『ポッジョ・アッレ・ガッツェ・デル・オルネッライア』という白ワインが大好きだ。2020年7月。あんまり好き好き言っていたことを覚えていてくれた造り手「オルネッライア」は、なんとイタリアから、このワインの最新ヴィンテージである2020年を1本、届けてくれた。

『ポッジョ・アッレ・ガッツェ・デル・オルネッライア 2020』

話せば長い。この白ワインの成り立ち

『ポッジョ・アッレ・ガッツェ・デル・オルネッライア』という白ワインは、特別なワインだ。筆者個人にとってもそうだし、ワイン全体から見てもおそらくそうだ。なにせ1万円くらいする白ワインなのだから。以前、取材させてもらった歌手でありワイン愛好家の河村隆一さんは「特別なワインは、そうそうおいそれと開けてはならない」とおっしゃっていたのだけれど、筆者にとってこのワインはまさにそういうワインで、飲むのであれば、きちんと敬意をもって接することが出来る時に、と心に決めて、チャンスをうかがっていた。そのうちに2カ月寝かせてしまった……

送ってくださったオルネッライアの皆様。お待たせしてしまい失礼いたしました。

このワインがどういうものかを説明すると、キャンティ・クラシッコとかブルネッロ・ディ・モンタルチーノといったイタリアを代表する高級ワインの産地、トスカーナ州の、ボルゲリという、シエナから西に、地中海のそばまで行ったところで「ボルドーワインみたいなワインを造ったらすごいワインができるんじゃないか?」 と考えた「テヌータ・サン・グイド」というワイナリーが『サッシカイア』というワインを生み出したところ、これが大変評判になり、1970年代、トスカーナのすごいヤツ、ということで「スーパータスカン」と呼ばれるようになった、というところから話が始まる。

このサッシカイアと縁の深い、トスカーナの名門、アンティノリ家が、うちもやってみようじゃないか、と1981年に生み出したのが『オルネッライア』。『サッシカイア』と『オルネッライア』は良きライバルであり兄弟みたいな関係で、スーパータスカンを牽引して現在に至っている。

オルネッライアは造り手の名前であり、オルネッライアの最高級ワインの名前でもある。

そんな背景をもつスーパータスカンは、一般的には、超高級赤ワインのことを指す。

オルネッライアも、基本的には赤ワインに力を入れていて、2001年から2008年までは白ワインを造っていなかった(その前は造っていた)。しかし、白ワインでも世界最高のものを造りたい、という野望はあって、2008年に2001年以来お休みしていた『ポッジョ・アッレ・ガッツェ・デル・オルネッライア』(以下 ポッジョ。ポッジョはイタリア語で丘を意味する)をパワーアップさせて再開、さらに2013年に『オルネッライア ビアンコ』という白ワインを生み出した。

このうち、ポッジョのほうが、本拠地、ボルゲリの個性を表現したもの。オルネッライア ビアンコはそこからさらに一歩進んだ、ボルドースタイルの白ワインだ。

1滴のワインにドラマがある。それが魅力

ポッジョの魅力は毎年、表現が違うことだ。そもそもオルネッライアのワインは毎年違うのだけれど『オルネッライア』と『オルネッライア ビアンコ』は、スーパータスカンのリーダーとして、ある程度狭い偏差のなかに収まる。一方のポッジョはもっと自由な白ワインで、いつも変わらないのは高い品質と名前、そしてラベルについているチャーミングな青い小鳥さん(この小鳥がおそらく「ガッツェ」こと「カササギ」である)だけだ。

直近では昨年の2019年ヴィンテージが、内容的にはソーヴィニヨン・ブラン78%、ヴェルメンティーノ16%、ヴェルデッキオ6%という構成で、酸っぱくはないけれど、爽やかなレモンのような酸味が支配的だった。さらにその前、2018年はソーヴィニヨン・ブラン83% 、ヴェルメンティーノ11% 、 ヴィオニエ6%という構成で、桃をイメージさせるような、とろっと甘くてジューシーな雰囲気から酸味の余韻で楽しませてくれるワインだった。

そして、今、最新なのが2020年。 構成はソーヴィニヨン・ブラン69%、ヴェルメンティーノ 22%、ヴィオニエ5%、ヴェルデッキオ4%と2017年以来の4品種ブレンド。よーく冷やして、ドキドキしながらグラスに注ぐと、香りは奥ゆかしくもちょっとウッディさが混ざっている。一口目の印象は甘い!実際甘いわけではなくて、とろんとした液体で、桃とかパイナップルのネクターを連想させるのだ。

ポッジョにとって、このファーストコンタクトは常に前奏曲にすぎない。本当にすごいのはここからだ。ポッジョは口の中でするっと解ける。果たして2020年はここからどんなドラマを見せてくれるのか? 酸味が現れる。刺激的だがトゲトゲしくない。それは徐々に苦味を伴う。そしてまた酸味へ。その酸味は、穏やかな余韻を残す。そこから次第に、アミノ酸的な旨味が口内に残る。

美しい酸味をより味わいたい場合は、ちょっと温度を上げたり、空気との接触時間を増やすといい。一気に全部飲まないで2分の1とか3分の1ずつ、2日、3日と日をあらためて飲むのもオススメできる。

2019年のポッジョは、それ自身で完結している感がもっとあって、春夏秋冬を巡っていくかようなドラマを見せてくれた。一方、2020年のポッジョのドラマには常にちょっとしたスキがある。それゆえに人懐っこくもあり、かつ「あ、ワインがこの感じでくるなら、こんな料理を組み合わせたら面白いんじゃないか?」と想像できる。

つまり、2020年のポッジョは食欲を掻き立てる。