「米・水・酵母は言うに及ばず。造った人もプロジェクトメンバーも全員、湘南で育っています」と湘南味は濃厚なれども、スッキリ飲みやすい日本酒『おふしょあ 吟醸』がCraft Sake10周年を記念して発売された。今夏、ギンギンに冷やして海辺で飲みたい日本酒No.1はこれでしょう!
この記事のまとめ
『おふしょあ 吟醸』は気軽にすいすい飲めて、720mlで希望小売価格1,650円とお買い得。飲めば、湘南の風を感じながらの(リアルでも心のなかでも)楽しい時間が訪れます。
以下は、少々長くなるので、先に要点をまとめました。
Craft Sakeのおさらい
みなさん、飲食店が立ち並ぶ界隈の勝手口などを見たことがあるでしょうか? そこにはきっと、白地に緑色で「Mottox」と書かれているダンボール箱があるはずです。
この「Mottox(モトックス)」は日本を代表するワイン商。会社の歴史は1915年(大正4年)にまでさかのぼる老舗で、日本でワイン市場が盛り上がる前は、日本の酒とも長く、深く関わってきました。私たちが普段から、日本で国内外の美味しいワインを飲めるのは、モトックスのような会社が、物流網という血管のなかに、ワインを流してくれているからなのです。
ところで、日本酒というのは、わりと別ルートを流れていて、ワインの血管と日本酒の血管はほとんど混ざり合わないのが実情です。
しかし、日本酒がワインを気にして、ワインが日本酒を気にする関係が状態化して久しいお酒業界。ワインの血管に、日本酒を流してもいいんじゃない? と考えたモトックスは、だったら、普段、ワインばかりを扱っている飲食店や酒販店、そしてそこに来るお客さんが、ワインと同じ感覚で楽しめる日本酒もあっていいんじゃない? と考え、日本酒蔵とともに、そういう日本酒を開発するプロジェクトを2013年にスタート。このプロジェクトから生み出された日本酒を「Craft Sake」と称し、2014年『伊乎乃 純米吟醸』(高の井酒造、新潟県)をその第1号として誕生させました。以来、現在にいたるまで、モトックスは日本全国の19の蔵とCraft Sakeを造ってきています。
さらに、モトックスは現在、そのビジネスの9割がワインですが、実は、海外からワインを輸入し、日本全国に流通させるだけでなく、日本にあるお酒を輸出する部門もあり、ここにも日本酒を流したらいいんじゃない? という発想においてもワイン文化に入りやすいCraft Sakeには意義があります。
2023年、モトックス 和酒開発部は、Craft Sakeの10周年を迎えることになり、それをかなりささやかに、ちょっとはにかみながら、メディアに語りました。いいことをしているんだから、もっと偉そうに、大げさにすればいいのに……ともおもいますが、100年企業に文句は言えない。これが社風です。
そして、これを記念して、というのは後付かもしれないけれど、Craft Sakeスタート以来19蔵目のコラボレーションで生み出されたのが茅ヶ崎市香川の「熊澤酒造」との共同開発Craft Sake『おふしょあ 吟醸』。徹底的に湘南純血の日本酒です。
湘南の酒は男酒
まず『熊澤酒造』ですが、「よっぱらいは日本を豊かにする。」を社是としています。1872年創業の老舗にして湘南エリア現存唯一の日本酒蔵で、敷地内にはレストランなどもあり、クラフトビール「湘南ビール」でも有名。
酒蔵は地域文化の中心たるべし、と考えていることがHPを訪れるとわかります。
実は湘南、日本酒の産地として、水と米に恵まれているそうです。
まず、水。丹沢山系を源とする、相模川、酒匂川(さかわがわ)をはじめとする河川の伏流水は、なんと硬水。しかもその硬度は150mg/lと、硬水で知られる灘の「宮水」(120mg/l程度とされる)以上。
参考までに、水の硬度はカルシウムとマグネシウムの含有量ではかり、計算式は硬度(mg/l)=(カルシウム量×2.5)+(マグネシウム量×4.1)です。
日本酒の場合、カリウム・マグネシウム・リンを多く含む硬水は酵母が増殖しやすく、輪郭のはっきりした辛口の酒、いわゆる「男酒」になるとされ、珍重されます。なぜなら日本は、水に恵まれている一方でそのほとんどが軟水だからです。参考までに水道水でいうとパリは280mg/l、ミュンヘンは300mg/l程度な一方、日本は60mg/l程度だと言われています。
そして米についても、実は湘南はよい米が育つそう。古くから宿場町なので、耕作面積自体は少なく、現在も47都道府県中45位くらいに農地は少ないらしいのですが、そういう人間の都合と相模平野のポテンシャルとは別問題。
そこで、モトックスの面々(先出の谷口氏はじめ、湘南出身あるいは湘南在住メンバーのみ)は、ワイン的発想で、純湘南の日本酒が欲しい! 水も米も、湘南生まれの、湘南のテロワールを表現した日本酒を造りませんか?と「熊澤酒造」にアプローチ。果たして、その夢は実現へと進み、酒米「五百万石」を地元の米農家と一緒に作ることにも成功しました。
さらに、戦時中は防空壕になっていた「熊澤酒造」の敷地内の建物の梁から採取された酵母が、日本酒に使えることをつきとめ、培養。防空壕にちなんで『BK-5』と名付けました。
こうして、湘南の蔵、湘南の蔵人、湘南のプロデューサーたち、湘南の水、湘南の米、湘南の酵母という湘南純血の日本酒を生むためのベースが整ったのでした。
純湘南酒の味わいは?
という話を聞くと、なんだか高尚でかしこまった酒なのかともおもうもの。でも、湘南といえば、海風・ビーチ・波乗り・音楽。そういう湘南文化に合わせようと、醸造アルコールを加えて、スッキリさせ、ラベルも海、山にサーファーのイラストを入れたものをモトックスの湘南在住デザイナーがデザイン。名前は、サーファーが喜ぶ、陸から沖に向かう風「オフショア」に、湘南から広がってゆくこと、オン・オフでいうならオフのもの、という意味も託して「おふしょあ」となりました。
テイスティングしてみると、酸味が印象的。その背後にミネラリーな苦味と塩味が潜んでいる。さわやか、かつ海っぽさを感じる。米の甘ったるさが少なく、甘みはむしろトロピカルフルーツ的な雰囲気になっていて、かつ、ボディ感がちゃんとある。おそらく、純米酒にしたら、もっと濃厚で辛口になっていたはず。吟醸酒にすることで、この軽快で、ついつい飲んじゃうスタイルになっているのでしょう。
このあたり、きっと、日本酒の匠とワインの専門家のコラボならではのバランス感覚なんだろうなぁ……
このスタイルを満喫するには、冷やして飲むに限る。下手にあたたまって、キレが悪くなってしまうくらいなら、グラスに氷を入れても低温をキープしたほうがいい。それでちょっと水で薄まっても、このバランスは壊れないはず。
生産量はそんなに多くないので、展開は湘南エリアの酒販店・飲食店からとのこと。湘南エリアにお出かけの際は、探してみてください!