サントリーの日本ワインの最高峰『登美 赤』が新ヴィンテージ 2019年の販売を9月12日(火)から開始。世界を感動させる、と意気込む最新作をリリース直前に、試させてもらいました!
ニッポンのプティ・ヴェルドはすごかった
2022年にブランド名を「SUNTORY FROM FARM」へと変え、本拠地「登美の丘ワイナリー」もリニューアル。日本ワインに大きな投資をしているサントリーが、日本ワインの新ヴィンテージ・新作を9月12日(火)に、一斉リリースした。
そのリリースの少し前に開催された、メディア向けのお披露目の場では、それらを一気に試飲できた。サントリーの日本ワインの最高峰『登美 赤』2019年ヴィンテージについては、造り手からの解説も。「世界が感動する品質を目指す」と意気込む、参考小売価格15,000円(税別)、生産本数はおよそ3,600本の特別な日本ワインの実力やいかに?
試飲前の座学でビックリなのが『登美 赤』2019年ヴィンテージの品種構成。なんとこのワイン、プティ・ヴェルド68%、カベルネ・ソーヴィニヨン27%、メルロ5%なのだそうだ。
いわゆるボルドーブレンド。ワイナリーが最高峰の赤ワインとしてボルドーブレンドを生み出すのは、まったく驚くことではないけれど、驚くのはそのパーセンテージで、なんと、プティ・ヴェルドが主体なのだ。一般的には、このブレンドはカベルネ・ソーヴィニヨンかメルロが主体なものだ。
プティ・ヴェルドは、渋みや酸味が強く、香りも野性味が強い。脇役としてワインに花を添えるのには適した存在だけれど、エレガンスが問われるここ一番の勝負でプティ・ヴェルドが主役になることはない──
などということは、ボルドーに名門ワイナリーを持つサントリーは百も承知。承知の上でのプティ・ヴェルドなのだ。興味を惹かれるではないか!
これについてサントリー登美の丘ワイナリー栽培技師長 大山弘平氏は言う──
「『登美 赤』のファーストヴィンテージは1982年。その時はカベルネ・ソーヴィニヨンが中心でした。その後メルロを中心にするなど、環境の変化に応じて、品種をシフトして、登美の丘のテロワールを表現してきました。プティ・ヴェルドについては、1990年代に初めて植え付け、2010年代前半に、生産規模を拡大。2010年代後半には、収穫時期の見極めや最適な醸造方法の選択など、品質向上のフェーズへと入りました。この30年間にわたる挑戦が、いま花開こうとしているのです」
と、長きにわたって、登美の丘では、プティ・ヴェルドを追求していたそうなのだ。
「フランスなど乾燥した土地では、ワインにネガティブな要素を与えることがあるとして、全面には出づらいプティ・ヴェルドですが、日本だと適度な強さとなり、果実味とボリュームが得られます。この数年、山梨・長野などでは栽培量が増えてきている品種でもあります。登美の丘では、複雑性や上品さも獲得できるようになってきました」
登美の丘は標高の変化のほか、土壌には保水性・密度に優れる粘土と、水はけがよく痩せた砂れき系土壌、そしてその中間的特性をもつシルトと、異なる土壌があり、さらに、プティ・ヴェルドの木にはフランス系1種とニュージーランド系2種の3種、台木にも2種類あるとのこと。これらの組み合わせと、栽培方法のちがい、そしてもちろん、畑の向きや樹齢や年々の気候条件といった要素によっても異なる様々なプティ・ヴェルドのパターン、膨大なデータをノウハウとして蓄積し、いよいよプティ・ヴェルド主体で勝負ができるところに来た、ということのようだ。
収穫時期も半日レベルで調整し、pHが高まる(つまり酸が弱まる)、台風が来る、といったリスクを背負い込みながら、フェノール化合物の成熟度合いがピークに来るまで収穫時期を遅らせ、渾身のプティ・ヴェルドを収穫。このセッティングを詰めに詰めた果実を、ワイナリーへの投資の結果、従来よりもさらに丁寧にワイナリーに運びこんで、優しく圧搾……というのが、現在の登美の丘のプティ・ヴェルドなのだそうだ。
ここまで学んで2019年の『登美 赤』が注がれたグラスに鼻を近づける。
香りは、まさに、上質なボルドーブレンドといった雰囲気。口に入れると、序盤はまろやかで、熟した果実の甘味もあり、タンニンはハッキリしているけれど、ちょっと力強いメルロくらいの印象。中盤に甘み旨味とアルコールに由来するであろうハッキリとした刺激があり、終盤はカベルネ・ソーヴィニヨンをおもわせる、複雑な旨味がある。酸味をそこまで強く感じるわけではないけれど、余韻は長い。強いて言えば全体的にタンニンの印象が基調にあって、これがところどころ、やや荒めに感じるけれど、それはワインが若いことも理由にあるだろう。時間が解決してくれる部分も多いはず。
