ここオートグラフにて2021年、2022年とオススメしていた「シャンパーニュ パルメ」の『ブリュット・レゼルヴ』が『ラ・レゼルヴ』と改名した。あわせてドザージュゼロの新作『ラ・レゼルヴ・ナチュール』も登場。そして、CEO兼ワインメーカーのレミ・ヴェルヴィエさんとグローバル・コマーシャル・ディレクターのレイモンド・ランジュヴァルさんが来日して、現在のラインナップをメディア向けにあらためて紹介した。
新しい王者
「空席になった玉座に座った」というのが第一印象だった。シャンパーニュでもっともスタンダードなカテゴリ“ノンヴィンテージのブリュット”において2020年以降、専門家たちからトップレベルの評価を受けていたシャンパーニュ パルメの『ブリュット・レゼルヴ』が日本に輸入されたのが2021年。私は縁あって一般発売前にこれを味わったのだけれど、世界の専門家たちの好評価も頷けるシャンパーニュだった。
地球温暖化にまつわる環境変化と、おそらく消費者の若返りによって、シャンパーニュの基本的なキャラクターはしばらく前から動揺しているとおもう。ブドウ栽培の北限という二つ名はすでにシャンパーニュ地方よりももっと北の産地のもの。お家芸であるミネラル感と酸味がもたらす目の覚めるような清々しさ、口内がザラつくような感覚も、どこのシャンパーニュにもある普遍的な要素ではなくなっている。大手メゾンの定番品ですら「あれ?」ということがあるから、確実を求めるなら1ランク上を買うのが無難。いや、そもそも、そういう往年のシャンパーニュ像を共有してもいなければ求めてもいない消費者が、すでにマイノリティではないのだと感じずにはいられない状況が続いている。
そういうなかでシャンパーニュ パルメの『ブリュット・レゼルヴ』は王道、クラシカルなシャンパーニュを感じさせる仕上がりだったのだ。故に、いささか空席が増えてきた感のあった玉座に座った印象だったのだけれど、このほど『ラ・レゼルヴ』と改名した旧名『ブリュット・レゼルヴ』を味わってみたら「あれ?」と感じたのだった。
若き王者の次なる一手
シャンパーニュ パルメが王者となった要因の一つは、シャンパーニュ北端・モンターニュ・ド・ランス地区に畑を持つ栽培家たちが1947年に設立したこのメーカーが、同地区にグラン・クリュとプルミエ・クリュ格付けの約220haという広大な畑を持ち、ピノ・ノワールで評価が高い同地域において、ピノ・ノワールだけでなく、80ha以上のシャルドネの畑を持っていることにある、とされる。
このシャルドネが、他の地区が苦戦しがちになった現在でも、シャンパーニュらしいクールでシャープな酸味とミネラル感の源泉となっているようなのだ。
ゆえの王道のシャンパーニュ、というのは意地悪な言い方をすると、やや古臭くて没個性的、と言えなくもないけれど、飲むたびに質が上がっていくように感じるし、ディフェンディングチャンピオンが保守的になるのは悪いことではまったくない。ベースが2018年のブドウという今回の『ブリュット・レゼルヴ』あらため『ラ・レゼルヴ』も、ちょっとハチミツのようなニュアンスがある爽やかな香りがグラスから立ち上ると「あ、これこれ」という安心感。レミさんの「このシャンパーニュにおけるリザーブワインの重要性を強調したくて『ラ・レゼルヴ』と改名した」という話を聞きながら、口に含んだ。「あれ? ちょっと酸味が強め?」
最初は気のせいかな?とおもっていたけれど、小気味よく酸味と甘味が折り重なるミルフイユ的展開は従来同様。しかし、そこに一本、縦方向に串を挿したような感覚は従来はそれほど感じないものだった。
改良・改善というより、ちょっと考え方に変化があったのでは? という感覚は、新作『ラ・レゼルヴ・ナチュール』を試して確信に近くなった。
ナチュール、つまりドザージュ0のこちらは、ドザージュしていないことを除けば『ラ・レゼルヴ』と基本的な発想は同じなのだそうだ。事実、香りの印象はかなり『ラ・レゼルヴ』と似ている。違うのは目の覚める、まさにレモンのような酸味がよりハッキリと感じられ、余韻に近づくにつれて熟成したワインの優しい甘みを感じるようになるところだ。この酸味は、強烈ながらも上品で、舌触りもまろやか。全体は清々しいまとまりで、決して粗雑に酸っぱいわけではない。ベースは2016年のブドウだというから、そもそも酸味という点では有利なヴィンテージだとはおもうけれど、言うなれば特徴的な酸味を良く表現するために全体のバランスを取ったような、そんな印象だったのだ。
高級ラインにおいても一貫したキャラクター
この後、試飲は『ロゼ・ソレラ』『ブラン・ド・ブラン』『グラン・テロワール 2015』『アマゾーヌ・ド・パルメ』と続いていったのだけれど、この内の唯一のヴィンテージ・シャンパーニュである『グラン・テロワール 2015』も私の意見を支持してくれるように感じられた。というのも2015年は多くの名門メゾンからヴィンテージが出ている評価の高い年であり、かつ、酸味を中核に据えたシャープネスよりも、包容力のあるキャラクターになる印象があり、陽キャ、幼い、可愛らしいといった雰囲気で仕上げているメゾンが多いとおもうのだ。『グラン・テロワール 2015』も、そこにおいてまるっきり別の性格というほどにかけ離れてはいなかったけれど、それでも個性的で、それはやはり特徴的な酸味の表現を重視しているからではないかと感じられたのだ。
総じて、ラインナップはより一貫性を持ち、シャンパーニュ パルメとはこういうシャンパーニュを理想とする造り手である、という主張が明確化したというのが私の意見だ。その主張というのは、彼らの立脚点であるモンターニュ・ド・ランスのテロワールの表現、ということなのだろう。
もちろん、『ロゼ・ソレラ』はその名の通りソレラシステムで35年以上積み上げられた赤ワインをブレンドしたロゼ・シャンパーニュで、『アマゾーヌ・ド・パルメ』は税別希望小売価格34,000円のプレステージ・キュヴェだから、それぞれ違った魅力を持ったものではあるし、ロゼにはきちんと、モンターニュ・ド・ランスの誇るピノ・ノワールの魅力があり、『アマゾーヌ・ド・パルメ』には、ブドウを厳選し、長い熟成を経た最高峰の表現の追求が感じられた。しかし、それらはもっともスタンダードな『ラ・レゼルヴ』と、異なる線上にある表現ではなかった。
そもそもが栽培家が中心になって生み出したメーカーだけに、サステナビリティに関しては抜かりがなく、ほとんどの畑でHVE3認証というフランス農務省の定める最高レベルの環境認証を取得済、ワイナリーはHQE認証というフランスのグリーンビルディング認証を取得している。パッケージも生分解・リサイクル可能なもので、このあたりはシャンパーニュトップクラスだ。
こういうしっかりした基礎の上に、中庸なものとなることより、好き嫌いが分かれたとしても主張があるものを生み出す。他の老舗と比べればまだまだ若く、それゆえにしがらみも多くはないはず。しかも現在進行形でファンを増やしているブランドだけに、この方向性は吉と出るのではないか?
未体験の方は新しいシャンパーニュのひとつの方向性として、どれでもいいから一本、一度体験されたし。