創始者はトップモデル コンスタンス・ジャブロンスキーさん(右)とその友人で食通のマギー・フレールジャン=テタンジェ(左)のふたりの女性。ここにCEOとしてロドルフ・フレールジャン=テタンジェが加わったのが「FRENCH BLOOM」だ

4年以上の歳月をかけて生み出した革新的キュヴェ

トップモデルのコンスタンス・ジャブロンスキーとその友人でミシュラン・パリ本社の国際事業開発部に携わり、世界のガストロノミーを体験してきたマギー・フレールジャン=テタンジェ、そしてその夫で「フレールジャン・フレール」というシャンパーニュメーカーの創始者でもあるロドルフ・フレールジャン=テタンジェが2019年に創設して以来、現代のライフスタイルに寄り添うノンアルコール・スパークリングワインとして世界的な知名度を確立してきた「FRENCH BLOOM(フレンチ・ブルーム)」。有機栽培のシャルドネとピノ・ノワールから、亜硫酸塩、保存料、添加糖、人工着色料を一切含まず、動物性食品も不使用のアルコール度数0.0%のワインを造っている。

誕生のきっかけとなったのは食通・マギーの妊娠。また、コンスタンスはトップモデルとして体調管理の観点からヘルシーなノンアルコールドリンクを求めていた

これまで「Le Blanc(ル・ブラン)」と「Le Rosé(ル・ロゼ)」というふたつの贅沢なノンアルコールスパークリングワインを世界32カ国で展開。パリのCheval Blanc、Four Seasons Georges V、ロンドンのThe Savoy、ニューヨークのThe CarlyleやビバリーヒルズのThe Beverly Hills Hotelといった一流ホテル、ロンドンのプライベートクラブAnnabel’s、パリの百貨店Le Bon Marché、L.A.のセレクトショップのThe Webster Storesなどで扱われている。

Coachellaことコーチェラ・バレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバルでは2023年、2024年とノンアルコールバー「THE NEW BAR」と組んで「Le Blanc(ル・ブラン)」と「Le Rosé(ル・ロゼ)」を提供。このフェスティバル初のノンアルコール・パートナーシップが締結となった

そしてこの夏、さらに贅沢なノンアルコールプレステージヴィンテージキュヴェ「FRENCH BLOOM La Cuvée Vintage 2022(ラ・キュヴェ・ヴィンテージ 2022)」が登場する。

FRENCH BLOOMの研究チームが4年以上の歳月をかけて生み出したという「アルコール度数が0.0%でありながらも、複雑な香りと味わいの構造を備え、これまでにないノンアルコールワインのガストロノミックな味覚体験を提供」する飲料だという……

ノンアルコールワインなのに酔った

La Cuvée Vintage 2022 の日本発売に先んじて、4月のある日に創設者のマギー・フレールジャン=テタンジェとCEOのロドルフ・フレールジャン=テタンジェが来日してメディア向けのランチカクテルを開催した。ところが私、ここに誘っていただいたのにも関わらず予定が合わずに参加できなかったのだ! 仲良くしてもらっているフィガロジャポンの編集者YKさんの素晴らしいイベントリポート記事を読み、想像を膨らませていたところ……

きっとこんなふうにキラキラしたイベントだったにちがいない……

後日連絡があり日本発売に向けて広報用に用意したLa Cuvée Vintage 2022にはごく少数の余裕があり、1本送ってくれるというではないか! え、マヂで!?  しかし私は戸惑った。

1本2万円(正確には税込18,144円)という高級ワインさながらの価格にも戸惑うけれど、これまでも完全無添加のナチュラルワインは「これ、ホントに正しい状態?」というものに何度も出くわしているのが不安材料だった。そのうえこのLa Cuvée Vintage 2022 はアルコールという防御装置も非搭載。造り手やソムリエといった正しい状態がわかる人がついていない状態で飲んで大丈夫だろうか?

