スーパータスカンと呼ばれるイタリア高級ワインのふるさとボルゲリを代表するワイナリー「オルネッライア」は、毎年、ワイナリー名を冠する最上級ワイン「オルネッライア」をリリースするとき、これにアーティストが装飾を施した特殊なデザインボトル、というよりもアート作品を発表して、チャリティーオークションにかける。これをオルネッライアは「ヴェンデミア・ダルティスタ」(芸術家の収穫)と呼んでいるのだけれど、今年も9 月7 日から9 月21 日までの期間でそれが開催されている。

オルネッライア公式ページ:https://www.ornellaia.com/ja/

言語とワイン

イタリア、ボルゲリ出身にして世界最高峰の赤ワイン「オルネッライア」には、毎年テーマがあり、このテーマをもとに、アートピースと一体化した特別なボトルが生み出される。

最新の2020年ヴィンテージのテーマは「ラ・プロポルチオーネ(調和)」。そして、これに合わせた作品を手掛けたのはアメリカ人の現代美術家、ジョセフ・コス―ス。

ジョセフ・コスース(Joseph Kosuth)

複雑なカルチャー・コードを視覚的に表現する「言語による芸術」を追求するコスースは、サルマナザール(9リットル)ボトルに、紀元前のイタリアの建築家、ヴィトルウィウスの『デ・アルキテクチューラ(建築十書)』の第3.1.3 節から引用した文章を英文で配し、プラチナ製のプレートに浮き彫りを施した。

サルマナザールボトル

この作品のほか、「ワイン」という言葉の語源系図 をボトルにエッチングした、アンペリアル(6リットル)ボトル10本(それぞれ、言語とデザインが異なる)、ワインの語源系図をエンボス加工したダブルマグナム(3リットル)ボトル100本が作られ、9月7日から9月21日までの期間「ヴェンデミア・ダルティスタ」として、サザビーズ主催のオンラインオークションに全12ロットがかけられている。

アンペリアルボトルの一部。ボトルの下方の言語がそれぞれ異なる

オルネッライアは、このオークションの収益を寄付しており、寄付先は2019年以降、ソロモン・R・グッゲンハイム財団の、視覚が不自由な人にも芸術作品を楽しんでもらうプロジェクト「マインズ・アイ」プログラム。

さらなるオークションの詳細については、オルネッライア公式ページをご参照を。

通常サイズのボトル。左は通常のラベル、右はヴィトルウィウスの言葉を英文でエンボス加工で表現したラベルが貼られたボトル。右のボトルは「オルネッライア2020」の木箱(750ml/6本入り)に、1本含まれる

と、毎年恒例の行事が今年も滞りなく終われば、そろそろ冬の足音が聞こえ始める。醸造やボトリングの後に休眠するワインとともに、ワイナリーはしばらくの静かな時を迎えるのだ。

一方、人々は、ブドウ樹の冬支度をしながら、収穫祭、年末年始と、ちょっと浮かれた日々を過ごす。

そういう時期の特別な一日に、『オルネッライア』をたのしめる人は、とても恵まれている。そのボトルは何年のヴィンテージだろう? 希少なワインであり、かつ、長期熟成による発展をとても期待できるワインだから『オルネッライア 2020』が実際、いつ飲まれるのかはわからない。30年後が飲み頃だったとしても、別段、驚かない。そんなワインだ。だから気が早いようにもおもうけれど、 最新のオルネッライアがどんなワインかを少し紹介しよう。

オルネッライア 2020のブドウはカベルネ・ソーヴィニヨン50%、メルロー32%、カベルネ・フラン13%、プティ・ヴェルドー5%。その前、2019年ヴィンテージはカベルネ・ソーヴィニヨン62%、メルロー31%、プティ・ヴェルド4%、カベルネ・フラン3%だったので、カベルネ・ソーヴィニヨンが減った分、カベルネ・フランが増えた、といったところだけれど、このあたりは、オルネッライアは特に何らかの決まったレシピや到達すべきスタイルの基準に基づいてワイン造りをしているわけではなく、その年、その年のボルゲリのブドウを最大限活かしたワインを妥協なく造る、という姿勢だから、あまり大きな意味が込められているわけでもないだろう。

2020年に収穫されたブドウは、暖かく雨の多い冬、氷点下にまで冷え込んだ初春、温暖な春、激しい雨に見舞われた初夏、乾燥した夏、そして、収穫の少し前に雨とそれに続く昼夜の大きな寒暖差、その後、メルローを中心とした早熟な品種、早期に収穫すべき区画以外のブドウは、さらに猛暑と雨と、なかなかに波乱万丈な経験をしたそうだ。

それを反映してか、オルネッライア 2020は力感と優美とが、複雑な歯車のように噛み合わさって、静かに、なめらかに駆動するメカニズムのよう。おそらく「ラ・プロポルチオーネ(調和)」という言葉で表現されているものは、そんな印象なのだとおもわれる。

ヴェンデミア・ダルティスタのコスース氏は「「調和」とは、単に要素間の視覚的なバランスだけでなく、世界を構成するあらゆる部分にどんな意味があるかを明確に説明し、これにより、いろいろな概念が生まれるのです」とのこと。

オルネッライアのようなワインであれば、調和を構成する部分部分、ブドウの一粒一粒が経験した物語へと思いを馳せることだって、決して非現実的ではない。ワインからブドウへ、ブドウからボルゲリへ、そして地球とか世界とかいった広いものへと、心を遊ばせる。そんな時間の過ごし方は、この贅沢なワインに、お似合いだ。