海外でワインを造る日本人はけっこう多い。
そんななか、カリフォルニアで職人気質の繊細なワイン造りで一目おかれているのが、アキコ・フリーマンさんとケン・フリーマンさん夫妻のワイナリー「フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー」。2002年のファーストリリース以来、専門家から高い評価を受け、日本でも人気だ。創業は2001年。そう、2021年にワイナリーは創立20周年を迎えていた。これを記念して特別に造られた、ワイナリー初のスパークリングワインが、2022年、日本にも少しだけ輸入された。
初にして本格派
初のスパークリングワインにして、この完成度なのだから「やっぱりすごい人だなぁ」と感心してしまう。レモンに青リンゴといった雰囲気かつ、酸っぱいわけではない、キリっとした酸味が終始支配的。しかし、その背後をしっかりとふくよかなワインが支え、スカスカした感じはまったくない。造り方はシャンパーニュなどと同じ伝統製法。使っているのはシャルドネだけ。なのに、シャンパーニュともまた違う。もちろんフランチャコルタや、カヴァとも違う。強いていうならば、こういうことができるのが、アメリカ文化、ということなのだろうか。
しかも、これは、スパークリングワイン造りの最終段階で糖分を添加して味を調節するドザージュという工程をやっていない。それどころか、無清澄・無濾過、亜硫酸添加はごく少量のみ。つまり、お化粧なしのすっぴん。ブドウとワイン造りの腕前だけで勝負したワインなのだ。(詳しい方のために補足すると、マロラクティック発酵はしている。)
なんでこんな造りに? と、帰国? 来日? したアキコ・フリーマンさんにたずねると
「ご存知かもしれませんが、私は酸が大好きですから!」
と朗らかに笑う。
このチャーミングさにして、この道20年のワインメーカー。造るワインはどれもこれも、ワイン好きをうならせる逸品ぞろい。そりゃあ、ファンが多いのも納得せざるをえない。
今回の『ユーキ・エステート 20周年記念ブラン・ド・ブランソノマ・コースト2019』という、長い名前のワインは、アメリカでは、そんなファンに向けて少しだけ造られたものだったけれど、アキコさんの故郷、日本では、一般販売されることになった。
スパークリングワイン誕生の背景
ユーキ・エステートというのは、「フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー」がワイナリーに隣接するグロリア・ヴィンヤードについで、2007年に取得した、5.6haの畑。ワイン的にはソノマ・コーストと呼ばれるナパよりもずっと太平洋側のエリアに属し、特に、ユーキ・エステートがあるのは太平洋からわずか6.6km。さらに急峻な斜面。アメリカの太平洋側は寒流で寒く、土地に起伏のあるこのあたりは、海と山からの強い風にも見舞われる。ブドウにとって過酷で、収穫量は少ないかわりに、上手にやれば、ゆっくりと熟して風味豊かなブドウが採れる。ちなみに、そんな過酷ななかでも有機栽培でやっている畑だけれど、ユーキという名はそこから来ているのではなく、アキコさんの甥の名前から来ているとのこと。
ここの畑はレッドウッドという木に囲まれていて、この木は現在、環境的に保護されている。畑は基本的にはピノ・ノワールを育てているのだけれど、一部、このレッドウッドの影になるところはピノ・ノワールには向かず、だからといってレッドウッドは伐採できないので、「ホークヒル・ヴィンヤード」という、この畑から7kmくらい南東にいったところにある畑のシャルドネを接ぎ木で移植している。このシャルドネが、今回、スパークリングワインになった。
ホークヒル・ヴィンヤードのシャルドネは、ナパ・ヴァレーの伝統あるスパークリングワインの名門「シュラムスバーグ」が、ラインナップのなかでも最高峰の『ジェイ・シュラム』に使っているほどのもので、今回の「フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー」初のスパークリングワインには、その「シュラムスバーグ」の元醸造責任者、クレイグ・ローマーが、このシャルドネならば、と太鼓判を押して監修として参加している。
そんなエピソードもワイン好きであれば、興味をひかれるとこではないだろうか?
ちなみに、スパークリングワイン好きのアキコさんは、自分たちでスパークリングワインを造れることが分かったため、スパークリングワイン造りは継続するとのこと。今年の年末には、ユーキ・エステートのピノ・ノワールを使ったロゼ・スパークリングもラインナップに追加予定だ。少量生産なので日本にどれほど入ってくるかは現時点で不明ながら、今年、買い逃してしまっても、まだチャンスはあるかもしれない。