ジャガーのコンティニュエイション(継続)・シリーズ第3弾、Dタイプ。Dタイプは、1955〜57年ル・マン24時間レース3連覇を成し遂げた伝説のレーシングカーである。もともと100台生産・販売する計画が諸般の事情により75台つくったところで中止していた。その計画を、最後のDタイプが製造されてから62年ぶりに再始動し、限定25台をハンドメイドする、と2018 年に発表した。

 モダンデザインが未来的になりすぎてるからか、腕時計、家具、家電製品など、いま、さまざまな分野で復刻デザインが人気だ。ヴィンテージ市場が確立しているクルマの世界でも、それは同じことのようで、ここ数年で名車の復刻モデルが登場している。ただ、他の分野と違い、価格がかなり跳ね上がるのだが。

 

古きよき時代の“傑作”を限定再生産・販売

 自動車エンスージアスト(熱狂的愛好家)はご存じだろうけれど、イギリスの自動車メーカー、具体的にはジャガーとアストン・マーティンが最近、古きよき時代の“傑作”をごく少数、限定再生産・販売している。

 先行したのはジャガーで、2014年5月のことだった。1963年の“ライトウェイト”Eタイプを6台再生産する、と発表したのだ。当時のGTレースの規則に即して製造されたのはわずか12台。そのうち11台の現存が確認されている。

 スタンダードのEタイプではフェラーリ250GTに勝てない。そこで、スティール・ボディをアルミ製のそれに載せ替え、内装を簡素にして114kgの軽量化を図った。実際のレースの戦績はそれほどでもなかったけれど、マニア垂涎のジャガーEタイプのなかでも、まぼろしのEタイプとされる。

 この軽量版Eタイプは当初18台製造されるはずだった。それが12台つくられたところで中断となり、用意されていた残り6台のシャシー・ナンバーが宙ぶらりんになっていた。ライトウェイトEタイプの復活を思いついたジャガーのひとたちはここに目をつけた。天才的なアイディアである。復刻版にはこの6台用のシャシー・ナンバーを使えばいい。そうすれば、絵画でいえば著者のサイン入り、正真正銘のライトウェイトEタイプが2014年に製造できるのだ! 

 こうして誕生した復刻版の価格は、およそ100万ポンド。為替レートは1ポンド、ざっと180円だったから、邦貨にして1億8000万円、レートによってはそれ以上もした。それでも、1963年につくられたオリジナルに比べれば、安いものだった。

 その2年後の2016年5月にジャガーが発表したのが、1957年のXKSSの“コンティニュエイション(continuation=継続)”だった。XKSSは、ル・マン24時間耐久レースを1955年から3連覇したDタイプのロード・ゴーイング・バージョンで、25台つくられる計画だった。

 

工場には製作途中のDタイプが25台あった

 ジャガー・ワークスは1956年シーズンの終了とともにサーキットから撤退する。このとき、ジャガーの工場には製作途中のDタイプが25台あった。断捨離するにはモッタイなさすぎる。そこで、これらを公道用に仕立て直してアメリカに売ろう、ということになった。かくして生まれたXKSSは、純レーシングカー、Dタイプの血をひくサラブレッド・スポーツカーとして伝説的存在となる。“キング・オブ・クール”こと、かのスティーブ・マックイーンも愛車にするほどの人気を博した。

 ところが、16台が完成したところで、1957年2月某日の夜、ブラウンズレーンにあるジャガーの工場で火災が発生し、9台が燃えてしまう。XKSSコンティニュエイションは、この、つくられるはずだった9台を復活させよう、というロマンチックなプロジェクトなのだった。これまた天才的なアイディアというほかない。1957年に発表されたXKSSが、2016年に新車として、当時与えられるはずだったシャシー・ナンバーが刻印されて、ジャガーで製造・販売されたのだ。

 価格は、ライトウェイトEタイプと同じく100万ポンド、当時の為替レートだと1億6000万円弱だった。ポンドの暴落により、同じ100万ポンドでも3000万円近く違うところが為替の恐ろしさだけれど、それはさておき、ライトウェイトEタイプ復刻版とXKSSコンティニュエイションによるレースの計画もジャガーは2016年7月にロサンゼルスで発表している。

 

映画「007」シリーズで有名なDB5の前身モデル

1960年代にイギリスが産んだレーシング・スポーツの傑作の1台がアストン・マーティンDB4GTザガート。イタリアのデザインハウス、ザガートの100周年を記念し、オリジナルと同じく19台が復刻される。それもDBSザガートなる現代のGTカーとペアで! 600万ポンド(+税)は安い! といってみたいですね。

 同じく英国の名門、アストン・マーティンが「DB4GTコンティニュエイション」という車名でDB4GTの復刻版の発表をしたのは、ジャガーにちょっと遅れた2016年12月のことだった。

 DB4は、007映画で有名なDB5の前身のモデルだけれど、これにGTとつくと俄然レアな存在となる。1959年に発表されたこれは、DB4をショート・ホイールベース化し、よりパワフルなエンジンを搭載した高性能版で、製造台数は75台に過ぎない。

 10年ほど前、いまも所有されているかどうか不明ながら、クルマ好きの俳優の方から、愛車にしていると聞いたけれど、申し訳ないことに筆者はその価値がよくわかっていなかった……。DB4GTコンティニュエイションはその75台のなかで8台だけつくられたライトウェイトの復刻版だとされる。

