の固定観念があるからではないかとおもいます。テルモンは重厚であってもなお軽快である、というシャンパーニュに挑戦しているように感じられてなりません。現在のテルモンは、まだこの両立に完全に成功したとはおもえません。ただ、ごく僅かなシャンパーニュの造り手は、この挑戦に成功して、唯一無二の存在になっています。私は、テルモンがそれら偉大な先輩とはまた違ったバランスを発見し、彼らと並び立つ存在になるのではないか? と期待しています。さらに、挑戦的な彼らは、ひとつの答えを出したら、今度はそれも刷新するのではないか? というワクワク感まで覚えています。
今回、イベントに参加してテルモンを味わった方も、そうではない方も、いま一度、彼らの最新作を味わってみて欲しい、そして願わくばテルモンが内包しているイノベーションの予感に、一緒にワクワクしませんか?