文=のかたあきこ 写真=長座 湯元、のかたあきこ

貸し切り露天風呂「雫の湯」。巨石をくり抜いたダイナミックな造り

昔話の世界に迷い込む古民家の温泉地

 岐阜県高山市にある奥飛騨温泉郷は、北アルプスの麓、標高1000mの地に位置する。「平湯、福地(ふくじ)、新平湯、栃尾、新穂高」の5つの温泉地が点在し、中でも福地温泉は12軒の宿が温泉場づくりに励み、宿泊客を楽しませることで知られる。JR高山駅からバスで1時間ほど、静寂に包まれる秘境の温泉地だ。

築100年以上の豪農屋敷は堂々たる佇まい

「湯元 長座」は、古民家の佇まいと温泉風呂が素晴らしい旅館。通りに面した門から長いアプローチを歩き進むと、築100年以上の豪農屋敷を移築した建物が表れる。初代が「日本の原風景を取り戻したい」と古民家を移築、手入れを丁寧に施して現代に蘇らせている。

囲炉裏の間を併設する吹き抜けのロビーは憩いの場

 玄関の引き戸を開けると、吹き抜けのロビーと、熊の毛皮が敷かれた囲炉裏の間がある。縦横に走る太い梁や三尺もある欅の鴨居など、屋敷のスケールに驚く。二代目女将の小瀬礼子さんは、「嫁いだ時、ここは昔話のような世界だと思いました」と話す。「火をおこすことひとつをとっても、先人の知恵を活かした田舎暮らしに、現代人は学ぶことが多いと感じます」