 アストン・マーティンがジャガーとちょっと違っていたのは、25台を純然たるサーキット専用車であると明言したことだ。でもって、このクルマを楽しむために、アブダビのF1用のサーキットを含むレース・トラックでの2年間のドライビング・プログラムを用意した。

 これまた天才的なアイディアというべきで、ホンモノの古いクルマのレースに参加するジェントルメン・ドライバーを育てることになるからだ。新興富裕層を取り込むことにもなれば、クラシックカー業界を膨らませることにもなる。クラシック・アストンの価値をひき上げることにもなるだろう。60年前のクルマを現代に蘇らせる意味を、中長期的なビジネスにつなげているところがスゴイと筆者は思う。

 同時に、ガソリン・エンジン車は柵のなかで楽しむものになる、と想像された未来がいよいよ現実となりつつある、ということも感じるわけだけれど、それはさておき、アストン・マーティンは2018年9月、さらにびっくらぽんのプロジェクトを発表した。

 およそ60年の協力関係にあるイタリアのデザインハウス、ザガートの設立100周年を記念する「DBZセンテナリー・コレクション」がそれで、なんと現代の新型車であるDBS GTザガートと、1960年発表のDB4GTザガートを1台ずつ、つまり2台をセット販売するという。

 まるでミニカーみたいなご商売である。19セット、それぞれ19台ぽっきりの限定生産で、価格は税抜き600万ポンド。ブレグジットの影響で近頃めっきりポンド安の現在のレートは1ポンド=130円弱。とはいえ、2台でおよそ7億8000万円!  ちょっと前の1ポンド=180円だったら、10億8000万円である。いまなら3億円も儲かっちゃう。

 ということもまたさておき、DB4GTザガート・コンティニュエイションのオリジナルは、1960年に発表されたDB4GTザガートである。レースで勝つために、前述のDB4GTをイタリアに送り、ザガートがより空力的で、より軽量、しかもより魅力的なボディに仕立て直した、これまたマニア垂涎のモデルである。生産台数はわずか19台がつくられたに過ぎない。

 つまり、最初からDB4GTザガート・コンティニュエイションをつくることを念頭に、DB4GTコンティニュエイションを企画しているわけだ。両者の中身はほぼ共通だから、コストダウンできる上に、ビジネスの幅も広がる。さすがである。

 でもって、DB4GTザガート・コンティニュエイションもまたサーキット専用で、購入したオーナーは、現代のDBS GTザガートでサーキットまでドライブし、そこでDB4GTザガートに乗り換えてサーキット走行を楽しむ、というようなことをして人生を楽しむ。これまた天才的なアイディアと申し上げるほかない。

 このようなビジネスが成立するのは、もともとイギリスに、とりわけこの時代のジャガーとアストンのレストアを専門にする職人さんたちがいたからで、逆にいえば、イギリスでしか成り立たない。もしできるとすればイタリアだろうけれど、イタリア人はイギリス人ほど利に聡くない……のかもしれない。

DB4GTザガート・コンティニュエイションの運転席。ウッドとレザーと金属、ガラスで構成されたシンプルな美が見る者の心をとらえる。プラスティック部品がひとつもないように見える。まさに工芸品。真っ赤なボディ色はオリジナルのDB4GTザガートがまとっていた赤色を使っている。アルミのボディは職人が手叩きでつくる。

『007 ゴールドフィンガー』に出てきたDB5を忠実に再現

 アストン・マーティンはさらに映画『007 ゴールドフィンガー』に出てきたDB5を忠実に再現した「ゴールドフィンガーDB5コンティニュエイション」を25台製作することも発表している。007映画の製作会社イーオン・プロダクションズの協力のもと、助手席が飛び出るかどうかは定かではないけれど、ナンバープレートが回転するなど、各種ガジェットが付いている。

 ちなみに、コーギーがつくったこのクルマのミニカーは発売初年の1965年だけで250万台が販売されたという。筆者も1990年代に売り出された復刻版を持っている。助手席、飛びます。

 その1分の1のお値段は275万ポンド。現在のレートで、およそ3億5750万円で25人の幸運なコレクター、ないし愛好家に引き取られる。納車は2020年から始まる。25台とは別に3台が製作され、イーオンとアストン・マーティンにそれぞれ1台おくられ、1台がチャリティの競売に供される。

 ジャガーも、2018年2月に「Dタイプ・コンティニュエイション」を発表している。いうまでもなく、伝説のル・マン3連覇を成し遂げたDタイプの復刻版で、製作台数は25台とされている。というのも、1955年当初の計画では、100台生産するはずだった。それが75台で終わった。その残りの台数を完成させて、計画を完遂するというのだ。

 25台のジャガーDタイプ、25台のアストン・マーティン・ゴールドフィンガーDB5、ふたつのコンティニュエイション・モデルがどんなひとのもとへと行くことになるのか興味のあるところだけれど、あいにく筆者は情報をもっていない。だったら書くな、ということですけれど、少なくともこれだけはいえる。超富裕層の出現がこのような1分の1ミニカー・ビジネスを生んだのだ、と。

 絵画だったら贋作かもしれない。でも、自動車は絵画ではないし、メーカー自身が設計図に基づいてつくる復刻版で、シャシー・ナンバーも付いている。これぞ現代アート! ということもできるかもしれない。

 結局は市場がどうとらえるか、である。その意味でジャガーとアストン・マーティンのビジネスの行く末を見守りたい。もしかして20年後、だれも見向きもしなくなって、中古車市場にひっそり数百万円とかで出てきたら、それこそ買いではないか。ま、そうはならんと私も思うけれど、可能性はゼロとはいえない……。