レミー コアントロー ジャパンがEUオーガニック認証のフレンチウイスキー「ドメーヌ・デ・オート・グラス(Domaine des Hautes Glaces)」の販売を10月1日(火)から開始した。定番2品、日本限定2品の計4品で日本初上陸。そして、このウイスキーを紹介するため、販売とマーケティングの担当者であるジェラルディン・ル・ガレックさんが来日した。
フランスのウイスキー?
「ドメーヌ・デ・オート・グラス」という2009年創業のフランス産オーガニックウイスキーの造り手の作品群が、このほど、日本上陸を果たした。輸入元はレミー コアントロー ジャパン。つまり、この「ドメーヌ・デ・オート・グラス」はレミー コアントロー グループ内のウイスキーブランドだ。
これ、お酒が好きな人ほど“?”ってなるようにおもう。フランスには確かに蒸溜酒を愛好する文化があるけれど、ウイスキー産地といえばスコットランドにアイルランド、大西洋を挟んでアメリカ、カナダ、そして太平洋の向こうのここ日本。酒のプロ、世界のレミー コアントローがこれと見込んで日本に殴り込み、というからには、それなりの理由があってことだろう。その理由とはなんだろう?
名前もちょっと変わっている。ドメーヌなんて、なんだかブルゴーニュワインのワイナリーみたいではないか。それに続くDES HAUTE GLACESというのは複数形の「高い氷」。樹氷みたいなイメージ? それともそういう地名がフランスには存在しているのか?
そんな「ドメーヌ・デ・オート・グラス」の事前情報の“?”が、同ドメーヌの販売とマーケティングの担当者であるジェラルディン・ル・ガレックさんが来日して行われたテイスティングと解説のセッションで解決し、かつ、私はこのウイスキーに大いに興味を惹かれたので、ここで紹介したい。
生まれ故郷は山の中
結論から言うと、このウイスキーはワインっぽいというか、その生まれ故郷を表現している「旅したような気持ちになれるお酒」だった。
オートグラスという名前はアルチュール・ランボーの詩の中に登場する言葉だそうで、雪をかぶった高い山のイメージなのだそうだ。ドメーヌはトリエーヴ(Trièves)山地というところにあり、そこは周囲を山に囲まれた標高900mの平野とのこと。日本で言えば長野県松本市みたいな感じ? 近隣の比較的有名な街はグルノーブル。とはいえ、グルノーブルからトリエーヴまでは南にクルマで45分ほど。もっとざっくりと言うと、リヨンとマルセイユのおおよそ中間地点だ。
このトリエーヴという土地は穀物の栽培が盛んで、地元の大麦、ライ麦、スペルト小麦、裸オーツ麦などを使ってウイスキーとスピリッツ(オー・ド・ヴィー)を造っている、というのが「ドメーヌ・デ・オート・グラス」のあらまし。創業者はフレデリック・レヴォルという農学者でもある農園経営者で、この地の穀物農園を循環型の健全なものにするべく、化学的なものを土壌に入れず、連作を行わず、栽培の際には耕さないというナチュラルな農法を実践。さらに畑の周囲は森林・草地として保全しているのだそうだ。
ここで私は、ははーんとおもった。自然と共生する酒というところがレミー コアントローがこの造り手に注目した理由のひとつだろう。レミー コアントローは日本でも人気急上昇のシャンパーニュ メゾン「テルモン」をはじめ、環境に対してポジティブなものづくりを極めて重視する組織だからだ。
穀物の違いを表現できるのか?