届いたLa Cuvée Vintage 2022は木箱に収まっていた。

高級シャンパーニュさながらのボトルはシャンパーニュ同様のコルクで打栓してありミュズレが巻いてある。よく冷やしたあと、ミュズレを取り外して、徐々に浮き上がってくるコルクをプスンという小さな音とともに外すことに成功すると、ぐっと気分が盛り上がった。

とっておきのシャンパーニュグラスに注いでみる。色は濃いゴールド。泡は細かいが泡立ちはシャンパーニュほどキレイではない。これはあとから炭酸ガスを添加しているからだろう。

グラスからは干しブドウのような濃密なアロマが漂ってくる。この時点で風格がある。口に含むと液体は滑らかで、それがふっとほどけると中からシャープな、しかし熟成によってまろやかに液体に溶け込んだような酸味が尽きることがないかのようにあふれ出してきた。これはスゴイ……この酸味、ニュアンスとして近いのはプラムだ。そして、僅かなコショウを感じる。何より驚いたのはボディが感じられたことだった。ワインでボディといった場合、その主要な構成要素はアルコールであり、その他、タンニンが影響しやすい。しかし、La Cuvée Vintage 2022にはいずれもが無い。テクニカルシートに残糖2.3g/ 100mlと書いてあるので、これが影響している可能性がある。甘い感覚はアロマ意外一切ないのだが。そして私は、ボディを感じると「酔った」感覚になるということを生まれて初めて知った。

現状、これはワインである

状態の良し悪しは1本しか手元にないので厳密な判断は不能だが、何らかの問題が起きているという感覚は一切なく、これでザラッとした石灰のようなミネラリティがあれば完全に高級シャンパーニュだ……とおもいながら私は気持ちよく「酔った」ので後日冷静な時にこのLa Cuvée Vintage 2022のことを調べてみた。

ブドウはラングドックのパートナーの農家のオーガニック栽培のシャルドネを厳選して使っているそうだ。2022年は日照に恵まれた素晴らしいヴィンテージで、凝縮した複雑なアロマの果実が育っており、これを同地の平均収穫日よりも2週間ほど早く収穫して酸味を確保したという。

その果汁を醸造し、主にフレンチオーク樽で熟成。少量、ステンレスタンクでも熟成しているという。それらをブレンドして一回シャルドネのワインを造る。その後、低温真空蒸溜(low-temperature vacuum distillation)なるフランス発祥の最新の技術でアロマを維持したまま脱アルコールしているのだそうだ。

この低温真空蒸溜というのがどういう技術なのか調べてみたところ、その名の通り、低温かつ低気圧(真空)環境でワインの風味を損なわないように脱アルコールをする技術だというところまでは理解できたのだけれど、さらに細かいところは難しすぎて私の能力では理解できなかった。いずれにしても蒸留法の一種なのは確実で、私これまで、蒸留法は数ある脱アルコール法のなかでもワインの風味を壊しやすいと教わってきたので、こうまで見事にワインと肩を並べるものが目の前にある(体験が濃密すぎて1夕食で1本飲みきれませんでした)のは不思議でしかない。

造り手筋から追加で教わった話によると、アルコール度数13%のワインをまず3%へ、そこから0.5%へ、さらに0.0%へと3回の脱アルコールするのだそうだ。しかも、その最初のワインというのが、”大げさなくらいの果実味と香りに満ちたワイン”で、脱アルコールしてちょうどいいバランスになるワインを求めて4年の歳月を要したとのこと。

これまでワインオルタナティブと呼ばれるノンアルコール飲料は脱アルコール後にジュース等で風味を補ったもの(FRENCH BLOOMでもLe BlancとLe Roséはこのスタイル)、あるいはお茶やヴィネガー、カクテルに近いもの、つまりワインとは微妙に戦うフィールドをズラしたものが優れていた。ワインと真っ向勝負をするならアルコール無しというハンデは大きすぎる。銃で武装した相手に丸腰で挑むようなものだ。ところが、La Cuvée Vintage 2022はワインに真っ向勝負を仕掛けて互角以上の戦いを演じている。価格を無視するなら、これに劣るワインはいくらでもあるだろう。

もしもアルコールが飲めない人にワインってどんなもの?と聞かれたら、私は現状 La Cuvée Vintage 2022を選んで、これはワインだと言う。