精進料理から着想を得たアミューズとファミリースタイルのメイン料理

ここで二人から、改めて説明がある。「Ayatana」で提供する料理は、タイの古典料理に基づく伝統食文化を伝えるものであること。コースは三部構成で、精進料理をテーマにした5種のアミューズブーシュで始まること。

アミューズブーシュの一例。みかんの果肉でキャラメリゼした豚肉を包み、サフランを添えた一品

「ここでいう精進料理は、ベジタリアンフードのことではなく、五色五味五法(5つの色、5つの味付け、5つの調理法)という法則を踏襲しています」と、ボーが言う。甘味、塩味、苦味、酸味、旨味からなるタイの五味と、焼く、燻す、蒸す、茹でる、生という5つの調理法。加えて、緑、赤、黒、黄、白という5つの色も大切にし、見た目から味わい、食感まで、あらゆる要素の「調和」が感じられる皿を完成させると言うのだ。

アミューズブーシュの一例。北海道産ほたての柚子漬け、自家製クリスピーライスケーキ。ねっとりとした食感でホタテの甘味が際立つ

続くメインディッシュは、彼らが「ファミリースタイル」と呼ぶ取り分けスタイルで供される。この「ファミリースタイル」は、タイの宮廷では伝統的なものだそうで、サラダ、スープ、カレー、炒め物、蒸し物、そしてオーガニックライスから成る。最後は、レストランに併設された京都市内初のタイのデザートアトリエ「カティ」で作るデザート、プティフールだ。

テーブルに場所を移し、コースの提供がスタートした。キャラメリゼした豚肉をみかんの果肉で包み込んだ一品、ずわい蟹のレッドカレーにえんどう豆のプディングなど、どれも緻密な味づくりで洗練されていて、鮮烈な香味や辛味、辛味と甘味のバランスなど、タイ料理の骨格が感じられるものだ。料理と一緒に供される、五味五法のチャート「料理のコンパス」も興味深い。特筆すべきは、ホタテの一品。新鮮なホタテは柚子とラードでマリネしてしてあり、フレッシュながら水っぽさはなく旨味は凝縮していて、しっかりと弾力のある食感も印象に残った。 

メニューに「ご飯と共に」と書かれたメインディッシュ。鹿肉グリルとうぐいす豆のサラダ、京味噌のココナッツレリッシュ、車海老の猟師風スープほか。ご飯は、有機栽培の日本米を炊いたもの

一般的な一人一皿のコースに慣れ切っているので、「ファミリースタイル」のメインディッシュは、初めはややフォーマルさを欠くように感じ、「正しく味わう」のに適切な取り分けができているか否かに気がいってしまったが、食べ進むうちにおいしさの説得力が勝ってくる。すべての料理を自分の皿に取り、オーガニックライスと合わせて好きなように食べる。インドのミールスのように混ぜるのもあり(というより、推奨された)。テーブルを囲む参加者同士の間にこれまでのファインダイニングにはないコンフォートな空気が生まれたのも事実だ。

コースの最後は、タイの要素を取り入れた和菓子から好きなものを選び、「Ayatana」オリジナルの緑茶とともに。カラフルで美しいプレゼンテーションに歓声が上がる