文=松原孝臣 

2022年12月25日、全日本選手権でフリースケーティングを演じる友野一希 写真:YUTAKA/アフロスポーツ

経験で掴んだ出場権

 友野一希はときに「代打の神様」と呼ばれてきた。

 例えば昨シーズンの世界選手権。補欠であった友野は、国際大会の1つ、プランタン杯に出場するため開催地のルクセンブルクへ向かっていた。連絡があったのは経由地のドイツ・フランクフルト空港に着いたときだった。出場を予定していた三浦佳生欠場に伴う世界選手権出場の打診だった。

 結果、友野は世界選手権に出場する。プランタン杯を終えてわずか3日後という強行日程だった。それでもショートプログラムで初の100点超えを達成、101・12点で3位となる。フリーこそジャンプのミスが相次いで総合6位と順位を下げたが、急きょ出場した中での、価値ある6位入賞だった。

 2018年の世界選手権もそうだ。もともとは補欠だったが、出場が決まると5位入賞。大会には翌シーズンの出場枠が懸かっていたが、日本の「3」枠を確保するのに大きな役割を果たした。

 この2大会に限らず、何度も「ピンチヒッター」として臨み、その都度、力を発揮してきた。

 数々の経験を重ねてきたその力が発揮されたのは、昨年12月の全日本選手権だった。

 上位が期待される実績のある選手たちに失敗が目立つなどしたフリーで、友野は前半にジャンプの失敗があったものの、それで崩れることなく演技を全うする。結果、3位と表彰台に登った。10度目の出場にして初めての表彰台だった。

 試合を振り返る中で「何回も試合をこなしてきて、なんとなく勘で、6分間(練習)の雰囲気からたぶん気をつけないと荒れるというか、ちょっと独特の緊張感があって」といつもと違う空気を感じ取っていたことを明かした。

  その上で、こう続けた。

「『自分に集中して雰囲気に引きずり込まれないようにやれば結果はついてくるんじゃないか』と予感していたので。とにかく客観的に雰囲気や緊張感を感じとりながら、しっかり自分自身に集中して臨みました」

 まさに経験を積んできたからこそだった。

 そして全日本選手権でつかんだ初の表彰台とともに、ついに世界選手権代表に選出された。

 キスアンドクライのボードに書き込んだ「脱! 代打!」を成し遂げた。

 そんな友野にとって、今シーズンは少なからず変化のあった1年でもある。