ロゼワインは、いま最先端のワインのひとつではないだろうか?

MHD モエ ヘネシー ディアジオが取り扱うコート ド プロバンスのロゼワインメーカー「シャトー ガルペ」の『クリュ クラッセ ロゼ』を味わうと、そう感じずにはいられない。

1本7,000円のロゼワインだって!?

2022年の夏だったと思い出した。

1本7,000円(厳密には6,800円(税別))という希望小売価格をつけているロゼワインを味わう機会があった。少しの歩行でも十分に厳しい炎天下のある日だった。

異世界とも言うべき爽やかな発表会場に滑り込んだ私の目前には、ロゼワインの聖地、南仏、コート ド プロヴァンスの美しい風景と、その優れた環境を大切にしながらワイン造りをしていることを熱心に紹介するワイナリーのディレクターの姿があった。

高級ワインを味わうには、自分の余裕がなかったこと、ロゼワインでこの価格!? という偏見が邪魔をして、ワインにちゃんと向き合えていなかったことを、先ごろ、この「シャトー ガルペ」というワイナリーの『シャトー ガルペ クリュ クラッセ ロゼ』を、あらためてゆっくりとテイスティングして思い知った。これは凄いワインだ。

軽量(499g)の80%リサイクルガラスボトルに75%が自然由来のワックスキャップという環境性能の高いパッケージング

タンニンのない高級赤ワイン、あるいは発泡していない高級シャンパーニュ、とでも言えば良いのか。いずれにしても、同価格帯、あるいはその上のレンジの他のワインと比べてもいささかの遜色もない液体だった。

奥ゆかしい香り、複雑でありながら常に滑らかなテクスチャー、旨味を支える塩のニュアンス、後半にかけて溢れ出すように支配的になってゆく美しい酸味、長い長い余韻。いわゆるロゼワインといってイメージされるものとは、そもそもからして目指しているところが違う、という印象だった。

将来性込みで考えればお買い得では?

ロゼワインの基準を低廉なそれに置くなら『シャトー ガルペ クリュ クラッセ ロゼ』の格は、2つほど高いとおもう。

ロゼワインは、赤ワインや白ワインに比べて、簡単に造れるとか、気軽に飲めるとかいった要素をして、高級ワイン(ファインワイン)の文脈で語られることはあまりない存在だった。それは別に悪いことではなくて、そういうものだった。

そこに一石が投じられたのは、いまから10から15年くらい前だ。プロヴァンスの造り手が、明確な意図を持ってロゼのファインワインを造り、世界に打って出るようになった。

シャトー ガルペで言えば、歴史的に評価が高く、1955年に「クリュ クラッセ コート ド プロヴァンス」という格付けを得た畑を大切に保全しながら、その畑(69ヘクタール)を細かく区画に分けて管理し、区画ごとに収穫、最新のプレス機で搾汁した果汁を、適宜、樽を使用して醸造、収穫から3カ月後に最終ブレンドを行い、4から5カ月、澱とともに熟成してしてからリリースする、という、ファインワインと同等の造り方で『クリュ クラッセ ロゼ』を造っている。

ブドウ畑のほかに77ヘクタールもの保護林を管理しているシャトー ガルペ。その環境は、世界に12箇所しかないミツバチの女王蜂の繁殖ステーションのひとつ、というとんでもないナチュラル具合

当然のことながら、こんな手間暇をかけたワイン造りをすれば、出来るワインの価格は高くなる。旧来のワイン好きであれば、ロゼワインに5000円も1万円も払う気持ちにはなかなかなれないだろう。ところが、フランス、アメリカの若者を中心に到来したロゼワインブームがこれを支持した。この若く幸福な共犯関係が、ロゼワインを先鋭化した。

シャトー ガルペも、その潮流と無関係ではない。というのも、このワイナリーは、2019年にモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン社の傘下に入って大改造を受け、2020年より有機栽培へ転換、2021年に『クリュ クラッセ ロゼ』をリリースしたところに、現在の原点があるからだ。(現在、日本の有機認証取得も進めている)

その際は公言されていなかったのだけれど、かつてクリュッグの最高醸造責任者としても活躍したエリック・ルベルがコンサルタントで加わっているとのことだ。なるほど、この巧みな仕上げと妥協ない完成度の理由の一端はそれか、と説得力が増すように感じられる。

ブドウ樹の間にはあえて一種の雑草を残す。土壌の調整、害虫の誘引など、複数のメリットがある

そして、そうなってくると現時点でもファインロゼワインという新しいワインジャンルの一つの到達点を見るような最新最高峰のワインといった印象だけれど、この若いワイナリーは今後、作柄によってはさらにレベルを上げた作品を出す可能性も十分にあるわけだ。少なくともこの数年でこのレベルを下回るものをうっかりリリースするようなことはないだろう。こうまで凝った造りだから、当然、長期熟成での発展も視野に入っている。

この手のトップエンドのロゼワインは日本ではまだ珍しいものの、世界のマーケットには同じくプロヴァンス産ですでに評価が定まっていて、もっと高価で売られているものもある。そういうものも視野に入れるなら、シャトー ガルペは現状まだ、お買い得感があるのかもしれない。ちょっとした投資感覚で手を出すのも面白いワインのはずだ。