「JEWELS OF THE NEW WORLD」と題して開催されたチリワインと宝石とのペアリング。こちら、チリワインの知られざる側面を訴求しようと、アジア圏の複数の国々で開催されたコンチャ・イ・トロ社主催のインターナショナルイベントです。私たちはまだまだ、チリワインの本質に気づけていなかったのでした。
じつはポテンシャルが高い、チリワイン
皆さんはチリのワインにどんなイメージを持っていますか? ン、安くて美味しい……って、それもそうなんですけど。
“チリカベ”っていう呼び名があります。チリ産のカベルネ・ソーヴィニヨン。フランス・ボルドーを発祥とするカベルネ・ソーヴィニヨン品種ですが、チリで造られるカベルネ・ソーヴィニヨン品種のワインは、ちょっと値札を疑うほどにお安いっ。
ところが意外とイケるのは皆さんご存知ですよね。むしろ熟成ポテンシャルを気にすることなく、買ってすぐ飲む気軽さで、ホームパーティでガブガブいただくならチリカベで決まり! なんていう人もいると思います。チリカベは1980年代頃にフルーティな酒質設計かつ機械化で大量生産することで大ヒットワインになったのでした。以来、チリワインは、チリカベよろしく、コスパな印象だけが独り歩きして現在に至ります。
ところが、チリとは皆さん世界地図を振り返ってもらえば分かるように、ものすごく長い国土を持つんです。南アメリカ大陸の南北に4274キロ。日本も北海道から沖縄まで南北およそ3000キロと相当なものですが、それより1000キロ以上長い! 国土の東側には6000メートル級の山々が連なるアンデス山脈がそびえ、南太平洋ではフンボルト寒流が大陸を沿うように流れています。そして、首都サンティアゴから飛行機とバスを乗り継いだ先には砂漠もあります。つまり、チリの国土には非常に豊かな気候風土(テロワール)があるのです。
そう、チリとはテロワールの宝庫。そのポテンシャルの高さを、コスパ一辺倒で片付けていたのが、これまでの私たち。あぁ、誠に残念な話です。
大自然が育む宝石、そしてプレミアムワイン
私、宝石に明るいわけではないですが、チリはラピスラズリの原産国として非常に有名だそうです。石灰岩に花崗岩質のマグマが貫入して接触変成、その後に硫黄成分の交代作用があって生成したと考えられているそう……って、受け売りの情報でごめんなさい。要するに、悠久の時間の流れのなかで大自然が奇跡的に作用した産物が宝石だと認識しています。
一方で、ワインは人の手を介して造られるわけですから、自然が勝手に提供するものではないのですが……ふんだんに自然の恵みを受けて、葡萄が育つ点では一緒。そして、さまざまなテロワールのなかには葡萄の栽培にとても適した土地が見つかるのも当然です。
実際、チリの選ばれしテロワールに育まれ、プレミアムなワインが造られてきました。その高級路線を手掛けている会社のひとつが、今回のイベントを主催したコンチャ・イ・トロ社です。コンチャ・イ・トロ社は、1883年に創業。スペインの名門貴族がボルドーからブドウの苗を持ち込み、チリで畑を開拓したのがはじまり。ボルドーのメドック格付け1級シャトーを経営するバロン・フィリップ・ド・ロートシルトとのジョイントベンチャーを設立、成功を収めたことでも話題となりました。
話を巻き戻して、冒頭から「あっ!」と思ったワイン通の皆さまは、チリのテロワールに思いを馳せたからではないですか? 宝石は、アンデスのテロワールにより、長い年月をかけて形づくられました。そこには気候、土壌、ミネラルが作用します。そしてワインも同様。でも、ブルゴーニュやボルドーについては一生懸命、テロワールを勉強して、ウンチクをつまみにワインを味わいますが、チリについては頓着せずに、ガブガブ対象としてしか見てきませんでした(反省)。
さて、ニューワールドのテロワールについては、まだまだ情報量が薄く、それはこれから少しずつ勉強していかなければいけません。でもその前に、チリという国名だけでコスパだねっ! と片付けず、そこにはさまざまなテロワールがあるとことに思いを馳せる、というのが今回のイベント主旨。そして宝石の豊かな色彩とともに、エモーショナルな体験を通じてチリワインを捉え直すというのが主目的です。
コンチャ・イ・トロのプレミアムワイン
ここからはイベントでフィーチャーされたワインを個別にピックアップします。
例えば、オパールの透明感に例えられたのが、「TERRUNYO」。こちらソーヴィニヨン・ブラン品種なのですが、有核果実のような熟した香りがなく、もっとミネラル感に溢れ、冷涼産地らしい特徴が存分に出ています。草のニュアンスがあるのですが、スモーキーなニュアンスがない。つまりニュージーランドとも、ロワールとも異なるソーヴィニヨン・ブランです。私、この銘柄をはじめて口にしたのですが、これがまたひたすらピュアな味わい。なるほど、これがチリのテロワールか! つまり冷涼な土地なのだと感じます。
ラピスラズリに例えられたのが、「Amelia」。チリの北部、アタカマ砂漠の隣接地域で造られるピノ・ノワール品種です。南半球の北部とは、赤道に近いほう。すなわち暖かく、気候区分では「ステップ気候」に属します。ところが、“砂漠に隣接”というのがミソなんですね。土壌に砂質成分が多いと保水力が弱まり、適度なストレスで果実が熟しすぎず、爽やかな葡萄が育まれます。
このピノも、とてもフレッシュ。赤系果実の瑞々しさが表現されています。ところが同時に、数年熟成したかのような落ち着きが出ているのです。2021年ヴィンテージと、まだ若いのに。ピノ・ノワール品種特有のケモノ臭がなく、素朴。うーむ、こちらもブルゴーニュとは異なります。
ちなみに、私が最も印象に残ったのは、「Carmin de Peumo」。こちらはロードクロサイト(インカローズ)という宝石に例えられています。ブドウ品種としてはカルメネール。ボルドー発祥の品種ですが、フランス本土ではフィロキセラによる壊滅的な打撃を受け、チリに渡ったカルメネールだけが残っているという逸話があります。この品種はメルローに似た特徴を持っているのですが、冷涼地のメルローのように、柑橘の香りを伴う涼やかさがありました。適度な膨らみで水太りしておらず、タンニンが控えめながら、均整が取れています。
こうした味わい、ほかの産地ではないんですよ。私の知る限り。ありそうでない。ほかの産地とじつは異なる。やはりところ違えば、味わいは異なるのです。その違いを楽しむのも、至上の喜び。
と、今回のイベントでの気づきはここまで。チリワイン=コスパと、決めつけることなかれ。テロワールから引き出される特徴を丁寧に紡ぐと、当然、オリジナリティに溢れるワインとなるのでした。今回のイベントでは、それが宝石というバイストーリーで演出され、出席者に訴えかけていたのです。
こちらのページには、イベントで登場したアイテムの詳細な説明が記されています(https://wineanddoors.jp/view/page/jewels)。「宝石を選ぶように、ワインを選ぶ。」たしかに宝石を選ぶのに、第一印象が重視ですよね。宝石が形成された背景にはテロワールによるさまざまな条件があるのですが、やっぱり宝石を選ぶ時の決め手は、ビビっと来るインスピレーションです。
それを、ワインに置き換えてみようというのがコンチャ・イ・トロのメッセージ。確かに、それならばワインに詳しくなくても、今日から取り入れられそうです。
うーむ。プレミアムなチリワイン。これからもっと人気が出そうな予感がしています。。