文=渡辺慎太郎
 

EQE SUVは300/350+/350 4MATIC/500 4MATICの4種類が現時点でラインナップされていて、今後はAMG版も追加されるとのこと。日本へはEQE 350 4MATICが年内に導入予定

EVモデルのトリを飾るSUV

 メルセデス・ベンツの「EV四部作」のトリを飾るEQE SUVが登場しました。「四部作」というのは、メルセデスがEV専用に開発した“EVA2”と呼ぶプラットフォームを使うモデルのこと。すでにEQS/EQS SUV/EQEがデビューを果たしているので、これが4モデル目ということになります。

 ただ実際には、上海モーターショーでメルセデス・マイバッハEQS SUVがワールドプレミアされたので、実質的には5モデルとなりました。メルセデスは当初からEVA2を使うモデルは4車種のみと公言していたので、近いうちに新たなEV専用プラットフォームがお披露目されることになるでしょう。

インテリアはSクラスやCクラスに似た景色だが、オプションでMBUXハイパースクリーンも選ぶことができる

 EQE SUVのボディサイズは全長4863mm、全幅1940mm、全高1685mmで、これはメルセデスGLCよりも長くGLEよりは短い大きさです。いっぽう、3030mmのホイールベースはEQEセダンよりもわざわざ90mm短縮されています。これは、ショートホイールベース化することで回頭性の向上(=よく曲がる)を狙ったとされています。

 ただ、ここで気になるのはバッテリー容量です。EQシリーズを含めた多くのEVはホイールベース内の床下にバッテリーを積んでいて、事実上ホイールベース=バッテリー容量=航続距離となっており、EVである以上本来ならホイールベースはなるべく長く確保しておきたいわけです。しかし、資料を見るとEQE SUVのバッテリー容量はEQEセダンから変更がありません。

短縮されたホイールベースとバッテリー

 マイナス90mm分のバッテリーはいったいどこへ行ってしまったのか。このマジックの種明かしは意外と単純でした。そもそも、EQEセダンはホイールベースぎりぎりまでバッテリーを搭載しておらずスペースに余裕があり、EQE SUVはその余裕分で90mm詰めたそうです。ちなみに、年内にも日本へ導入される予定のEQE SUV 350 4MATICの航続距離は最大551kmと公表されています。

ホイールベースを短くしたといってもまだ3m以上もあるので、後席のレッグルームには十分な広さが確保されている。パノラマサンルーフ装着車の室内は開放感に溢れている

 “4MATIC”なので、前後にそれぞれモーターを置く4WDの駆動形式となりますが、出力の大きいメインとなるモーターはリヤで、状況によってはフロントのモーターを止めてリヤ駆動となる場合もあります。これまでのメルセデスのEVの4MATICでは、後輪駆動になるとフロントのモーターは通電していないので駆動せず、でもタイヤの回転によってモーターが回ってしまういわゆる“ひきずり”が発生していました。ひきずりは走行抵抗となり、航続距離の足を引っ張る一因にもなっていたのです。

 そこでEQE SUVはメルセデスのEQ・4MATICシリーズでは初めて、フロントモーター部にクラッチを装備してモーターとタイヤを切り離すことにより、このひきずりを解消することに成功しました。DCTと呼ばれるこのクラッチは今後、随時ほかのEQモデルにも採用されるそうです。

2.5トンが軽々と加速する

 EQE SUVのパワースペックは292ps/765Nm。最高出力は常識的な数値ですが、最大トルクはかなり強力です。車両重量は2580kgで2.5トンを超えていますがそれでも実に軽々と、そしてアクセルペダルを深く踏み込めば望外な加速が得られます。試乗車に装着されていたオプションの後輪操舵やショートホイールベース化も手伝って、3m以上ものホイールベースからは想像できないほど小気味よく右へ左へと向きを変え、パワフルな加速感と相まってクルマがひと回り小さくなったような印象を受けます。

ラゲッジルームは後席を起こした状態で580L、倒せば最大で1675Lまで拡大可能。牽引性能も備えていて、4MATICモデルであれば、1.8トンまでのトレーラーを牽引することもできる

 いっぽうで、全体的な味付けは“EVっぽい”というよりも、内燃機を搭載したメルセデスのそれに寄せているようでもあります。パワートレインの種類を問わず、スリーポインテッドスターが付いているモデルであればどれに乗って、上質感や安心感や安定感が同等に感じられるセッティングにこだわっているのでしょう。EVは特別なモノではなく、普通のクルマとして楽しんで欲しいというのが、メルセデスのこれからのEV戦略なのかもしれません。

ボディの随所が適度に絞り込まれたデザインになっており、塊感やスポーティな印象を醸し出している。後輪操舵機構とエアサスペンションがオプションで用意されている

 どこのメーカーも、EVそのものの完成度はここ数年で飛躍的な向上を遂げました。あとはやっぱり結局のところ、電気をどうやって作るのか、充電器を含めたインフラ整備はどうするのかという、自動車メーカーの努力だけではどうすることもできない問題の解決に、EVの将来は委ねられているのです。