文=松原孝臣 

2022年12月24日、全日本選手権でフリーダンス『オペラ座の怪人』を演じる村元哉中&高橋大輔 写真=YUTAKA/アフロスポーツ

全日本選手権では初優勝

 2人にとって、2023年の世界選手権は昨年に続いて出場する2度目の大舞台。でもそこに漂う色合いは異なる。アイスダンスの村元哉中と高橋大輔は、この1年もたしかな進化を遂げ、大会を目前にしている。

 フィギュアスケートのファンであれば知らぬ者のいない2人の挑戦が始まったのは2020-2021シーズンのこと。デビュー戦となったのはNHK杯であった。それまでもアイスダンスをしていた村元に対して、高橋はシングルで活躍してきたスケーターだ。同じ氷上と言ってもアイスダンスは用具もルールも、何よりも2人であり、大きく異なる。

 どこまでアイスダンスの世界に溶け込めているのか――不安と期待の中で登場した2人は、期待を上回る演技を見せ、不安が杞憂であったことを示した。

 それが始まりだった。2021-2022シーズンには驚くほどの進化を見せる。NHK杯では前年より20点以上得点を伸ばし、直後のワルシャワ杯ではフリーダンス、合計得点でアイスダンスの日本歴代最高得点をマークしたのである。北京オリンピック代表こそならなかったが、四大陸選手権や世界選手権に出場。結成して2シーズン目とは思えない活躍を見せた。

 今シーズンになって、2人はより堂々たる姿を見せてきた。グランプリシリーズなどを転戦し、全日本選手権では初優勝。

 成績もさることながら、試合のあとの2人の話も、より細かな技術面の課題であったり改善点であったり、そうした事柄に深く言及するようになってきたのも、進化を示していた。3シーズンを過ごしてきて、始めの頃は多少感じられた遠慮が消え、敬意を踏まえつつ、互いに率直に意見をぶつけているのもまた、進化であると言える。

 自分たちは世界で戦うアイスダンサーだ。

 そうした自覚を感じさせたのはNHK杯だった。第2グループに出場する村元と髙橋は、演技直前の5分間練習にいた。出場する各カップルは第1グループと別ものと言ってよいほどスピードあふれる滑走を見せ、軌道の確認などに集中していた。しかも他のカップルに譲る様子もなく、至近距離で滑り抜けていくのもしばしばだった。上位を目指す者たちの競争が練習からあった。

 2人はそれぞれ、こう話した。

「氷に乗った瞬間から自分たちに集中するのがいちばんなので。トップのチームの雰囲気だったりエネルギーを感じることができて、自分たちにもそのエネルギーはあるなと思います」(村元)

「先シーズンだったらびびってよけまくっていたんですけど、今シーズンは物怖じするわけでもなく、ほんとうに危ないなと思ったらよけますけど、ぎりぎりまでよけないですね」(髙橋)

 それらの言葉は、自覚と自負あればこそであった。