チャレンジ企画第5弾ははじめて武道に挑戦。合気道を習うことになった。この企画は、TAKIさんのヨガ仲間で、メンズヨガ (※1)の共同主催者でもある青江信明さんの紹介で実現した。合気道歴約10年の青江さんが師事する小島三男先生(茅ヶ崎・平塚合気会代表)の教室に、特別に参加させてもらったのである。2人とも合気道についての知識はほとんどなく、僕がイメージできたのは袴を履いた道着姿と力を使わずに相手を投げる、ということだけだった。事前に青江さんから言われたのは、試合のようなことはしない、投げがあるので長袖、長ズボンで来てください、ということだけだった。我々2人は、どういうことになるのか少し不安を抱きながら、会場である平塚総合体育館武道場に向かった。

大きな力を使わずに相手を制する

 合気道を習うにあたり、まっさらな気持ちで臨みたいので事前情報は入れないで行こう、と思っていたのだが、どうしても気になって調べてみた。すると力学的技術を使い、相手重心を制御することで、大きな力を使わずに相手を制するということ、技の数が一説には2884もあるということだった。結局、わかったのは難しいので事前に何を入れても無駄だということである。事前情報は、ただ緊張感を増すだけの行為に他ならないようだ。ただ、合気道は戦う武道ではないので試合をすることはない、とだけは聞いていたので、その点だけは安心して臨めるかな、と思っていた。

 稽古に入る前に、先に少し触れた青江信明さんについて述べておく。彼は合気道3段。還暦の僕よりも少し年齢が下なだけで、ほぼ同世代だから、キャリア10年となると40代で合気道をはじめたことになる。それで3段まで取得しており、動きも同世代と思えないほど軽やかだ。TAKIさんと同じくヨガの先生であり、サーファーでもあるので、彼女がどれだけ動けるかを知っている僕としては、合気道をはじめた時点での体力、運動能力は、たとえ40代であろうとも、一般的な人たちとは次元が違うのだろうなということは想像できた。

 今回は青江さんとほぼ同じくらいのキャリアだという奥様の裕美さんも、同じ教室通っていることもありサポートしてくれる。とても心強い。

 合気道に臨むにあたり、長袖長ズボンの着用を、と言われ、僕は変わらずニューバランスに提供してもらったウエアを着用させてもらった。一方、TAKIさんは旧知の裕美さんと体格がほぼ同じということで、彼女の道着をお借りして参加することになった。合気道といえば袴だが、男性は初段から、女性は3級を取ってからしか履けない。なので当然、袴を履かない状態。いわゆる柔道着のような出立ちとなる。着替えて出てきたTAKIさんの姿を見ると、とても似合ってるので驚いた。出立だけなら有段者である。ヨガウエアの時もそうだが、彼女は何を着てもよく似合うようだ。

幅広い年代の人たちが集う教室

 お互いに着替えが終わり準備も整ったところで、平塚総合体育館の地下にある武道場に向かう。そこには柔道用の畳が敷かれていた。投げ技があるので当然か、と思いながらちょっと緊張してくる。

 小島先生や他の道場生のみなさんに挨拶をして、いよいよ稽古開始である。この教室に習いにきているのは、僕よりも年上の方から小学生までと、とても幅広い。もちろん男女共にいる。大人はほぼ袴を履いているようなので、それなりのキャリアの持ち主に違いない。ますます緊張感が増してきた。

 まずは先生の指示に従って準備運動がはじまる。いわゆるストレッチである。いつも通りTAKIさんは慣れたもので楽々こなしている。というか、キックボクシングの時と同様に形が美しい。僕はといえば、相変わらず身体が硬いのでやっとの思いでついて行ってる感じだ。

 身体が解れると、次は基本動作。まずは受け身である。投げ技が多い合気道には欠かせない動作だ。何十年ぶりにやってみたのだが、よくわからない。後ろ受け身、横受け身は、なんとなくできるが、前回り受け身はあってるのかさえもわからず、とりあえず回転して見た。はじめての経験というTAKIさんはかなり戸惑っているようだった。

