最高峰と呼ばれる存在感のある時計
時計界で最高峰のブランドは?と聞けば、多くの人はパテック フィリップと答えるだろう。フラッグシップ「カラトラバ」をはじめ、存在感のある数々のモデルは美しく、とても魅力的だ。そして、その高い評価は1世紀以上にわたって継続されている。
しかし、なぜパテック フィリップがこれほどまでに時計ファンから称賛を浴び続けられるのだろうか?
そのひとつが、当然かもしれないが高い技術力を擁していることだ。1839年の創業当初から品質をなによりも重視していたパテック フィリップは、10年余でトップブランドの地位を確立している。1851年に開かれたロンドン万国博覧会で金賞を受賞して、そのクオリティの高さを世界に知らしめたのである。そのスゴさとは、現在は一般化しているリュウズによる巻き上げ、時刻合わせという機構をすでに開発しており、さらに超複雑機構といわれるミニッツリピーターも製作している、という具合であった。
近年では、多岐にわたる検査をクリアした機械式時計だけに与えられる品質保証「ジュネーブ・シール」をすべての機械式製品が取得していたことでも知られている。認証を受けた全製品のうち、95%以上がパテック フィリップのものであったというのだから圧倒的なクオリティであることがわかる。現在は、あえて検査規準を引き上げた、独自の認証マーク「パテック フィリップ・シール」を設立。今まで以上に厳しい姿勢で時計づくりを行っている。
そんなパテック フィリップにあって、創業当時から守り抜いている伝統の技術がある。いわゆるハンドクラフトと呼ばれる装飾芸術で、創業の地ジュネーブの伝統技術でもある。この技術の継承こそが、パテック フィリップの時計製作の姿勢を端的に表わしているのかもしれない。
この技術は1600年代から存在し、ジュネーブはとりわけ彫金と七宝装飾で知られていた。当時の欧州では、イギリス、フランス、ドイツ等の時計製作者が、緻密で複雑な時計開発に重きを置いていたが、ジュネーブはそれと一線を画した芸術なタイムピースの製作を重視しており、その世界をリードしていたのである。
七宝装飾の技術発展に貢献
とくに七宝装飾では、その技術の完成に多大なる貢献をしている。
七宝は、金属素材に下地となる純粋な珪砂(石英)のみの釉薬を数回にわたり塗り重ね、摂氏850度で加熱するのが特徴。その表面にフォンダン(透明釉薬)を塗ることにより、作品を保護し、さらに、その表情に深みと輝きを与えるのである。
これによって、象徴主義やアール・ヌーボーなど、各時代の芸術的潮流を代表する著名な絵画を原作とした多数のタイムピースがつくられることになる。そして、彫金、ギヨシェ装飾など、他の工芸技術と組み合わせた作品も生まれることになるのだ。
七宝細密画の分野では、人物の肖像がテーマとして好んで用いられ、パテック フィリップの顧客である各国の王侯貴族のために、“王室のタイムピース”と呼ばれる一連の時計が製作されている。当時の主流である懐中時計では装飾は当然で、たとえばハンター・ケースの蓋に装飾を施さずに納入することなど、あり得ないことだったのだ。
そんな芸術も、20世紀になり腕時計の時代が到来すると、工業化が進んだこともあって、次第に下火になっていく。そして第二次世界大戦後、とくに1970~80年代にはハンドクラフトで装飾された時計の需要はまったくなくなり、それにともなって彫金、七宝などの伝統的な工芸技術の継承者たちは行き場を失った。
そんな中、いち早く、その事態に気付いて行動をおこしたのがパテック フィリップであった。もちろん、すぐに需要などあるはずもないのだが、それを度外視して稀少な工芸技術を守るために作品の製作を継続させたのである。
その甲斐もあってか、今日ではこのハンドクラフトの分野は注目を集めており、稀少なモデルは人気の的ともなっている。パテック フィリップも、毎年約40点のユニークピースが製作され、さらに現行コレクションにも、その技術を織り込んだニューモデルが加えられている。
ジュネーブの伝統を継承し、それを現代のモデルにアレンジする。まさに、キャッチフレーズ「その時計は受け継がれる。父から子へ、世代から世代へ」通りである。現代でも稀少な、この個性的な分野は、独自性あふれる真のアイデンティティが提示されており、パテック フィリップらしさが詰まったものとなっている。