「フランスで一番、スマートフォンを売っているのは私たちです」
え?それはAppleとかSamsungとかGoogleとかいったメーカーと同じ土俵でというお話?
「そうです」
BackMarketという聞き馴染みのない会社のCEOティボー・ユグ・ドゥ・ラローズはそう言った──
ジサカーのハートが再燃する
現在ではヘヴィーゲーマーやYouTuberでもなかなか手を出さなくなった自作PCは、2000年頃はそれなりに合理性がある選択肢だった。
必要なパーツのみを選択し、不足があれば増設、組み替えていくほうが、性能に対するコストが安く済んだ時代があったのだ。世代落ちしたパーツでもう一台、PCを組んで「メインマシン」とか「サブマシン」とかドヤったものだ……
しかし、ほどなくして半導体の性能は爆上がりし、「マシン」の性能差は戦力差に直結しなくなった。そして、あらかじめゲーム向け、モバイル向け……とメーカーが設定した枠組みのなかにある機種からプレタポルテのPCを選択し、それを2~3年使う、というフロー型消費のほうが懐に優しい時代は、わずかな年月で到来してしまった。
CPU性能にはまだ不満がないがグラフィック性能が物足りない、というときにも、グラフィックボードを替えるよりPCをまるごと買い替えたほうが安い。そんなライフスタイルに、かつて「ジサカー(自作er)」を自称したパソコンオタクたちは懐柔されていった。
そもそも、現在、デスクトップPCがあえて必要な状況はほとんどない。かつては見下していたラップトップPCやスマートフォンが実質的に「メインマシン」の状況にもすっかり慣れ、わずか3年程度で新品時の半分程度まで性能が落ちるバッテリーに特に疑問も抱かず、その頃には「次のハードどうしようかな?」と考え始める。
そこを堪えてさらに3年踏ん張った場合、今度はOSのサポート期間があやしくなる。自らが手塩にかけて育んだわけでもない「吊るし」のマシンを、そこでLINUXに入れ替えてまで使ってやるほど執着することは滅多にないだろう。
そしてココロのどこかが痛むのだ。いつか本で読んだ透き通る海の上を飛ぶ青い小鳥の住処が、レアメタル採掘の犠牲になる……これってエコノミカルだけど、エコロジカルじゃないよな、と。
そんな燃えカス同然のハートでメカニカルキーボードをイジっていた旧ジサカーのハートに、フランス・ナント出身の男、ティボー・ユグ・ドゥ・ラローズは火をつけた。
それでもあなたは新品が欲しいですか?
はいドン!
まずはこちらを御覧ください。
これは2022年8月、フランス環境管理庁がスマートフォン、ノートパソコン、タブレット、デスクトップコンピューターを対象に調査したデータのうち、スマートフォン1台の環境負荷を表したもの、だそうだ。
左は新品スマホを1から作った場合。右はすでにあるスマホを再生(リファービッシュ)した場合。
原材料資源の詳細は先に参照として挙げたページで語られている内容がより詳しいけれど、スマートフォンでいうと、そこに含まれる0.034gの金を取り出すには121kgの鉱石が必要で、それは地球のどこかを掘り返して見つけてくる必要がある。上の表にあるのは、この掘ってきた鉱石の量だ。金以外も含め、たかだか170g程度の電子機器製造のために266.7kgもの鉱石等の資源を調達しないといけないらしい。水に至っては約9万リットル。筆者調べで日本の家庭で1人が1日に使う水の量は、平均214リットルらしいので、416日分である。
で、ティボー・ユグ・ドゥ・ラローズの会社「BackMarket(バックマーケット)」は、リファービッシュ品の電子機器を流通させる会社。ホームページに行くと、リファービッシュ品が販売されていて、購入できる。現状、日本ではまだ、取り扱い商品はそんなに多くないけれど。
ティボーは言った──
「30年前、世界のクルマに占める中古車の割合は10%でした。いまは75%が中古車です」
マヂで? 30年前の人は贅沢ですねぇ……
「では、電子機器はというとこちらです」
あ、なるほど。スタートアップ系の人は話がうまい。
つまり中古車のように中古電子機器を流通させる事業にはエコロジーだけじゃなく、お金儲け的にもすごい潜在性がある、ということだ。
そして、中古車といっても、この世には色々イワク付きなかわりに数万円で買えるボログルマから、車検が来るから買い替えますという新品同然の低走行車、さらにはメーカーお墨付きの認定中古車やディーラー展示車のようなほぼ新品状態にリフレッシュされたクルマまでさまざまあるように、中古電子機器にも色々あって、BackMarketは専門家の手で再生された中古電子機器=リファービッシュ品を、独自にグレード分けして、BackMarketによる保証をつけて販売している。
高グレードのリファービッシュ品になると、新品同然。例えば、こちらのiPhoneなどは、外見上はピカピカで、どちらが新品でどちらがリファービッシュ品か、そもそもiPhoneに大して興味がない筆者にはまったくわからなかった。
答えは、片方はiPhone13でもう一方はiPhone14。両者はスペック的にはメモリの容量が4GBか6GBか、広角カメラのF値が1.5か1.6かが違うほか、14のほうが0.15mm厚く、にも関わらず1g軽い。
なんてこった! すぐにiPhone13を窓から投げ捨ててiPhone14に買い替えなければ!
哀れなiPhone13君は、そうやって薄情なオーナーに見限られてBackMarketに引き取られた。そしてBackMarketでの再生・検品を経て、最高のAグレードのリファービッシュ品との評価を受け、新品当時よりぐっとお安く販売されている。
ちなみに筆者は4年前のスマホをいまだに使っているけれど、スマートフォンのライフサイクルってどのくらいなんですか?
