グレンモーレンジィは限定商品「物語シリーズ」の第4段となるシングルモルトウイスキーを発表した。前回の「森の物語」と打って変わって今度は「東京物語」!『グレンモーレンジィ トーキョー(GLENMORANGIE A TALES OF TOKYO)』は10月11日(水)から順次発売。

グレンモーレンジィ トーキョー
希望小売価格:13,200円(税抜)700ml
アルコール度数:46度

ミズナラオーク樽とビル博士

グレンモーレンジィは新作『グレンモーレンジィ トーキョー』の発表会を当然、東京で開催した。会場には、グレンモーレンジィの最高蒸留・製造責任者ビル・ラムズデン博士もやってきて、今回の新作を説明してくれたのだけれど、面白いのは、ミズナラについての話で……(そもそもビル博士はかなりユーモラスな人物だ)

「グレンモーレンジィはエレガントなウイスキーだが、ミズナラはエレガントでもなんでもないんだ。正直に言ってミズナラはウイスキー樽に向いていない。そもそも木の時点でまっすぐ育たないし、木質がプアだ。樽にするのは大変なことで、苦労して樽にしても、スキマからウイスキーが漏れてしまうことがある。実際、うちでもいつのまにか中身がなくなっていた樽がある。そうやって苦労して熟成させてみると奇妙な風味のウイスキーが出来上がる」

と終始、ミズナラをホメないのだ。

左がビル・ラムズデン博士。右はMHDのシングルモルトアンバサダーとして活躍するロバート(ボブ)・ストックウェルさん。ふたりは、ビルさんが日本語で話しているのにそれをボブさんが日本語に通訳する、など、持ちネタがいくつかある

プレスリリース等によればミズナラ樽(新樽だそうだ)の入手には大変、苦労したそうなのだけれど、博士は「ミズナラ樽なんて使うべきじゃないという内なる声が何度も聞こえた」という調子。せっかくの新作に対して、このふわっと聞いていると美味しくなさそうな発言は広報部署をさぞやヒヤヒヤさせたことだろう……

しかし、博士は何もおかしなことは言っていない。なぜなら、それがミズナラ樽で、それこそがこのウイスキーの特徴だからだ。

ミズナラ樽はビャクダンやキャラなどの香木の香りと樹脂的なフレーバーをウイスキーに与えると言われる。新樽のそれは特に強烈で、ミズナラ樽ウイスキーのパイオニア、サントリーもこれには手を焼いたことが知られている。それと同じことを、ビル博士も経験しただけなのだ。そういうウイスキーは、スコットランドのシングルモルトウイスキーの造り手のなかでも、とりわけクリーンでフルーティなグレンモーレンジィのスタイルと明確に「コントラスト」をなす。

そして『グレンモーレンジィ トーキョー』はこのコントラストが魅力のウイスキーなのだ。

トーキョーはコントラストだった

ビル博士はウイスキーの専門家だから、当然、ジャパニーズウイスキーのこともよく知っているし、1999年に初めて東京を訪れて以来、東京にはこれまで何度も足を運んでいる。博士にとって東京は、コントラストに満ちた街だという。モダンな街並みから一歩、裏道に入ると昭和の面影、喧騒の大通りに面した静寂の庭園、といった具合に。今回の『グレンモーレンジィ トーキョー』は。ミズナラ樽のクセとグレンモーレンジィのエレガンスのコントラストで、このトーキョーのコントラストを表している。

実際、飲んでみると、バランスはすこぶるいい。ブロンズ色の液体からは甘みとハーバルなグレンモーレンジィらしい香りに、ミズナラに由来するであろう香木や樹脂の香りが混ざり合い、すーと爽やかで、上品なサンダルウッドのオーデコロンをおもわせる。味わいにはピリッとしたスパイス、公式のテイスティングノートにもあるようなフェンネルっぽさから、オレンジやビターチェリーの風味への発展性があって、後味に、より煮詰めたような甘さ、オークのニュアンスがある。さすがにそのままだと強いので、少し加水すると、このスイートかつ、サンダルウッドのような、ウッディというよりはすーとハーバルな雰囲気が引き立つ。

ウイスキーとして、複雑性が好ましいし、グレンモーレンジィ好きなら、グレンモーレンジィのもつ、普段はもっと控えめなコントラストが、ぐっとハッキリしているところに「おおっ!」と面白味を感じられるはず。また「ビターチェリーのニュアンスはブルネッロ・ディ・モンタルチーノをおもわせる」というビル博士の発言は、ワイン好きも「ああ、なるほど、たしかに!」というもので、そういうワインっぽい面白さもある。

オフィシャル写真もこの調子だけれど、すごいウイスキーを造っている人です

詳しいことはヒミツらしいのだけれど、ビル博士が「キミは僕の弟に似ているから」という、よくわからない理由で、詳しく造り方を話してくれたので、聞いてしまった話を気を遣いつつちょっと書いてみると、樽はおおよそ、3分の1がバーボン樽、3分の1がオロロソシェリー樽、3分の1がミズナラ樽といったくらいのバランス。熟成はそれぞれ12年から15年という期間のものだそうだ。

限定の新商品だけれど、贅沢に時間を使い、あくまで、基本はグレンモーレンジィ、そこにミズナラを調味料的に程よく加えることでバランスを取った、労作なのだ。

パッケージには東京のあの街この街にグレンモーレンジィが隠れている

パッケージアートは日本の画家・山口晃さんによるもの。新聞や小説の表紙、パブリックアートなど、人目につきやすい作品も多い人物で、特にTOKYO 2020パラリンピックの公式アートポスターを手掛けているので、絵柄に見覚えのある人も多いのでは?

山口 晃さん

グレンモーレンジィのオレンジを基調として、場所も時代も様々な東京の風景が描かれているパッケージには色々な発見がある。

*実際の商品のパッケージアートには、こんなにわかりやすいビル博士はいません

東京のランドマークは言うに及ばず、ラーメン屋、そば屋などの暮らしの風景のなかに、グレンモーレンジィとはなにかと縁のあるキリン(グレンモーレンジィはポットスチルの高さがキリンと同じ、と言い、キリンの保護活動をしている)、グレンモーレンジィのアイコン、蒸留所の創業年・1843年にちなんで18時43分を示す時計、そしてビル博士(5箇所に登場している)、ミズナラ、アーモンド、オレンジ、もちろんグレンモーレンジィのボトルなどが、溶け込んでいるのだ。

と、なにかと楽しい『グレンモーレンジィ トーキョー(GLENMORANGIE A TALES OF TOKYO)』。先述のとおり、造りはとても凝っていて、味わいはグレンモーレンジィらしさと意外性のバランスが面白い。特に、グレンモーレンジィファンには、とてもオススメしたい。