文=大住憲生 写真=飯田信雄

WILLIAM|ウィリアム

1945年、ウィンザー公爵の注文により誕生。既成靴として1982年の販売以来、もっとも人気のあるモデルに。プレシャスレザー、リザード(トカゲ革)のウィリアムは、ジョンロブ阪急メンズ大阪店での限定販売 58万円(税別)

パリのエスプリ

 バブル経済がはじまるころだ。東京・銀座に本社を構える靴専門店チェーンの経営者は、エルメスで上等のブーツを注文してみようと、パリへ視察旅行に出かけた。店員にその旨を伝える。すると、お馬の色は? と慇懃に店員から。チェーン店の経営者は閉口し、同時にラグジュアリーとライフスタイルの真の意味を考えさせられた。そのとき、はじめてジョンロブの名を知った。己が不明を恥じたという。

 イギリス・ロンドンにて、ジョンロブが高級注文靴(ビスポーク)店として創業したのは約150年前。その品質の高さをかわれ、1970年代に、フランス・パリのフォーブール=サントノレ通りにあるエルメス本店に迎え入れられる。のちにエルメスの傘下に加わり、1982年より既成靴(レディトゥメイド)の製造もはじめる。このイギリス式の正統な紳士靴に、パリのエスプリがかんじられるのはそんな事情があるからだ。

WILLIAM|ウィリアム

本年はジョンロブのアイコニックなモデルであるダブルバックルシューズ、ウィリアムが誕生して75周年を迎える。この赤のリザードも、ジョンロブ阪急メンズ大阪店での限定販売 58万円(税別)

ビスポークとレディトゥメイド

 ジョンロブのレディトゥメイドには、上顧客のビスポークから派生したモデルがいくつかある。ダブルバックルシューズ、ウィリアムはその代表格だ。洒落者というか、メンズファッションの変革者であるウィンザー公爵によりビスポークされた、といわれている。結婚のために王座を捨てただけあって欲望に忠実で、価値観も美感も尋常ではない人物だ。飛行士の靴をヒントにバックルをダブルにしたらしいが、いかにもエキセントリックで、いかにもウィンザー公爵らしい。が、このデザインは他社からの模倣もあり、現在では紳士靴の定型のひとつになっているらしい。まさしく慧眼の士である。

 レディトゥメイドにはプレーントゥ、キャップトゥといったオーソドックスでビジネスにふさわしい紐靴(レースアップ)は、とうぜんながらラインナップされている。そしてまた、今シーズンの新作として登場したスリッポン、ラバーソール、デッキシューズ、スニーカー、サンダルなども数多い。乗馬用ブーツだけではなく、ドライブ、ゴルフ、ヨット、テニスといったスポーツ用シューズもビスポークする顧客があり、これらの製作経験をレディトゥメイドに応用している。

PHILLIP Ⅱ|フィリップ Ⅱ

ジョンロブの既成靴における最高傑作(キャップトゥ)。プレステージラインならではの、しなやかな履き心地。なにより完璧なバランスとエレガントな表情は、フォーマル、ソーシャルの場において堂々とした風格をあらわす 24万円(税別)

アーティスティックディレクター

 2014年、エルメスはジョンロブのアーティスティックディレクターとして、ファッションデザイナーのパウラ・ジェルバーゼを指名した。それは驚愕をもって迎えられた。そして現在も、この女性ファッションデザイナーが1世紀半を超す歴史がある、紳士靴の最高峰ブランドのデザインを手がけている。

 パウラ・ジェルバーゼ自身のファッションブランド「1205」は、アヴァンギャルドな服やアクセサリーばかりだ。それはパウラが、ジョン・ガリアーノやアレキサンダー・マックイーンといった前衛的なファッションデザイナーを輩出した、ロンドンにあるセントラル・セント・マーティンズ美術大学の出身であることと無関係ではない。だから、おどろきだったのだ。

 しかしパウラはスマートだった。彼女は、セント・マーティンズ在学中に高級注文服店が立ち並ぶ街、サヴィル・ロウで修業をはじめている。2005年にカッター(裁断師)見習いからスタートし、果てはサヴィル・ロウの名門テイラー、キルガーのチーフデザイナーに就任。紳士服づくりの伝統的な手法は身につけていたのだ。

FOUNDRY|ファウンドリー

新しいラスト(木型)と、新たに開発されたラバーソールを使用しデザインされた、2020年最新のレザースニーカー。素材はグレインカーフ(子牛革)、スエード、テクニカルファブリックの3種の組み合わせ 12万7000円(税別)

老舗はスマートに革新する

 パウラのアーティスティックディレクターとしての最初の仕事は、ジョンロブの古文書をあたることだった。創業者ジョン・ロブの足跡をたどり発見したなかに、現在使用されているブランドのロゴタイプがある。が、原点回帰だけではない。彼女はファーストコレクションで、アイコニックモデルであるダブルバックルシューズのアンクル(くるぶしまでの)ブーツを、バックルをシングルにしたレースアップのブーツなどを発表。うるさ型の業界人や伝統主義者たちから喝采をあびた。老舗は革新するから老舗。問題はそのスキルとメソッドだ。

 ジョンロブのブティックは全世界に21店舗、そのうちの6店舗が国内の展開だ。そして今春、大阪市北区に新店がオープンする。スマートに革新する正統な紳士靴ブランド、ジョンロブをすすめます。