「合気道が、というより、武道体験が生まれて初めてのことで、こういう世界もあるんだなぁ、と。精一杯、先生方の指導についていこうと思いました」

合気道では自分から攻撃することはない

 準備運動がひと通り終わると道場の端に一列に並び小島先生の話を聞く。これから稽古する技の説明である。まずは「片手取り一教」というもの。先生は話しながら見本となる技を実演するのだが、ここで青江さんが呼ばれる。技をかけられる側なのだが、かける先生も、かけられる青江さんも美しい。もちろん受け身も完璧!合気道有段者のレベルの高さを思い知る。

 合気道は自分から攻撃するものではなく、あくまでも受身。なので、受ける方が主となる。「片手取り一教」の要領はこんな感じだ。

 右相半身の構えから、相手の右手首を右手でつかむ。

初心者の我々には、技の稽古に入る前に小島先生自ら手ほどきしていただいた

 右手首をつかませると同時に右手刀を切り上げ、受けの側面に入り、上がった肘を左手で下からつかむ。そのまま踏み込んだ左足を軸に素早く向きを変える。と同時に、受けの肘と手首を切り下す。手首と肘を制しながら相手をうつ伏せにして抑える。相手の肘が浮かないように手のひらを上に向ける。

 実際にやってみると思った以上にできない!何度も頭の中で反復して、実際に動かしてみるとどう動いていいのかわからないのだ。教えてもらって一度できても、また同じことを、と言われてもできない。どうするんだ、これは!でも、ついていくしかない。

技が進むとまったく覚えられない!

 続いて、少し難しくなり「片手取り四方投げ」である。

 相手に手首をつかまれたら、後ろ足を進めながらもう一方の手を相手の手首に当てる。さらにもう一歩進めながら振りかぶる。そして、180度向きを変えて、刀で切り下ろすように投げる。

 つまり、自分の前に落とす(投げる)感じになる。

 ひとつの技の稽古が終了するたびに整列、正座をして、先生から技の説明を受ける。その際は、いつも実演してくれるのだ。

 技はさらに難しくなり、もはや説明を受け、実演を見てもどうなってるのかさっぱりわからなくなってきた。

 次に習ったのは「正面打一教」である。

 相手が手刀を正面から振り下ろしてきたところを、下からすり上げて受ける。受けた後は一歩中に入り、相手の肘を突き上げる。その際、自分の姿勢をまっすぐ保つことが大事だそうだ。

 肘を突き上げたら、自分が進む方向に少し腰を切る。次に後ろ足を大きく一歩踏み込んで、同時に突き上げている手を自分の前に下ろして、相手を落とす、というもの。

そのまま内側の足を相手の脇の下に入れて制する。その後は正座で爪先を立てる跪座の姿勢を取る。両手は肘と手首、膝を脇腹と手首にあてることで相手を完全に制するのだ。

 文字で書くとこんな感じだが、やってる方は何をやってるのかさっぱりわからない。相手をしてくださった道場の方の言った通りにやったら、なんとか形(のようなもの)になっていたという感じだ。

理にかなった動きで軽く投げる

 稽古が進むと、技はどんどん高度になっていき、もはや言われるままにこなしていくという状況である。今度は「正面打ち入り身投げ」。

 手を刀に見立てて、頭を切るように上からまっすぐ手を打ち下ろしてくると、それを右手で受ける。そして後ろ足を大きく一歩出して、相手の背中側に並ぶくらいに入る。相手の側面に入ることを「入り身」という。

 その後、向きを180度変えて、相手と同じ方向を見て、相手の首の付け根に手をかける。次に前足を一歩後ろに引いて、相手を自分の前に落とす。この時、手で引っ張って、相手を落とさないように。首の付け根の手は、ひっかけたまま動かさず、腰と足の動きで相手を崩すようにする。この時、手首はまっすぐにして、相手の手の上に軽くのせておく。

