チャレンジ企画3回目は、これまでのスポーツ系と違い、文化系の書道を選択。経緯は、この企画のパートナーであるTAKIさんが書道の有段者であることから、師事しているふたば書道会の柴田先生に習ってはどうか、という話に。そして、趣旨を先生に快諾していただいたので、僕は小学6年生以来の書道をすることになった。

 企画は決まったものの、この50年近くほとんど筆を持ったことがない。近年パソコンが普及してからは、日常ではペンもほぼ持たなくなっている。筆系に至っては、冠婚葬祭時に芳名帳に記入することくらいか。それも年に何度もあるわけではない。どうしようか、と思いつつも、文字なのでなんとかなるかも、といつものように楽観的に考えながら当日を待った。有段者のTAKIさんとの対比も見てもらえればと思う。

遅咲きの書道家

 今回、書道を教えていただくのは、「ふたばの岬書道教室」柴田壽縁(じゅえん)先生である。現在78歳の柴田先生は、60歳を過ぎた頃に武田双雲先生に師事して本格的に書道に取り組んだという、遅咲きの書道家だ。

中国の古代文字である、甲骨文字を、柴田先生は昨年78歳にして習いはじめたという。その「学ぶ」姿勢には頭がさがる

 事前に還暦を過ぎて新しいことをはじめ、教えるレベルまで達したということをTAKIさんから聞いていたので、書道ということを抜きにしても、是非お会いしたいと思っていた先生である。そして、これも事前情報として「とても自然体の人ですよ」とも聞いていた。

 それは、すぐにわかった。朝、教室のインターフォンを鳴らすと、しばらく経って先生がドアを開けてくれたのだが、頭髪に寝癖がついたままだったのだ。後で聞くと、こちらが予定時間よりも30分早く訪れたので焦って出てきたから、ということだった。僕はいまだに時間は予定通りだと思っているのだが(笑)

 先生に挨拶をしているとTAKIさんも到着。彼女は有段者であり、初等師範なので、らしい格好ということで着物に袴というスタイルに着替えてもらう。僕は初心者なので、汚れてもいいようにオーバーオールを着て臨むことになった。

 筆は教室にあるものをお借りして、TAKIさんも自分の筆を持っているのだが、今回はあえて教室の筆で書くことになった。ただ、最初に持った筆が太かったので、僕が使う予定の筆と交換。

「弘法筆を選ばず」(福留)

「そうそう」(TAKI)

「もう選んでるけどね、一回(笑)」(福留)

 というユルく和やかなやり取りの後、スタート。

 書く文字についてだが、TAKIさんは通常通りの課題文字を書いてもらい、僕は基礎からということで、先生から、一、横、縦、横払いの順で指導を受ける。小学生以来の感覚。やはり、払いは難しい。

まず書き方の基本を柴田先生から教わる

慣れてくると力のコントロールができる

 先生曰く「この教室で一番上手い」というTAKIさんは、細くて難しい文字を書きはじめた。するとカメラマンの三田村くんから「繊細ですねー」という声が。細いと難しいのではないだろうかと思ったが、「慣れてくると力のコントロールができてくるので、かえって細い方が書きやすかったりするんです」ということだ。

 まさに大人と子供。横に並ぶの嫌だなぁと思いつつも、48年ぶりなので仕方ないか、と思い直して自分の課題に取り組む。

 ちなみにTAKIさんは小学1年生から中学3年生まで9年間書道を習っていて、当時の教室で8段までいったのだとか。その後は遠ざかっていて、湘南エリアに越して来てから柴田先生の教室を紹介してもらい、再開したということである。そして、約8年。現在は準7段で、中学生までを教えることができる初等師範の資格を持っている。子供の書道教室は開けるレベル。いわゆる先生でもあるのだ。

基本の払いなどを書いてる横で、TAKIさんは自身の課題文字を書きはじめる

 そういう人なので僕とは比べるレベルにないのだが、企画上、当然横に並べられる。そんな僕の最初の一文字は「五」。ホントに小学校低学年レベルの文字からである。それでも、こういう画数の少ない文字は難しいんだよな、などとビツブツ言いながら書きはじめた。

 書き終えると、TAKIさんから「なかなかスッキリした性格ですね。思い切りがいい」と。字である程度わかるんだという。先生とカメラの三田村くんには「真ん中に書けてる」とお褒め?の言葉をもらう。

はままるをもらったのだが……

 ともあれ、我ながらまあまあの出来。先生に“はなまる”をもらい、ちょっとやる気が出てきた。これは乗せられたのか?と思わないでもなかったが、根が素直なので、そのまま受け止めて次の課題に移ろうとすると、TAKIさんから「先生、甘い!」の声が。すると先生も「初めは甘くしないと(笑)嫌になっちゃうと困るから」と。やはりそうだったのか……。

丁寧に、ゆっくりと

 次は2文字で「気温」。小学3、4年生レベルである。これも得意な漢字ではないな、と思いつつ筆を進める。ちょっとハネるところが乱れた。すると横で書いているTAKIさんから「丁寧に、ゆっくり」との言葉が。僕には、どうもさっさと書いてしまおうと急ぐ癖があるようだ。その後は、ペンじゃないんだから、と自分に言い聞かせながらゆっくり書いた(つもり)。

