クレドールから、新たなデザインのドレスウオッチが誕生した。その名も「Kuon(クオン)」。モデル名は、漢字の“久遠”に由来し、手作業で丁寧に磨き分けられる流麗なケースとブレスレット、そして磁器ダイヤルの豊かな輝きに心を奪われる1本である。
グランドセイコーの急成長と同様、全世界からのさらなる注目にも期待!
「クレドール」とは、1974年に誕生したブランドだ。貴金属素材を用いたセイコーの「特選腕時計」をグループ化することで生まれたブランドの背景を象徴するべく、“CRÊTE D'OR”はフランス語で「黄金の頂き」の意味を持つ。
そのブランドコンセプトは、後に熟練職人の高度な技を盛り込むハンドクラフトへと広がり、現在に至っている。そして2019年、クレドールはグランドセイコーに続いてセイコーブランドからの独立を果たし、ラグジュアリーウオッチブランドとしての一歩を踏み出した。これまでセイコーという大きな傘の下にあったが、クレドールはいま、独自の展開を見せているのだ。
ちなみに、2017年に独立を果たした「グランドセイコー」の躍進ぶりは、ご存知の通りである。改めてその造りの良さが海外に再評価され、現行アイテムはもちろんヴィンテージマーケットにおいても、グランドセイコーの人気が高まったことは記憶に新しい。その同様のストーリーを、クレドールも歩むものと考えられる。近年は超高額モデルのリリースが目立っていたクレドールだが、これからはそうではない。ハイエンドなモノづくりと、その技術を応用したドレスウオッチの新たなる境地を、リアルに手の届く価格帯でも見せてくれるはずだ。
その新たな方向性を示すように登場した本作は、ステンレススチールを徹底して磨き込んだ柔らかなフォルムが特徴だ。ケースサイドを大胆にえぐり、洒脱な軽やかさを表現。同時に、光の反射を利用したプレシャスな質感を生み出している。これが、これまでになかったエレガンスなのである。いや、あるにはあった。しかし存在していたのは一部の超高額モデルであり、この美しさを100万円代で実現している点が特筆に値する。
ケース上面、横面、下面それぞれに施された大胆な3D曲面。しかもそれぞれの面を隔てる稜線を持ち、丁寧に磨き分けが行われている。ステンレススチールであっても、徹底的に磨き込むとこんなにも美しい質感を生み出すことができる……まるでスイス3大ブランドの文脈である。この群を抜く美しさを評価しない愛好家はいないはずだ。
ケース同様に、ブレスレットの美しさにも言及したい。7連の小ゴマは、腕に沿わせたときの吸い付くような感覚がたまらない。腕と接する内側の面も滑らかな曲面としていて、装着感の向上を図っているのだ。
ただし、この心地良さは実際に腕に着けてはじめて納得できるものかもしれない。静止画像よりも、腕に身に着けて生活シーンのなかに溶け込むなかで、はじめて際立つ“美しさ”である。
そして、ダイヤルである。磁器にガラスの釉薬を塗り、高温焼成によって作られた文字盤は、格調の高さを物語っている。
しかも、バーインデックスのダイヤルは、インデックスとロゴすべてが転写による上絵付けによるもの。これまた工芸レベルの扱いであり、スイスでも3大ブランドクラスの職人技である。
ムーブメントの地板に装飾された、波模様も出色の出来。湧水がたおやかに流れるせせらぎを表現していて、スプリングドライブの連続して針がスイープしていく様と呼応する。香箱にはぜんまい2つが収められ、72時間のパワーリザーブを生み出すというから、実用性も申し分ない。香箱の右隣の小針は、パワーリザーブ残量表示だ。
このモデルは、現在の時計市場で最も注目されている“スポーツエレガンス”趣向にも見えるが、とてもエレガントなデザインなので、既存のどのモデルとも似ていない独自性を宿している。
このモデルが、世界で大きく評価されるまでに、それほど時間はかからないだろう。