ブランド誕生から6年。720mlで38,500円ながら抽選販売が恒例という大人気作『百光』を筆頭に、高級日本酒で知られるSAKE HUNDREDから新コンセプトの『弐光』が9月24日(火)に発売になった。9,900円というブランド唯一の1万円切りの価格をもって、ついにスーパーを含む全国の小売店に挑む。この挑戦、どうなる? 早速、試飲した。

『弐光|NIKO』Extraordinary Sake

 何十万本も売りたい!

日本酒界隈にはやたらと熱っぽい人が多くいて、生駒龍史さんもだいぶ熱っぽい人だ。自分と私の前にグラスを置いて新作『弐光』をそこに注いだあと、静かにこの新作を味わって── 

「僕はこれを何万本、何十万本と売りたいんです」

と言う。そして、私はこれは売れるだろうな……とおもった。

清々しい透明感。果汁のような爽やかに甘いニュアンス。すごくチャーミングで、ナウい。日本酒に詳しい必要なんてなくて、多くの人がキュンと来て「これ好き!」って言いそう、と感じたのが、私が売れるだろうな、とおもった理由だ。

このナウい感じは、SAKE HUNDREDの他の日本酒にも共通していることだし、控え目ながらも後半にかけて確実に感じられる、ミネラルっぽい、そして引き締まった塩味と苦味が、この飲み物が高級なものであることを物語る。香りの複雑性も、シリアスな愛好家が真面目に向き合ってニコっとしちゃう水準にあるとおもう。

ボトルはこれまでのSAKE HUNDRED同様、内部の酒の品質をしっかり保つもの。ラベルはちょっとだけかわいい感じになっている

いやいや、こんなのよくおもいつきましたね、生駒さん。

「この弐光に関しては、最初から私のなかにかなり具体的なイメージがあったんです。実際の酒造りは昔から僕のことを支えてくださっている『上善如水(じょうぜんみずのごとし)』の白瀧酒造さんと組んで行っていて、何度も何度もこれじゃないを繰り返して完成しました」

この弐光の説明資料の最後の方のページに、白瀧酒造の当主、高橋晋太郎さんのコメントがあるのだけれど引用すると

「『弐光』の商品コンセプトをSAKE HUNDREDから聞いた際、日本酒を飲み慣れていない方に向けた商品を造り続けてきた白瀧酒造にとって、まさにだと思い、挑戦を決めました。SAKE HUNDEDとご一緒することで、枠を超えた色々な観点、方向性の提案をもらいながら、共に目指す味わいに向けて研究 を重ることができました」

とのこと。ホント、日本酒業界には熱っぽい人が多い。

価格も注目点で9,900円(税込)。これも絶妙だ。現在のSAKE HUNDREDで唯一の1万円切り。しかも全国のスーパーやカジュアルな小売店にも並ぶという。

店頭陳列イメージ。これまで、ECでの直接販売と限られた店舗での販売しかなかったSAKE HUNDREDブランド。実は小売店からの「もうちょっと安ければ取り扱いたい」という声は多かったという。弐光はそこに合わせて生み出された

ちょっと贅沢したいときとか手土産に1万円。私は仕事柄、1万円のワインと比較して考えて、ああ、だったら弐光のほうが合う場面は結構ありそうだな、とおもうのだけれど、あなたにとって1万円、いかがでしょうか? 友達の誕生日とか、夕飯に誘われちゃったときにも、ちょうどいいとおもいます。

食卓をぐっと優雅にしてくれそうな弐光。スーパーや百貨店のお惣菜との組み合わせも考慮している。生駒さんによれば、唐揚げとも合いますよ、とのこと

前代未聞の四段仕込み

と、話は大体以上なのだけれど、もう少し解説をすると、生駒龍史さんは25歳で日本酒に魅了され、SAKETIMESという日本酒Webメディアを創設。そこで、市場規模が最盛期の4分の1になっている日本酒業界に対して、何かできることはないかと考え、日本酒の質に対しての価格の安さに注目した。4倍の価格でも買ってもらえる日本酒を生み出し、それが売れれば業界の突破口になるのではないか? そういうリスキーな挑戦は、老舗として社会的な役割があり、さらに経営も苦しい日本酒蔵では難しい。しかし日本酒蔵の関係者ではない自分ならば可能ではないか? と、そんなアイデアを実際にやってしまった人物だ。

生駒龍史さん

そうして生み出された高級日本酒ブランドがSAKE HUNDRED。酒の設計から関わり、販売、カスタマーサービスなどのリスクは一切を生駒さんの会社が引き受け、酒造り部分は生駒さんの発想に賛同してくれる日本酒蔵と協業している。今回の弐光で言えば、白瀧酒造がパートナー。

時々、訳知り顔で生駒さんのことをあやしい、という人もいるのだけれど、パートナーの酒蔵をはじめ、日本酒業界での彼の愛されぶりを見ると、私にはそうはおもえない。

そのSAKE HUNDREDの処女作にして代表作が『百光』。この日本酒、精米歩合18%、つまり酒米のうちの82%は使わないという異常なまでの米の磨き込みが特徴なのだけれど、当然、大量に「ぬか」が出る。これは捨てているわけではなく、飼料とかおせんべいとかに使われていたそうなのだけれど、これを日本酒に使えないか? ということで、弐光では、甘酒のようにしたぬかと白麹を仕込みの最後に加え、一般的な日本酒の「三段仕込み」を「四段仕込み」にしている。

こんな前例のないことをやりながら、狙った日本酒に仕上げる、というのはだいぶ大変なはずなのだけれど、やりきっちゃうのが日本の杜氏さんや蔵人のスゴいところ。

ここで、白瀧酒造の杜氏・松本宣機さんのコメントを引用すると

「『弐光』の開発は、私の酒造歴の中でもかなり難しい1本でした。SAKE HUNDREDの生駒さんや商品開発責任者とも具体的に相談しながら、実際の造りのフェーズでも、酒母や醪の日々の変化を追いながら調整を繰り返す、まさに毎日が勝負でした。僕自身も、味わいに感動しています。今回、原料に米ぬかを使う挑戦もしています。10回以上試験を行い、SAKE HUNDREDとだからこそ実現できました。今後、サステナブルな社会における取り組みの一環として、良いモデルケースになればと思います」

白瀧酒造の杜氏 松本宣機氏

日本酒のルール上、この四段目の影響で「普通酒」という扱いになるけれど、三段仕込み部分は新潟県産の酒米「五百万石」を使用した精米歩合40%の純米大吟醸。

ちなみに『百光』のほうは純米大吟醸の名門「楯の川酒造」がパートナーで、⼭形県の出羽燦々という酒米の有機栽培のものが使われているので、ぬか部分はこの出羽燦々。

山形と新潟の名門と名門とのクロスオーバーが起きているのもドラマチックではないでしょうか?