 落とした相手の首にかけている手の力を少し緩めると相手が起きてくる。そうしたら、相手の頭を自分の肩口につけ、後ろ足を一歩出して、伸ばしている方の手を内側に回しながら投げる。

 こう書いてはみたものの、もう一度やれと言われたら絶対にできない自信がある。それほど難しい。が、軽く投げてしまう。不思議だ。

 教えてもらうと一旦は理解したつもりになるのだが、いざ動作に入るとどっちの手をどう動かすのか?足はどのように連動すればいいのか?まったくその通りには動けない。こんなのどうやって覚えるんだろう??と、頭の中が迷路に入り込んだみたいになってしまった。これは向いてないのか?TAKIさんは理解しているのだろうか?どんどん不安になってくる。

有段者でも理解するまで数年

 とくに今回は実際に技をかける稽古に入ると、マンツーマンで教えてもらう形になっていたので、いままでのようにTAKIさんの動きが全然わからない。横で技を教えてもらってる気配はするのだが、僕も必死なので彼女の動きをケアする余裕がまったくないのだ。

 稽古も終盤になって、TAKIさんに「どうだった?」って聞くと、僕同様「全然覚えられない!」という。青江さんにも聞いてみると、「最初はそんなもんだ」と。青江さんでさえ理解できはじめたのは数年経ってからだという。僕ら初心者が理解できるわけないのだ。

 とはいえ、理解できるとこんなに理にかなったものはないのだろう、と思う。力ではなく、関節をベースに身体の構造を逆手に取って技をかける。すると面白いように人はひっくり返ったり、腰を落としたり。本当に魅力的な武道だ。

 最後の方は、もちろん技の練習もしたのだが、身体の捌き方をポイントに教えてもらった。ちょっと身体をズラすだけで相手をかわすことができる捌きは、本当に面白いし、日常生活でも役に立つのではないかと思ってしまう。実際には、どう応用すればいいのかわからないのだが。

身体の捌き方を教わる

 TAKIさんは、女性の有段者から痴漢撃退にもなる、と言われ、技の応用などを教わったらしい。たしかに合気道の技を習得しておくと、フツーの人はあっという間に組み伏せられてしまうかもしれない。自身が攻撃しないことも含め、女性が習うのに最適であり、是非ともおススメしたい武道である。

 そして何よりも「突然目の前にハプニングや想定外のことが起こった時、状況を冷静に対処する判断力も鍛えられそう」(TAKI)ということだ。これは生きていく上で、本当に欲しいと思えるスキルである。

女性の場合、痴漢から身を守るための応用ができる

 礼にはじまり礼に終わる。平塚合気会の稽古は、緊張感がありながらも、技は丁寧に教えてくれるし、疑問にもしっかりと答えてくれるなど、穏やかで、またやってみたいと思えるものだった。

 そして、最後は全員で道場の掃除。ここまでやって稽古は終了ということになる。

最後はお世話になった道場をみんなで掃除する

 合気道の約2時間は、身体を使い、それ以上に頭をフル回転させた時間でもあった。それでも追いつかない焦りを感じたのだが、小島先生、青江さんご夫妻、そして道場の方々の丁寧な教えとアットホームな雰囲気もあり、とても有意義な時を過せたな、という充実感が残っている。

1日お世話になった平塚合気会のみなさんと
 

◆相模合気道連盟

https://sagami-aikido.com

◆公益財団法人合気会

http://www.aikikai.or.jp

◆青江信明さん、裕美さんが主催する「レインボーヨガルーム」

https://rainbow-yoga-room.amebaownd.com

※1 青江さんとこの企画のパートナーTAKIさんは、不定期ではあるが「メンズヨガ」を『茅ヶ崎うみかぜテラス』をベースに湘南エリアにて開催している