文=JBpress autograph編集部

帝釈天半跏像 東寺 © Yoshihiro Tatsuki

 六本木の富士フイルムフォトサロン「FUJIFILM SQUARE」にて、写真家・立木義浩氏の写真展「遍照~世界遺産 東寺~」が開催中だ。

 本展は、世界遺産にして真言宗の総本山である東寺(教王護国寺)の講堂に納められた仏像群「両界曼荼羅図」を被写体とした、約50点のモノクローム写真展。両界曼荼羅図とは、密教における悟りの境地や宇宙の真理、理想の世界を分かりやすく描いた図で、これを立体化したものが東寺の仏像群。密教の本尊たる大日如来を中心に、多数の諸尊が整然と並べられている。

 立木氏は1998年にフィルムカメラでこの東寺を撮影し、写真集『東寺─生命の宇宙』(集英社)として出版した。それから20年の時を経て再び東寺を訪れた同氏が構えたのは、富士フイルムのラージフォーマットデジタルカメラ「FUJIFILM GFX100」および「GFX100S」。高性能センサーを搭載した最新鋭のデジタルカメラである。同氏は高感度撮影に優れるデジタルカメラを使用することで、光の少ない講堂内において精細な光の表現を追求した。

 GFX100に新たに搭載された「ピクセルシフトマルチショット機能」を用いた撮影にも挑戦し、約4億画素という世界最高レベルの画質で仏像の姿を捉えている。フリーランスのフォトグラファーとして長きにわたり活躍してきた立木氏の新たな挑戦は、かつての作品とはまた異なった趣として伝えられる。

 会期は6月30日(水曜)まで、無休かつ入場料も無料。世界遺産の国宝を被写体とした重厚な仏像群の写真展でありながら、気軽に足を運ぶことができる。開館時間は10時から19時まで。最終日の入場は16時まで。

 

永遠の挑戦者であり続ける写真家の矜持

 光によってモノクロームの世界に浮かび上がる、仏像の生々しい表情と質感が印象的だ。光によって大きく変わるそれは、まるで生きた人間を撮ったかのような臨場感をともなって、仏像に宿る思想や感情を伝えてくる。公開中のインタビュー動画にて、立木氏は仏像を静物としてではなく一種のポートレートのように撮ったと語っているが、まさにそのアプローチがもたらした世界観に誘われた。

 作品としての写真を観賞するさい、我々は古き良きフィルムカメラの、あの独特な温かみのある質感に魅せられがちだ。いにしえの仏像ともなれば尚更、フィルムカメラでの撮影を意識するかもしれない。しかし、50年以上にわたりシャッターを切り続けてきた立木氏が今回手にしたのは、最新のデジタルカメラだ。

 光を決め手として重視した立木氏のライティングとアングルにより、デジタルカメラの高い性能が最大限に活かされている。高感度によって克明に再現される光が、仏像のありのままの質感をストレートに伝えると同時に、温かな生命をも吹き込んでいる。なかには遊び心すら感じられるものもあり、ただ荘厳なだけではない、バラエティに富んだ空間の表情が率直に表現されている。

多聞天立像 東寺 © Yoshihiro Tatsuki

 ときに我々がフィルムカメラと比較して囚われてしまう〝デジタルゆえの味気なさ〟は、そこにはない。永遠の挑戦を続ける写真家にとって、フィルムとデジタルの境界など、もはや存在しないのだろう。