 書き終えると、TAKIさんから「朗らかな性格が出てますね(笑)」と。続けて「こういうのって、お手本より細くなったり、小さくなったりするんですけど……」

 先生に添削してもらうと、やはりTAKIさんに指摘されたハネる部分にアカが入れられた。「気のハネはすっと上にあげるだけで、コテコテしない。上にあげるだけでいい」とのことだった。

TAKIさんにしてきされたハネる箇所にアカを入れる柴田先生。もっともだ

 続いて5、6年生の字「空と地」を書く。

 書いている途中で、先生が急に「柳葉魚」はどう読む?と話しかけてきた。「???」そこにいた誰もが読めない。これは「ししゃも」と読むのだそうだ。

 この教室は、こういうふうにちょくちょく雑談が入りながら進んでいく。和やかで、楽しい雰囲気だ。まさに大人の書道教室!

 また書きはじめると、隣で「うっ」という声が。「なに?」と聞くと、「シュッとやられると(笑)」どうも僕の書き方が速くて、雑な感じがしたみたいだ。悪い癖がまた出た。「いい加減さを感じる。ひとつ一つ丁寧に」ということだった。

書き急ぎ雑になると、即座に指摘が入る

途中で力が抜けている

 書き終えると、柴田先生の添削に。

「ここのハネとここが難しいのね」(柴田先生)

「これがペロってなったんですよ(と言い訳)・笑」(福留)

筆の強弱が難しい。

「同じ力でやった方がいい。途中で力が抜けてるから」(柴田先生)

「そうですね。シュッてなってるからね」(TAKI)

「五はちゃんと力が入っていた」(柴田先生)

だから“はなまる”。

「ちょっと自信がなくなってきてる?」(TAKI)

「文字が多くなるとバランスを考えたり」(福留)

「そうですね、頭で考えはじめると難しくなるんですよね」(TAKI)

 というやり取りをしていると、柴田先生が「ここに名前を書いて」と。いま書いてた太い筆で名前を書けというのだ。うーん、難度が上がる。

「太いので細く書く練習」(柴田先生)

「先っちょで、ね」(TAKI)

 もちろん、太い筆で名前など書いたことがないので難しい。こういうのって細い筆で書くものではないのだろうか、などアレコレ考えてしまう。

「60年書いてきたので大丈夫でしょう(笑)」(TAKI)

「でも書きにくい!」(福留)

「いいんですよ、自由に書いた方が可愛い字になります。太い筆の方がアートな字が書けます」(TAKI)

太筆で書く小文字はさすがに難しい、が、筆1本で自在に書けるようになれれば格好いいではないか

飛び級で中学生!

 なんとか書けた!すると思いかけず先生からお褒めの言葉が。

「太筆で、それだけ書けたら大丈夫よ」(柴田先生)

「飛び級で中学生!」(TAKI)

 先生が2人いると大変だが、褒められると2倍嬉しい!余韻に浸ってると、柴田先生から「なんでもいいから好きな字を書いて」との指示が。そう言われると書きたい文字がない!

 いろいろ考えてると「自由に書くから、結局、上手も下手もないの。これに書きましょ」とちょっと長めの半紙を渡された。

大きさにバラツキがないように、バランスを計っている横で、なにやらちょっかいを出そうとするTAKIさん。こういうゆるい雰囲気も楽しさの要因だ

 で、書いたのが「稲村ガ崎」という四文字。

「四文字を均等に、どれかが大きくならないように!」

 それだけを考えて書きはじめた。

途中までは順調だった、が

 そして、最後の「崎」の字を書いている途中で「あっ」と、文字を間違えたことに気づく。日頃字を書かないとこんなことになるんだ、と改めて反省するのだが、先生をはじめ教室の皆さんは「いいんです」と。そこは気ににしなくていいみたいなのだが、こんな基本的なことを間違えて、本人的にはスゴくヘコんだ。

 カメラマンの三田村くんにこの字は撮らないで、とお願いしつつ書き直しを頼むと、先生は「これでいい」ということなので、そのまま従った。TAKIさんも「アートなので大丈夫」と笑っている。これも自由だからいいのだそうだ。

 そして、この失敗作(本人的に)に落款を押してくれるということに。「上手に押すと、作品がピシッと締まる」のだという。個人的には、これには押したくないと間違いにこだわるのだが、結局、空いているところに押すことになった。

 落款を押す。

少し右サイドの方が空いていたので、そのセンター付近に落款を押してみた

「いいと思います。なんか可愛い」(TAKI)

「これも面白いよね」(柴田先生)

 なぜかここで習うと伸び伸びした字が書けそうな気がする。僕は、まだ字を間違ったことを気にしているのだが(しつこい)。TAKIさんは「そんなの気にするな」と言い、「じゃあ、その部分を犬のお散歩マークとかにすれば」と。それもアリ、ということである。