正直言って、言われなければプティ・ヴェルドが主体だなんて、筆者は気づかないし、もっと言うと、日本ワインだとはおもわない。インターナショナルなボルドースタイルのワイン、ナパ・ヴァレーかな? ボルドーかな? もしかしてマイポ・ヴァレー? などと判断するとおもう。
感心するのは、エレガントではあっても、力強さ、凝縮感、骨格といったものを薄弱に感じるタイミングがないこと。一貫して、良いワインでいつづける。ブランドトップのワインとしてスキがない。
同時に、2020年ヴィンテージの登美の丘のプティ・ヴェルド100%のワイン『登美の丘 プティ・ヴェルド 2020』(参考小売価格14,000円(税別)2023年3月に発売済み)と比較テイスティングできたのだけれど、こちらは香りも味も、もうちょっとワイルドでプティ・ヴェルド感が強かった。それはそれで、塩を振ったステーキなんかとは相性が良さそうなので、あえてそういう仕上げなのだろうけれど、『登美 赤』が、これとは目指すところがちがうのがよくわかる。
あえて諸々の条件を無視して、プティ・ヴェルドだけで比べてみようと考えると、果実の凝縮感でわずかに『登美 赤』が勝る印象だった。これはどうやら、2020年は2019年よりは雨が多かったこと、『登美 赤』が水はけのいい砂れき質の土壌のプティ・ヴェルドが中心なのに対して、『登美の丘 プティ・ヴェルド』は若干、標高が高く、粘土質の土壌のプティ・ヴェルドが中心というあたりに理由がある様子。
そういう生まれ育ちのちがいも、ワインにちゃんと表れている、ということだと解釈したい。
いやはやお見事。ボルドーブレンドがしのぎを削る世界トップレベルのワインのグループには、時々、意外な品種でそこに食い込む造り手がいるけれど、サントリーさんには、プティ・ヴェルドで世界をあっと言わせて欲しいと、期待してしまう。
津軽のスパークリングはロゼが出色の出来!
主たる話は以上で終わりなのだけれど、そのほかにもちょっと感動的なワインに出会えたので、いくつか紹介したい。
まず、『登美の丘 時のかさね』。
こちら「熟成期間が異なる原酒をかさね合わせた」というマルチヴィンテージワイン。計算されたものか、やってみたら美味しかった、というものかは判断がつかないけれど、見事なバランスで、全体的に重苦しくなく、シリアスではない、ごった煮感が楽しく、美味しい。ある種オーストラリア的発想の自由なワイン。参考小売価格5,400円(税抜)。
そして、まだまだ、少量生産なものの、真摯な造りの姿勢がうかがえるのが『津軽シャルドネ&ピノ・ノワールスパークリング』シリーズ。
実売価格がシャンパーニュと同レベルなのが、致し方ないとはいえ、もう一声!とおもってしまうところなのだけれど、こと『SUNTORY FROM FARM 津軽ピノ・ノワールスパークリングロゼ 2019』について言えば出色の出来。わずか480本しかないそうで、参考小売価格は15,000円(税別)なのだけれど、これは、もしも買えるならば、エイヤ!と買ってしまっても損しないはず。生産量が増えて、価格ももうちょっとこなれて、日本のシャンパン・イーターになることを願う。世界に誇る日本ワインになるはず。
そして、筆者以前から、極めて推しの『ワインのみらい』シリーズの新作は今年もハズレなし!
特に『SUNTORY FROM FARM ワインのみらい 登美の丘 甲州 キュベスペシャル2021』はすごかった。
限定500本。試飲会場でも大人気だったので、この記事が出ている頃にはもうないかもしれないけれど、甲州ってこんなワインが出来るの? と、甲州を知っている人ほど驚くこと間違いなし。絶対、ビックリするから一回飲んで、と言いたい。ラベンダーとかフリージアとか言い出したくなるような香りのブーケに包まれて夢見心地。上品で、決して重たくないのに、とても上質に熟したブドウで丁寧に造ったことがわかる口内で花開く充実した味わいにうっとり。どれだけ手間暇をかけたのだろう……良い白ワインの定形にも甲州の定形にも収まらない、ある意味、破天荒なワインだけれど、これは白ワインの新境地!