「数年。平均すると3から4年といったところですね。Samsungは4世代のアップデートと5年のセキュリティ保証をはじめていて、Appleは6年。Apple製品はやや長く使われる傾向ですが6年使われることはほとんどなく、BackMarketのベストセラーは2、3年落ちのものといったところですから、スマートフォンからみたら2ndライフ、3rdライフです。ただ、スマートフォン自体の寿命は6年よりずっと長いですよ」
オープンソースでいいんじゃない?
しかしティボーさん、専門工やリプロダクションパーツなども充実したクルマですら、電子部品が多用される2005年くらいのクルマになると整備が難しくなってくるのに、オタクは完全に電子機器でしょう? 再生にも限度があるのでは?
「私はEVもクラシックカーも同じだとおもいますよ。時間が経てば不具合は出るんだから」
「そこでメーカーに頼れなくなったら、スペシャリストにメンテナンスしてもらいますよね? それは電子機器で言えば、リファービッシャー(再生業者)がスペシャリストなんです」
シリコンも?
「もちろん。たとえ完璧なロングライフの実現が今は難しくても、将来的にはそうなるべきでしょう?」
僕は片腕に機械式時計、片腕にスマートウォッチをしています。機械式時計はメンテナンスを続ければ一生どころか息子に引き継げる可能性もある。でも、スマートウォッチはそうはいかないんじゃないですか?
「そのスマートウォッチで言えば、直近の問題はバッテリーですよね。次の問題はおそらく内部の電子機器よりもソフトウェアです。私たちはメーカーに、ソフトウェアアップデートをもっと長く続けるように訴える活動をしています。私たちの戦いは最初はデバイス、パーツの確保、バッテリーやハードウェアですが、いまはソフトウェアにもおよんでいます」
それはBackMarketが代替OSを出してサポートするみたいなことも?
「その必要はないんじゃないですかね? 私のヴィジョンは、モンスターマニファクチャラーが、古い製品のサポートをやめても、電子機器がオープンソースのソフトウェアで動き続ける未来です。iPhone5がいまもオープンソースのOSで動く、となれば、それを私たちがいちいちソフトウェア面までサポートする必要はないでしょう? オープンソースのコミュニティはすでに大きいのですから」
それは古いWINDOWS機をLINUXに載せ替えて使うみたいな?
「そうです」
新品は要らない
筆者はフランスに住んでいたことがあって、フランス人は安くて、十分使えて、修理やサポートもしばらくは問題ない、となればリファービッシュ品に飛びつくのが目に浮かぶ。
「そのとおり。すぐに受け入れられましたよ。いま、フランスではうちがスマートフォンの25%のシェアで、No.1です。8年やってますからね。でも日本でも急成長しています」
フランスだと、スマートフォンやコンピューター以外に、電動バイクなんかも扱っているんでしたっけ?
「そう。フランスでは現在、184カテゴリの商品を扱っています。電動スクーターはメーカーとの実証実験みたいなことではじまって、私は将来的にはEVも扱いたいとおもっています。EVは高いですから、リファービッシュ品で安く買えるとなれば需要はあるとおもいます。ほかにも有名な企業では「dyson」とパートナーシップを結んでいます」
それはコンシューマーだけでなく、中古品業者にもメリットがあるということですよね?
「私たちはファブレス企業で、中古品再生業者、ファブと協力して、リファービッシュ品のネットワークを構築しています。彼らは私たちに中古電子機器を売れば、販売・在庫リスクがないですから。うちは仕入れ値に検品、保証、販売等のマージンを乗せてビジネスをしています」
とはいえ、BackMarketを嫌う企業も多そうですよね……
「究極的に言えば新品は全部競合ですからね」
「私たちのヴィジョンを考えれば、新品メーカーとそうそう長いこと仲良くはできないでしょうね。でも、どこかで彼らはリファービッシュのマーケットを認めないといけないとおもいます。OSのサポート期間を伸ばしたり、パーツを用意したりと、リファービッシュを意識した動きをせざるを得なくなるはずです」
それはリファービッシュ市場がこの先、新品市場と拮抗すれば、そうなりますよね。とはいえ、BackMarketだって、新品が供給されなかったら、商売にならないじゃないですか。市場の新:古のバランスはどのくらいを考えているんですか?
「0:100ですよ?」
え?
「新品は要らない。0。それが私たちのヴィジョンです」
ジサカー夢の世界、来るか?
どゆこと!?
「カメラ性能が物足りないならカメラを替えればいいじゃないですか? それでプロセッサーが追いつかないならプロセッサーを載せ替えれば良い。カメラだってプロセッサーだって、ほとんどの場合、スマートフォンメーカーが作っているわけじゃないでしょう? 世の中にすでにあるものを載せているだけです」
でもさ、自作PCじゃないんだから。スマホなんて、そもそもそういう設計になってないじゃない。
「だからアップデート、アップグレードがし易いデザインにしてもらえるよう、働きかけています」
そんな話が通るとおもっているんですか?
「通ったほうがいいですよね?」
はい。
「いつまでもアップデート、アップグレードで同じスマートフォンを使い続けられるなんて夢のようでしょ?」
はい。
「じゃあ、この話、書いてください」
それでまんまと、筆者はこのページを書いているのだった。
筆者は『ThinkPad T60』というPCが好きだ。個人的に思い出深いPCなのだ。だからいまだにメンテナンスしていて、LINUXでなら結構、快適に動く。とはいえ2006年のPC。さすがに今、現役で使うには性能的にも安全性的にも不安がある。
でももし、ティボーの切り開く道の先に、僕が誇りを持って『ThinkPad T60』を使い続けられる未来があるのなら……僕はその未来に行きたい。