文=萩原輝美
トレンドが判りやすいミラノコレクション
「人が装う」ことは社会情勢と関わりながら、日常に刺激や楽しさを与える行為です。そして社会に伝わる“流行”の発信をしているのが年2回各都市で行われるファッションショー(コレクション)であることを前回お話しました。
その中で最も大規模なのがパリコレクションですが、ミラノコレクションではトレンドが判りやすく発信されます。ミラノは優秀な生産基地で、工場自体がブランド化され工場のオーナーが有名ブランドを傘下に収めることも少なくありません。たとえば、メゾン・マルジェラ、マルニ、ジル・サンダーは同じグループの工場で生産されています。
そのためかミラノコレクションに並ぶブランドのデザイナーは、ほぼイタリア人でイタリア生産です。安心、安定のミラノコレクションと言えるでしょう。
そんなミラノのクリエーションで常にドキドキさせられるのがグッチとプラダです。
ハリウッド大通りでファッションショー
グッチは、2015年アレッサンドロ・ミケーレがクリエイティブ・ディレクターに抜擢されて以来、次々と新しい発信を続けています。現在はミラノコレクションから出てイレギュラーな時期に年2回、メンズとウイメンズのコレクションを発表しています。
昨年11月、グッチが最新コレクションの舞台に選んだのはロサンゼルスのハリウッド大通り。そこで「GUCCI LOVE PARADE」と題した夢いっぱいのランウェイを披露しました。そして、大通りの歩道に座るドレスアップした観客たちがショーを盛り上げました。カラフルなネオンが煌めく大通りをパンデミックから脱出するかのような勢いでモデルたちが闊歩したのです。
広い肩からウエストをキュッと絞ったドレスにはブラトップが重ねられています。レースにオーストリッチ、フェイクファーなど装うことの楽しさをコラージュするコレクションはワクワクします。
ミケーレは言います。「好きな服なら毎シーズンでも着て欲しい」と。
今シーズンは今までよりほっそりしたI(※アルファベットのアイ)ラインが中心ですが、エッジが効いたエレガンスのグッチスタイルは健在です。
モダンでスポーティなミニマリズム
プラダは1913年、ミラノのヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガレリア(重厚感あるアーケード)でセレクトショップとしてスタートしました。1978年にオーナー兼デザイナーになったミウッチャ・プラダは創業家3代目となります。そのミウッチャが工場のオーナー、パトリッツィオ・ベルテッリ(現CEO)と結婚したことで、オリジナルブランド「プラダ」は拡充していきます。ちなみに1987年には私がファッション・コーディネーターを務めたギンザ・コマツに日本一号店をオープンさせています。
創業以来、バッグ、シューズのブランドだったプラダでしたが、1988年よりプレタポルテをスタートさせます。ミラノにある木造の古いお屋敷のサロンをカラフルなドレスを纏ったモデルが優雅にランウェイしたのです。そのデビューコレクションは今でも忘れられません。
2021年春夏コレクションからは、ラフ・シモンズが共同クリエイティブ・ディレクターに就任します。ラフ・シモンズはジル・サンダーで実力を発揮し、ディオールではクチュールも経験しています。カルバン・クラインをモードなブランドにしたデザイナーとしても知られています。
ブランド創業者の孫であるミウッチャは、イタリアらしいプレタの完成度の中にどこか品の良いお嬢さんらしさが覗きます。そこにラフ・シモンズの感性によるタイポグラフィーやスポーツテイストが加わり、新生プラダが誕生しました。
ミラノコレクションで発表された2022年春夏のプラダはミニマリズムです。今までのシンプルで削ぎ落としただけのミニマリズムではなく、どこかモダンなディテールが加わります。直線断ちのマイクロミニスカートは後ろに長いトレーンを引いています。トップスにはワイヤーを入れたブラカップやボーンのコルセットを入れたニットを合わせています。セクシーではなく、ボディを際立たせたランジェリーディテールです。サテンのIラインドレスの背中はぱっくり開き、ドキッとするミニマルスタイルです。
プラダはミラノと同時に上海でもショーを開催しました。ミラノに渡航できない中国のバイヤーやジャーナリストに向けた戦略です。ミラノと上海のモデルのランウェイを同時に映し出すという映像がデジタルで配信されたのも、新しい時代のスタイルと言えるでしょう。