 一応、ここまでが室内で習う書であった。僕は計4枚書いた。結局はじめの「五」のみがはなまる。それもオマケで(笑)文字が増えていくにつれ、書き急ぎ、落ちていった感じ。自己採点としては、50年近くぶりなので“ま、いっか”という感じ。

 最後に今日書いた書を持って、先生、TAKIさんと並ぶ。僕は迷わずはなまるをもらった「五」を持つ。TAKIさんは「聴雪添詩思」の四文字。“しんしんと降る雪の音を聞いていると詩が浮かんでくる”という意味だそうだ。彼女は僕のことを気にしてくれていたので、今日はこの一枚しか書いていない。結果は、まあ、ご覧の通りである。

室内での「書」を終えて。TAKIさんは「聴雪添詩思」、僕は「五」。

海に望む庭で段ボールに

 後半は庭に出て大きな筆で段ボールに書くことになった。

 ここからはTAKIさんの先輩、熱田智恵美さんも参加してくれることになった。彼女はもともと柴田先生に習っていて、現在は日展などに出品されている書道家である。

 そんな人が参加、となると、ますます差が出る!と一瞬躊躇ったが、心の中で「アート、アート」と言い聞かせながら望むことにした。とはいえ、とにかく海を望む先生宅の素晴らしいロケーションで行われた、段ボール書道は爽快だった。

しっかり墨をつけて「縁」の文字を書きはじめる智恵美さん

 少し風も出てきたが、まず智恵美さんがお手本とばかりに「縁」の字を書いた。慣れた手つきでササっと書いていく。ウマい!そして迫力もある。見惚れていると僕の番に。まだ書く文字も決めてない!

「どうしよう!」と迷っていたら、柴田先生が「福」を書きなさい、と。「縁」の次は「福」が良いということなのだが、それは僕が初めてなので、書き慣れた文字を、と気を使ってくれたのだ。

字を間違うという不安がない分、おもいっきり書くことができた!みたい

 もう書くしかないので、開き直って書いた。そう思えたのが良かったのか、筆やダンボールの大きさが良かったのか、なかなか大胆に書くことができた!と思う。墨をタップリつけると筆も重くなるし、腕を大きく使わないと書けないので、これは僕みたいな初心者にも思い切れて楽しめる!と思った。

 続いてTAKIさん。彼女はハイカラさんよろしくブーツを履き、チャレンジ。文字は当初「金?(かね)」と言っていたのだが、やはりここは女性らしく「愛」を選択。最後のハラいを大胆に上方へ。さすが、アートである。

ブーツを履いている分角度がつくが、そんなことを感じさず、滑らかに筆を動かすTAKIさん

果たしてモップで書けるのか?

 続いて、今度は筆をモップに持ち替えて書くことに。箒で書くこともあるらしい。これも自由に描くことが大切である。

 智恵美さんはここで「美」という字を選択。果たしてモップで書けるのか?と思ってみてると、一見読めないが魅力的な「美」を描きだしていた。先ほどは書き、今回は描いた感じであった。まさにアートである。

まさしく「美」である

 続く僕は、これも先生の配慮で「留」の字を書くことに。モップは初めてだけど「60年書いてきたので」まあまあ書けたかな、と思う。ちょっと崩してもいいと思うことで、気分的にはかなりラクな感じであった。

慣れてきたこともあり、少し上手く書けたかな、と思う。モップは意外と書きやすい

 そして、最後はTAKIさん。彼女は迷った挙句「遠」を選択。永遠の「遠」である。モップで書くには細かいがどうだろう、と思っていると「アートなので大丈夫!」と言いながら書きはじめた。言葉の通り、「しんにゅう」の最後のところをこれでもかというほど延ばして、書き終えた。“永遠の「遠」”らしい「遠」である。

ダンボール幅をいっぱいに使ったしんにょうが面白い!

 自由に文字を書くのは楽しい。文字を書くときは、どうしても上手く、上手くと思ってしまいがちだが、ここでの体験で自由に書けばいい、ということを学んだ。どんな場面であれ、生きていく限り、日本人である限り、漢字などの文字は必ずついてまわる。それがアートと言えるものにもなり得る、ということを日本人はもう少し誇るべきである。

屋外で段ボールに書き終えて。左から智恵美さん、TAKIさん、柴田先生、福留

 そして「大人の書道教室」の楽しさを味わえたのも貴重な体験だった。それは子供の時に習っていた書道教室とはまた違った、ゆるーくて、愉しいものであった。僕ははじめて覗いた世界だが、そういえば、TAKIさんは小1で書道を習いはじめる前に、お母さんが習う書道教室について行き、この世界を体験していたそうだ。大人になって再開したのは、彼女の頭の片隅に「大人の書道」の愉しい思い出があったからかもしれない。そうやって受け継がれるのも文化の素晴らしいところである。

 書を習うことで、いろいろなことを考えさせられる1日だった。感謝である。

 次回はまたスポーツ系に戻って身体を使った体験をしたいと考えてます。第一候補はキックボクシング。ついていけるか不安だが、何事もチャレンジ、である。