文=鈴木文彦 イラスト=ナガノチサト

ワインとフランス文学のスペシャリスト、鈴木文彦氏が指南する、ワイン選びの極意

今回の質問者

「コロナ禍になって、ノンアルコールワインを出すお店が増えたように思います。正直、味はどうなんでしょうか?」(30代・営業)

 

 新型コロナウイルスの蔓延によって、そもそも、ブームの兆しをみせていたあるジャンルのワインの人気が加速しています。それが、低アルコール・ノンアルコールワインです。

 アルコールへの風当たりが強い中で、ワインのプロからも、家庭からも注目があつまっている、というのは、想像がつきやすいところかともおもいますが、このノンアルコール・低アルコールワインは、ウイルス騒動以前から、注目が集まり、ビジネス業界からも成長市場と注目されていました。

 ちなみに、こういうまどろっこしい言い方をするのは、アルコール分が0.05%以下の「ノンアルコール飲料」、アルコール分が0.05%以上1.00%以下のものを「低アルコール飲料」というのが世界的には一般的で、日本の法律上は、1%まではノンアルコールを名乗れる、と、細かな差異があるからです。

 今回は、基本的にワイン関連の飲料の話をするので、ワインテイスト飲料と呼びます。

 

ワインテイスト飲料が成長している理由

 ワイン自体は、ゆるやかにダウントレンドのなか、ワインテイスト飲料が成長市場と目されているのには、2つの理由があります。

 ひとつが、食事にお酒を合わせることは、必ずしも社交で必須のこととも言えなくなったことです。ボーダレスであること、選択にあたって自由であることの価値が高まっている現在、お酒を飲む人と、飲まない人が、同じテーブルにつくこと、アルコールのあるなしで価値判断しないことが常識的になり、それまで、クルマの運転があるから、などといった消極的な理由で選ばれていたワインテイスト飲料が、より積極的な選択肢に入るようになっているのです。

 また、これはお酒の世界だけに限った話ではありませんが、自分が身につけ、食べたり飲んだりするものが、社会的倫理に照らした際に正しいのか? ということも、より大きな問題となっています。動植物や自分自身を搾取し、社会に驚異を与える贅沢は、かっこいいものとはならなくなっています。オーガニックや自然派のワインが流行している一因もここにあります。そういった、健全・健康のブームも、ノンアルコール・低アルコールの人気を後押ししています。

 ここに、新型コロナウイルスの蔓延が来たため、言い訳的選択肢での食中飲料としても一躍、有力な存在となり、一時期、ワインテイスト飲料は、争奪戦といってもいいような状況にまでなりました。

 需要があるのであれば、競争も増え、造り手側もより真剣になるというもの。ワインテイスト飲料の造り方は、ワイン並み。あるいは、アルコールに頼れない分、ワイン以上に工夫がつまっていると言えるかもしれません。これからさらに、美味しく、多彩になっていくことでしょう。

 

「ワイン」と「ワインテイスト飲料」は何がちがうのか

 ところで、ワインテイスト飲料に、なぜ、アルコールが入っていないのか、ワインと何がちがうのか、ご存知でしょうか。今回はこのワインテイスト飲料の造り方を紹介し、また、造り方が違うワインテイスト飲料を紹介したいとおもいます。

 ワインテイスト飲料には、いくつかの造り方があります。大きくいうと、ワインを造ってからアルコールを取り除く脱アルコール法と、そもそもアルコール発酵をさせない方法に分かれます。

 脱アルコール法は、そのなかにいくつかやり方があって、まず代表的なのは、ワインを熱してアルコールを飛ばす方法です。蒸留酒ではアルコールを得るためにやる方法ですが、脱アルコールする際は、アルコール以外を得るために蒸留します。加熱による味や香りへの影響をおさえるために、沸点を低くするべく、空気圧を下げて行うので、減圧蒸留法などとも呼ばれます。

