『シャンドン』とは、シャンパーニュをリードする大メゾン『モエ・エ・シャンドン』を1930年から率いたジェットセッター ロベール=ジャン・ド・ヴォギュエがシャンパーニュそのものだけでなく、そのノウハウを世界に輸出する、として、1959年に生み出したスパークリングワインのブランド。アルゼンチンを皮切りに、カリフォルニア、ブラジル、オーストラリア、中国、インドで高品質スパークリングワインを造ってきたのだが、なんとフランス生まれのシャンドンが登場した!
え、それってアリ?
久しぶりのシャンドン新作『シャンドン シャン デ シガル』が登場した。その概要には驚くべきところが2つある。
1.フランス産である。
フランスの至宝 シャンパーニュ。その伝統のノウハウを世界に広げるとともに、革新を連続させて伝統を紡ぐというシャンパーニュのフロンティア精神を体現した、スパークリングワインが『シャンドン』である、という認識を裏切ってのフランス産。
2. 元ドン ぺリニヨンの最高醸造責任者リシャール・ジェフロワと元クリュッグ最高醸造責任者にして現クリュッグ副代表兼取締役 エリック・ ルベルが監修している。
ともにシャンパーニュ最高峰のメゾンを長年牽引した二人。リシャール・ジェフロワは1990年から2018年までドン ペリニヨンの最高醸造責任者。エリック・ルベルは1998年から2020年までクリュッグの最高醸造責任者をつとめた。ワインのブレンド術においては芸術家を通り越して、もはや神様、みたいな二人が、シャンドンの醸造の技術責任者オードリー・ブルジョアをスーパーバイズした。
確かにシャンドンの公式サイトには「これまで培ってきた歴史や文化を尊重しながらも、常に新しいことに挑戦する、という2つのDNAを合わせ持つ」と書いてあるけれど、こんなのアリ?
謎解きしてみよう
プレス向けの発表会において聞いた話も参考に、なんでこんな驚きの事態になったのかを筆者なりに勝手に紐解いてみよう。
現在世界中で人気なのがロゼワイン&ロゼスパークリングである。シャンドンにはすでにロゼスパークリングがあって、十分人気だけれど、やっぱりロゼといったら南仏、プロヴァンスは外せない。そして、南仏といえば夏がステキであって、南仏の夏ならやっぱりロゼでも、スパークリングが飲みたい。氷なんか入れちゃったりして。だったら、スパークリングワインの王様、シャンパーニュを背景にもつシャンドンで、そこに乗り込んで行こう、というのが、今回の新作企画会議の端緒、と見た。
シャンドンがやるのだから、当然、そんじょそこらのワインではなく、いいワインである必要がある。
じゃあ、まずセミにあやかろう。セミはフランスでは縁起がいい。なにせ、セミの季節である夏は、フランス最大の人気者バカンスのシーズン。そして、北方が都のフランスでは 、夏のまばゆい陽光によって輝く色彩は、有史以来憧れの対象だ。夏の申し子、セミは、しかも、ただ、我が世の夏を謳歌しているのではなく、成虫になるまで長年地中で辛抱強く過ごす、という生態が、人間にはどこか尊敬すべきものに見えてしまう。
というわけで、シャンドンの南仏のいいワインには『シャン デ シガル』(セミたちの歌)と名付けよう。
あえて気圧は低めの微発泡にして、ルックスはキュートでエレガントなロゼワイン。でも口に含めば、シュワっとはじける、というのが気が利いていて、いいではないか。
そして、南仏のいいロゼワインといったら、グルナッシュ、サンソー、シラーそれにロール、ムールヴェードルなどといった、複数の南仏らしいブドウをブレンドするのが定石。ブレンドでスパークリングワインを造るといえば……シャンドンと同じグループに神様がいるではないか!
光には闇を、闇には光をブレンドすることによりアウフヘーベンを起こすワインの哲学者リシャール・ジェフロワ。数千のワインの音色からオーケストラを奏でる指揮者、エリック・ルベル。対照的ともいえるスタイルのこの二柱の先輩にアドバイスをもらおう。
と、こうして、オードリー ・ ブルジョア率いるシャンドンチームが生み出したのが『シャンドン シャン デ シガル』である……かもしれない。
え? テイスティングしてどうだったかって? そんなのいいに決まってるじゃないですか。ウソだとおもうなら、飲んでみてください。価格は3,550円(税抜)なんですから。