とはいえ、である。穀物の良し悪し、その個性の差は最終的なウイスキーにどこまで影響するのだろう? ウイスキーというのは蒸溜酒だ。穀物と水から造られる液体は薄いビールのようなもので、アルコール度数も7%程度。これを加熱して、蒸発したアルコールを集め、その集めたアルコールをもう一回加熱して集めたアルコール度数の高い液体を、水で割ったものがニューメイクとかニューポットとか呼ばれるウイスキーの原酒。この原酒を、さらに樽で何年も熟成してウイスキーはできる。つまり穀物からウイスキーまでの距離は結構遠い。
そして一般的には、蒸溜所はその蒸溜所の核となる原酒を生み出し、これに、熟成年数の違い、樽の違いなどで変化をつけ、商品ラインナップを構成する。もちろん、原酒に使われる穀物が大麦かトウモロコシかライ麦かといった穀物品種の違いもウイスキーの重要な違いになるけれど、同じライ麦だけれど、そのライ麦の育った土地の土壌が違う、といったところで商品を分けることはそうそうない……はず。「ドメーヌ・デ・オート・グラス」はそれをやっているのだ。
このスタイルをして「ドメーヌ」と言っているものとおもわれるけれど、ブルゴーニュ地方に大量の「ドメーヌ」を名乗るワイナリーがあるのは、同じブルゴーニュの同じブドウ品種でも、いつどこでどう育ったか、ごく僅かな違いで結果として生まれるワインが全然違うから。
蒸溜酒で、トリエーヴなる地域の麦の生産地の差で、そんなに違いが出るのか? さしたる違いがないならば、冷たいことを言えば、それは造り手の自己満足の範疇で、飲む方には大した影響がない。
それを実証するためだろう、今回のお披露目セッションでは、日本限定という「エピステーメ R16P24 ■」と「エピステーメ R16P24 ●」というライ麦の生産地以外は同じウイスキーが紹介された。熟成はコニャック樽で6年半。■の方はガベールという粘土質の土地で●はヴュルソンという火山性の土地で育ったライ麦とのことだ。
で、さんざん引っ張りましたが、この両者、全然違いました。
■の方は、土っぽさ、湿った枯れ草のような雰囲気に、リコリス、カリン、オレンジといった風味が加わり、山小屋にいる雰囲気。一方、●の方はかなり刺激的だった。まだ肌寒い高原のようなちょっと花のニュアンスを含んだ香り。口に含むととろりとした滑らかな液体は、ピリッとした刺激とアプリコットやマーマーレードのような甘みがコントラストかつハーモニーになってあらわれ、さらにクラッカーのような旨味、ミントのような清涼感も感じられる。
好みは人それぞれだけれど、私は●の方が好みで、これに使われたライ麦が育つヴュルソンという畑に俄然、興味が湧いた。どうも丘陵地にある畑だそうだ。その起伏が、こういう複雑性、コントラストを生んでいるのだろうか? それに対して■の方のライ麦が育った畑はもうちょっと穏やかな高原なんだろうなぁ……確かに土地の個性が表現されている気がする!
現在のラインナップは4本
というわけで私が好みだった「エピステーメ R16P24 ●」だけれど、現在の希望小売価格は16,000円と■の11,000円(税別)に対して5,000円もお高い(いずれも500mlボトル)のが、今すぐ買って帰ります!と言いづらいところ。どうやら生産量の差によるものらしい。とはいえ、●と同じ畑、ヴュルソンのライ麦を使い、3回蒸溜してステンレススチール容器およびアンフォラで熟成したというオー・ド・ヴィーが7,000円で登場していて、これがまたとてもいいので、こっちを買って帰りたかった。フルーツというよりはハーバルな甘いニュアンスと苦味がコントラストをなし、アーシーでスモーキーでスパイシーな香りと味わいは刺激的でユニークだ。
最後になってしまったけれど、これらの個性的な作品群の中では比較的おとなしいのがもっともベーシックな「アンディジェン」。シングルモルトウイスキーで、アンディジェンは先住民、原住民、土地の特産品といった意味。トリエーヴの複数の区画、複数の収穫年の大麦を、コニャック樽で熟成したものをメインに、様々な樽で熟成したものを混ぜて造るものだそうで、バランス感に優れ、クリーンというか、澄んだ空のような爽やかなウイスキーだった。
以上、日本で現在展開が始まった4種類の作品なのだけれど、1本お持ち帰りしたくなったのにはもう一つ理由があって、それがボトル。輸送効率を考慮したという独特の形状をしたボトルで、素材は「ワイルドグラス」と呼ばれる生産時のCO2排出量が少なく、96%がリサイクルガラス由来というもの。ストッパーには穀物の搾りかすを使っているのだそうだ。それは素晴らしいけれど、それよりなにより、これ、側面に貼られた小さなラベルとともに、ちょっと本のような、独特にインテリな雰囲気を醸し出しているのがいい。
レミー コアントロー的には、せっかく日本市場に持ってきたのだから、知られて欲しいブランドなのだとおもうし、ここまで紹介しておいて言うのも変な話ではあるけれど、このボトルのルックスと中のお酒の知る人ぞ知る感、フランスの職人の手作りの名品感が、実にカッコいいと私はおもう。家に“いつものやつ”的に置いておいて「え? なにそれ?お酒?」とか言われたい。