 アルコールと水だけを通すフィルターを使うことで、アルコールを分離する方法もあり、これは、逆浸透膜法などと呼ばれます。この方法だと、アルコールとともに水分も減るので、水は別途足すことで、アルコールを減らしてゆきます。この方法は、海水から淡水を造る際にも利用されたりするものです。

 スピニングコーンカラムという特殊な装置を使う方法もあります。この装置は、ワインを一度通すと、蒸発する香りの成分を回収でき、二度通すと、アルコールを回収できます。二度通して、アルコールを回収したあとのワインに、一度目に回収した香りを戻すということをします。

 これらの方法で生み出されるワインテイスト飲料は、元は本物のワインであり、そもそもワインが持っていた要素を持ち続けている、というのが強みです。とはいえ、アルコールとともに、なにかしらがワインから失われるのを完璧には避けられない、というのが弱点になり、このデメリットをいかに克服するかが造り手の技術の見せ所になります。

 一方、そもそもアルコール発酵させない、という造り方もあります。非発酵法とでもいえばいいでしょうか。普通に果汁を絞ればジュースになり、ワイン的に造ると、発酵が起きてしまうブドウ果汁を、いかに、ワインらしく、しかし発酵させないか、が、こちらの場合では腕の見せどころとなります。

 これは通常のワインのように造るけれど、ブドウの収穫時期を早めて、そもそも糖度の低いブドウを収穫する、温度を下げることで酵母を活動させず発酵をさせない、ブドウの種や酵母を風味付けのために使う、といったことをします。

 これら4方式は、方式による良し悪し、というよりも、造り手の技術力、また、造り手がどんなワインテイスト飲料を造りたいか、によって選択がことなります。同じ造り手でも、造るものによって、いずれかの方式を使い分けることもあります。

 いずれの場合も、ワインの偽物と、と考えてしまうのは、もったいないようにおもいます。そもそも、ワインテイスト飲料は、アルコール分がないか、極端に低いので、アルコールに由来するボディ感、香りや味を求めてしまうと、そこは、肩透かしをくらってしまうでしょう。

 ただ、ワインと同様に、舌触り、香り、味わいの複雑さ、余韻などについては楽しむことができ、フードペアリングを考えてみる面白味もあります。ワインの表現のひとつ、として捉えられるものではないか、と筆者は考えています。いまでも、それなりの選択肢がありますが、日本のワイン輸入社も注目しているので、これから、もっと種類豊富になるでしょう。

 今回は脱アルコール法とアルコール発酵をさせないワインテイスト飲料を紹介します。

 ちなみに、いずれの場合もアルコール分がないので、賞味期限があります。ワインのように熟成させよう、などとは思わず、飲んじゃってください。

ピエール・ゼロ
ロゼ・スパークリング NV

希望価格 1300円+税
お問い合わせ
モトックス
HP  https://mot-wine.mottox.co.jp/special/pierrezero/index.html

南仏にて本格ワインテイスト飲料を造る、ピエール・シャヴァンによる「ピエール・ゼロ」シリーズのスパークリング・ロゼ。スピニング・コーンカラム法で造られた脱アルコールワインで、ヴィーガン&ハラール認証も取得。こちらはシャルドネとメルローのブレンドによるロゼスパークリングだけれど、このほか、スパークリングではシャルドネを使用したブラン・ド・ブラン、スパークリングではないものでは、メルロー(赤)とシャルドネ(白)も日本で手に入る。

ジョエア・オーガニック・
スパークリング・シャルドネ

希望価格 1400円+税
お問い合わせ
エノテカ
HP  https://www.enoteca.co.jp/

こちらは上とおなじピエール・シャヴァンによるワインテイスト飲料なのだけれど、日本のエノテカ株式会社が、ピエール・シャヴァンとともに3年間の共同開発の末に生み出したもので、非発酵法を採用。果皮や酵母、ブドウの種、フレンチオークを使ってシャンパーニュをベンチマークに開発されている。オーガニックかつハラル認証取得。ワインとの比較で低カロリーなのも特徴。