文・写真=橋口麻紀
去る6月、あのフェラーリが初のファッションショーを開催。
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「リストランテ イル・カヴァリーノ」でのディナー
フェラーリ初のファッションショーが、マラネッロ本社の生産ラインで開催され、夢のようなショーの興奮冷めやらぬ中、多くのゲストは生産ラインのフェラーリを名残惜しそうに観ながら、次のサプライズへ促されました。
スペシャルなフェラーリ・デイを締めくくるのは、初のファッションコレクションのローンチとともにリニューアルオープンした「リストランテ イル・カヴァリーノ」でのディナー。
イタリアが誇るラグジュアリーの最高峰であるフェラーリと、今もっとも予約が取りにくいと言われるモデナの三つ星レストラン「オステリア・フランチェスカ―ナ」のシェフであるマッシモ・ボットゥーラの協演は世界中で唯一、ここマラネッロでしか実現しない夢の舞台でした。まさか、そこに自分が参加させていただくことになるとは。
ショーへの期待はもちろんだったのですが、同様に「イル・カヴァリーノ」に席をご用意いただいたことは、とても楽しみでありつつも、私は少し複雑な心境でした。
それは、あくまでも個人的な思いです。リニューアル以前の「イル・カヴァリーノ」はそもそもフェラーリの社員食堂でした。1950年に正式にリストランテになってからも、エンツォはこの場所をプライベートルームとして協力者やクライアント、親しい友人と昼食を共にし、グランプリレースの観戦なども楽しんでいたようです。
その中には、1945年フェラーリ最初の「125Sスポーツ」を設計したジョアッキーノ・コロンボや3度の世界チャンピオンに輝いたジャッキー・スチュワートなど著名なゲストや、何十年にも渡りチーム・フェラーリの一員として活躍したドライバーや技術者たちがいました。一緒にテーブルに着いたエンツォは、いつもリラックスしていたということです。
そんなマラネッロ伝説の一部であり、飾り気がないモデナ料理をトラットリアのような心地よさで堪能できるこのレストランが、私は大好きだったのです。
エンツォの面影もあり、カジュアルでリラックスして愉しめるリストランテが無くなってしまうのではと、老婆心ながら思ったと同時に、世界一のレストランと名高い「オステリア・フランチェスカ―ナ」同様、予約が困難なレストランに変貌してしまうのではないかと、勝手に思いを巡らせ複雑な心境になったのでした。
そんな思いを一人自問自答をしている数分の間に、世界が注目をする新しい「リストランテ イル・カヴァリーノ」に到着しました。
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ロッソとカヴァリーノがゲストを迎える
クルマから降りると、フェラーリだけに許されるロッソ(赤)とロゴであるカヴァリーノ(跳ね馬)のファサードがゲストを迎えてくれました。
ここから「リストランテ イル・カヴァリーノ」の新しいストーリーのはじまりです。
カヴァリーノに誘導されるように、ファサードをくぐるとガーデンが広がっており、目に入ってきたロッソとグリーンの眩しさは、まさにイタリアならではの美しい風景。
そして、ガーデンの花々の中にcavallino(カヴァリーノ)のサインを見つけたのですが、それはとてもさり気なく、気品さえも感じました。と同時に、先程ここに到着するまで感じていた私の複雑な思いが、完全に期待へと変わった瞬間でもあります。
リストランテに一歩足を踏み入れると、一番に目に入ってきたのはフェラーリの象徴であるカヴァリーノでした。以前はファサードには鎮座していたものの、店内では見受けることはなかったのです。
そして、奥に進むにつれ目に入ってくるのは、輝かしい歴史に名を連ねた数々のフォーミュラ ウノ(F1)のムゼットやエンジンが違和感なく、リニューアル以前の店内と同様に飾られている様は、まさに感動の一言でした。
敷居の高いリストランテに変貌するのではなく、以前のリストランテへのオマージュが随所にみられ、それはボットゥーラのフェラーリへのリスペクトをも感じる瞬間でもあり、とても私自身が高揚しました。
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店内のファニチャーなども、リニューアル以前のものをバージョンアップしたかのようなデザイン。以前と同様に椅子にカヴァリーノのサインを見つけた時のうれしさは言葉には出来ないほどでした。
フェラーリとマッシモ・ボットゥーラとの協働。この”協働“という意味を店内のいたるところのディテールに改めて感じ入り、私の複雑な思いは完全に消え去り、これからはじまるディナーへの期待が高まるばかりだったのは言うまでもありません。
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マッシモ・ボットゥーラの料理
ここからはマッシモ・ボットゥーラ率いる「オステリア・フランチェスカ―ナ」のチームによるピアッティの素晴らしい世界がはじまります。
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まさに五感で愉しむ、鱈の地中海ソース
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Aceto Balsamico Tradizionale di Modena Extra Vecchio
Villa Manodori
クリームにしたパルミジャーノ・レッジャーノを少し硬めのムースに。
熟成したモデナ伝統のバルサミコ酢と一緒に
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モデナ伝統のロゼッタをフォルマッジョのソースで。
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豚肉もモデナを代表するピアット。シンプルにリブに
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マスカルポーネのドルチェ。ボットゥーラのシグネチャーピアットを彷彿とさせます
すべてのピアットに、モデナひいてはエンツォへの深い愛が感じられました。
マッシモ・ボットゥーラもエンツォ・フェラーリも共にモデネーゼ(モデナ生まれのモデナ育ち)です。フェラーリの崇拝者でもあるボットゥーラは、今回のリニューアルでモデナ料理に活気を与え、今の時代に寄り添ったかたちで郷土の歴史とアイデンティティを見直し、過去の良いところを現在と未来の味で最大限に生かしていたように思いました。
「一皿一皿にまつわる物語のある、美味しくてヘルシーな料理。それは誰もがノーとは 言えない料理なのです」
ボットゥーラのこのコトバをまさにピアットごとに感じることができた、素晴らしい世界でした。
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素晴らしいディナーと空間を堪能させていただいた、スペシャルなフェラーリ・ディの舞台の幕が下りるころ、心身が満たされ、とても幸せな気持ちになりました。
イタリアが誇るエンツォ・フェラーリとマッシモ・ボットゥーラのパッショーネが散りばめられた新しい「リストランテ イル・カヴァリーノ」は、イタリアのライフスタイルが凝縮されており、モデナが誇る、唯一無二、最高のリストランテとして復活したのです。
ファッションコレクションと同じように、エンツォはブラボ―と言って、ボットゥーラを讃えているに違いありません。
モデナへの感謝を込めて。
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