ということもまたさておき、DB4GTザガート・コンティニュエイションのオリジナルは、1960年に発表されたDB4GTザガートである。レースで勝つために、前述のDB4GTをイタリアに送り、ザガートがより空力的で、より軽量、しかもより魅力的なボディに仕立て直した、これまたマニア垂涎のモデルである。生産台数はわずか19台がつくられたに過ぎない。

 つまり、最初からDB4GTザガート・コンティニュエイションをつくることを念頭に、DB4GTコンティニュエイションを企画しているわけだ。両者の中身はほぼ共通だから、コストダウンできる上に、ビジネスの幅も広がる。さすがである。

 でもって、DB4GTザガート・コンティニュエイションもまたサーキット専用で、購入したオーナーは、現代のDBS GTザガートでサーキットまでドライブし、そこでDB4GTザガートに乗り換えてサーキット走行を楽しむ、というようなことをして人生を楽しむ。これまた天才的なアイディアと申し上げるほかない。

 このようなビジネスが成立するのは、もともとイギリスに、とりわけこの時代のジャガーとアストンのレストアを専門にする職人さんたちがいたからで、逆にいえば、イギリスでしか成り立たない。もしできるとすればイタリアだろうけれど、イタリア人はイギリス人ほど利に聡くない……のかもしれない。

DB4GTザガート・コンティニュエイションの運転席。ウッドとレザーと金属、ガラスで構成されたシンプルな美が見る者の心をとらえる。プラスティック部品がひとつもないように見える。まさに工芸品。真っ赤なボディ色はオリジナルのDB4GTザガートがまとっていた赤色を使っている。アルミのボディは職人が手叩きでつくる。

『007 ゴールドフィンガー』に出てきたDB5を忠実に再現

 アストン・マーティンはさらに映画『007 ゴールドフィンガー』に出てきたDB5を忠実に再現した「ゴールドフィンガーDB5コンティニュエイション」を25台製作することも発表している。007映画の製作会社イーオン・プロダクションズの協力のもと、助手席が飛び出るかどうかは定かではないけれど、ナンバープレートが回転するなど、各種ガジェットが付いている。

 ちなみに、コーギーがつくったこのクルマのミニカーは発売初年の1965年だけで250万台が販売されたという。筆者も1990年代に売り出された復刻版を持っている。助手席、飛びます。

 その1分の1のお値段は275万ポンド。現在のレートで、およそ3億5750万円で25人の幸運なコレクター、ないし愛好家に引き取られる。納車は2020年から始まる。25台とは別に3台が製作され、イーオンとアストン・マーティンにそれぞれ1台おくられ、1台がチャリティの競売に供される。

 ジャガーも、2018年2月に「Dタイプ・コンティニュエイション」を発表している。いうまでもなく、伝説のル・マン3連覇を成し遂げたDタイプの復刻版で、製作台数は25台とされている。というのも、1955年当初の計画では、100台生産するはずだった。それが75台で終わった。その残りの台数を完成させて、計画を完遂するというのだ。

 25台のジャガーDタイプ、25台のアストン・マーティン・ゴールドフィンガーDB5、ふたつのコンティニュエイション・モデルがどんなひとのもとへと行くことになるのか興味のあるところだけれど、あいにく筆者は情報をもっていない。だったら書くな、ということですけれど、少なくともこれだけはいえる。超富裕層の出現がこのような1分の1ミニカー・ビジネスを生んだのだ、と。

 絵画だったら贋作かもしれない。でも、自動車は絵画ではないし、メーカー自身が設計図に基づいてつくる復刻版で、シャシー・ナンバーも付いている。これぞ現代アート! ということもできるかもしれない。

 結局は市場がどうとらえるか、である。その意味でジャガーとアストン・マーティンのビジネスの行く末を見守りたい。もしかして20年後、だれも見向きもしなくなって、中古車市場にひっそり数百万円とかで出てきたら、それこそ買いではないか。ま、そうはならんと私も思うけれど、可能性はゼロとはいえない……。