「酒は百薬の長」などというのはもう一昔前の話になりまして、パンデミック後の世の中では、オンラインだったりソバーキュリアスだったり。それはそれで楽しみのある世の中とはいえ、ワインの世界に魅了された筆者はちょっと肩身が狭めです。そんななか「ワインは体にいいのではないか?」という研究が進行中だと発表されました。「どうせ赤ワインのポリフェノールの話でしょ?」という方ちょっと待って!
ワインは抗糖化力が強いっぽい!
「ワインは抗糖化力が強いらしい」というのがこの話の要点です。
抗酸化ではなく抗糖化です。
厚生労働省の情報(https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5.html)を参考にすると「節度ある適度な飲酒」は1日平均純アルコール量で約20g程度だそうです。同じページにワイングラス一杯を120mlとして、ワインのアルコール度数が12%で純アルコール量は12gとあります。現在のワインのアルコール度数の中央値は、筆者の経験則でいうと大体14%くらいだとおもうので、もうちょっと多いかな?とはおもいますが、グラス一杯なら「節度ある」の範囲内といえるのではないでしょうか(もうあと一杯くらいは飲みたいところですが)。そしてその範囲内において、極めて抗糖化作用の強いワインがあるようだ、ということが実験によって明らかになりました。
実験室内で得られた実験結果では、抗糖化作用があるとされている化合物「アミノグアニジン」の抗糖化作用を41.1ポイントとした場合、一般的な白ワインが29.5ポイント、赤ワインが3.8ポイント、実験した赤ワインのひとつは2.9ポイントを記録。このポイントは小さいほうがより抗糖化作用が強い、というものなので、ある種の赤ワインは実に薬に入っている物質の14倍くらい強力という結果になったそうです。
そこで、これはワインには抗糖化作用があるのではないか!? と研究チームは臨床でも調べることに。1日125mlのワインを6日間飲むと、どうやら、人間の体内でも抗糖化の効果があるようだ、と分かりました。ワインを飲むか飲まないか以外は普通に暮らしている人間のデータなので、紫外線対策をしているかどうか、ストレスがあるか、便秘か、などの要因でも結果が変わってくるため、まだ、確定的なことは言えないものの、どうもワインは糖化に対して、なんらかの抗う力を発揮し、糖化が原因となるエイジングに関連する様々な問題のケアに、効果がありそう、ということなのだそうです。
もう少し詳しい話
この記事は、誰かにお金をもらって書いているわけではないですが、こういった話は、下手な書き方をすると問題になることがあるので、詳しい話はこの情報の発信元で、この研究をしている「エイジングケアワイン研究所」のホームページ(https://www.kotoka.jp/)をご参照ください。
また、この研究&研究所の設立には日本を代表するワイン商「モトックス」が出資しています。
ただ、「エイジングケアワイン研究所」は今後、エイジングケアに効果があるワインやその成分が明らかになった場合などは研究結果を「ワイン業界全体に還元したい」という立場なので、この研究がモトックスがワインをより売るためだけになされている、とは言い切れません。
と、お断りさせていただいた上で、筆者が学んだ話をかいつまんで紹介すると
まず、抗糖化とはなにか? ということで、これはすでに結構話題になっているので、知っている人もいる話だとはおもいますが、我々のエネルギー源である糖と、我々の体を構成するタンパク質が、体温などの熱などでくっついてできる糖化最終物質(AGEs)が造られないようにすること、です。
というのも、一度できてしまったAGEsはなかなか排出されず、薬や手術で狙って取り除くのも困難。AGEsは増えてくると体の様々な場所に蓄積し、肌に蓄積すれば、シミ、くすみを招き、血色を悪くし、肌荒れの原因になり、弾力が失われる、骨に蓄積すれば骨密度が低下、血管では動脈硬化が起きやすくなり、目だと白内障、頭皮では発毛阻害を助長するとされています。これらは、世の中的には老化に関連して起きやすくなることなので、総じて、AGEs は「老化物質」などと呼ばれています。
酸化も「体のサビ」などと呼ばれて悪者扱いされていますが、糖化は「体のコゲ」などと呼ばれ、むしろそっちのほうが問題、という人もいるほどで、いずれにしても、糖化すれば酸化しやすくなり、酸化すれば糖化しやすくなる。両者には負のスパイラル的な相関関係があります。
対策として、AGEsをつくりやすい食品を食べない、体に糖が残りにくくする食品(低GI食品)の適切な摂取、睡眠、運動、ストレスをためない、紫外線対策などがよいと言われています。
薬学の世界では、糖とタンパク質を血液と似た環境で混ぜてから温め、AGEsを人工的に作る過程で、先述の「アミノグアニジン」を加えると、できるAGEsの量が、アミノグアニジンを混ぜない場合より半分以下に減るそうです。
これが先述の41.1ポイントという話で、混ぜない場合を100%とすると、混ぜた場合41.1%しかAGEsが生成されない。そしてこのアミノグアニジンをワインに代えると、さらにAGEsが生成されないので、これは行けるんじゃないか? と、そういう話なのです。
赤ワインがいい、という話ではない
これまでも、赤ワインのポリフェノールが体に良い、という話はありましたが、今回のこの話で面白いのは複雑性で、白ワインでも実験で良好な数値を示していたり、薄めても結果がよかったり、ブドウの品種、収穫年、醸造方法など、ワインがもつ様々な変数でも結果が変わり、じゃあブドウジュースでもいいんじゃないの? とか ブドウをそのまま食べたらどうなの? とかいった話になると、ブドウの果糖がAGEsを生み出す原因になるかも、という話もあるそうです。
そこで、「エイジングケアワイン研究所」が組織され、そもそもワインが抗糖化に有効なのか? というところから、どういうワインが抗糖化力が強いのかまで、どんどん調べよう、ということになりました、という話なのでした。
ひとまず、モトックスが取り扱っている、価格帯的に日常的なワインを調べているそうで、いまのところ『ラ・フォルジュ・エステイト ピノ・ノワール』が良好な実験結果を示しているとのこと。ある程度、世の中にそういって問題のないエヴィデンスが出れば、その知見を公開し、希望する場合はワインを検査して「エイジングケアワイン」という認定も行いたいそうです。
「エイジングケアワイン研究所」は、同志社大学京田辺キャンパスにおいて、独立行政法人中小企業基盤整備機構が同志社大学、京都府、京田辺市と連携して運営している『D-egg』内に設立して、同志社女子大学 薬学部の杉浦伸一教授とモトックスの田邉貴昭さんが中心になって研究をしている、とのこと。
アルコールの害は様々に言われていて、それらは根拠もあるものでしょうから、そのとおりなんだろうなぁ、とはおもいながらも、筆者は経験上、ワインを造っている人、ワイン好きには、元気な人が多いと感じています。だから、必ずしも悪いばっかりじゃない、ちょっとでもよいエヴィデンスが出てくることを期待してやみません。