カリフォルニアワインの世界で、いま新たな潮流が生まれています。かつての力強さや濃厚さを特徴とするスタイルから、よりエレガントで洗練されたワインへと進化を遂げているのです。その象徴が、ソノマカウンティーに拠点を置くCLINE FAMILY CELLARS(クライン ファミリー セラーズ)。この記事では、新発売された同ワイナリーの「ソノマAVA」シリーズを紹介するとともに、CLINE FAMILY CELLARSのワイン造りを紐解いていこうと思います。 

冷涼地域ソノマの本領発揮。そしてテロワール主義の台頭

カリフォルニアワインといえば、完熟したブドウをもとに、樽香もバッチリ利かせる“あの”タイプ。お好きな人はお好きだけれど、苦手な人もきっといる、ザッツ・アメリカンなワインです。白も、赤も濃厚で、クラクラするほど樽の香りが利いていて、それはそれで私は嫌いじゃないんですが……、どうもそういうステレオタイプなインプットだけでは語り切れない、新タイプのカリフォルニアワインが台頭してきました。

そのひとつが、1982年にフレッド・クライン氏によって設立されたCLINE FAMILY CELLARS(※)。当初はジンファンデルを中心とした力強いワインで知られていましたが、近年は、よりエレガントなスタイルへと軸足を移しています。この変化の背景には、ワイナリーの立地と独自の農法が大きく関わっているようです。

※このワイナリー、ジャグジー風呂を開発してアメリカで富を得た祖父のブドウ畑を引き継ぐことでスタートしているそうです。こちらも堀り甲斐のあるエピソードなのですが、今回はテーマから外れるので割愛します。

新製品「ソノマAVA」のプロモートのために、2024年6月に来日したクライン夫妻

フレッド・クライン氏が引き継いだブドウ畑は、カリフォルニア州セントラルコーストのコントラコスタ・カウンティにあります。この土地は、サンフランシスコ付近の河口から誘引されるサン・パブロ湾のすぐ南。この湾の存在がカリフォルニアワインの理解にはとても重要なんですね。なぜってサン・パブロ湾があるおかげで、周囲は冷涼な気候になるからです。太平洋の寒流の冷気がこの湾によって内陸まで大量に流れ込み、周囲の土地をギンギンに冷やすんですよ! 太陽がある日中は気温が上昇し、夜間は冷気で空気が冷える。その寒暖差がブドウ栽培に適しているのです。

ですから、CLINE FAMILY CELLARSの畑は、もともと冷涼でした。加えて、フレッド・クライン氏が独自に取得したソノマカウンティのカーネロスは、夏でも最高気温が27度と言われる冷涼さです。これらの地域特性が、エレガントなワイン造りに適した環境を提供しています。

ただしCLINE FAMILY CELLARSのワインがもともとエレガント志向だったかというと、そうではなさそうです。やはりトレンドを意識して味わいの表現を変えてきていると私は思っています。

CLINE FAMILY CELLARSのプレス向けお披露目は、東京・千代田区にある「俺のフレンチ グランメゾン」にて開催。試飲時間では、ピアノの生演奏と、ドルチェ製作の“共演”の一幕も

40年以上続けている独自農法「グリーン・ストリングス」

そしてCLINE FAMILY CELLARSの真の革新は、フレッド・クライン氏が独自に実践した「グリーン・ストリングス農法」。この持続可能な農業手法は、化学肥料や殺虫剤を一切使用せず、代わりに自然の力を活用していきます。

左/敢えて除草せず、下草を生やすことで、土壌環境を整えています。右/羊を畑に放し、葉っぱを食べてもらうことで、除葉作業を羊に行わせています。羊がブドウの実を食べてしまわないように、注意深く観察して彼らを上手に誘導するそうです

例えば、除草剤の代替として羊を畑に放牧し、雑草管理と土壌改良を同時に行っています。また、フクロウやタカ、蜘蛛の習性を利用して害虫駆除を行うそうです。そしてカバークロップの使用により土壌の健康を維持します。この農法は、創業者フレッド・クラインの「子どもたちが安心して過ごせるブドウ畑にしたい」という思いから生まれたというから驚きですが、BIOが注目されるずっと前、フレッド・クライン氏はワイナリー設立当初から、この農法を実践してきたと言います。

当然ながら、グリーン・ストリングス農法は、ワインの酒質に大きな影響を与えます。ここが大事。化学物質を使用しないことで、土壌本来の特性がブドウに反映されやすくなり、テロワールの表現が豊かになります。また農薬を使用しないため、ブドウ本来の純粋な果実味がワインに表れます。加えて、生物多様性の促進により、ワインに複雑な香りや味わいが生まれるのです。

これらの要因により、CLINE FAMILY CELLARSのワインは以下のようなエレガントな特徴を持つようになったと考察します。

・繊細かつ生き生きとした香り
・果実味、酸味、タンニンの絶妙なバランス
・各ヴィンテージの個性の際立ち

もちろん、ひとっ飛びにこれらの特徴を獲得したのではなく、年を追うごとに彼らの理想とする農法を少しずつ高めていき、いまこうして到達しているわけです。

クライン ファミリー 第2世代による ソノマAVAシリーズ

そのCLINE FAMILY CELLARSの現時点での集大成と呼べるのが、新発売された「ソノマAVA」シリーズ。このシリーズは、ソノマカウンティーの特性を活かし、より強くエレガントで洗練された味わいを追求しています。実を言うと、創業者夫婦の娘、息子たちの代が主体となって作り上げた、いわゆる二世によるデビュー作のようですが、彼らはさらにエレガントなワインを追求するぞ、という気概にあふれていると感じました。とくに、ピノ・ノワール! カリフォルニアのピノがこんなにエレガントに仕上がるなんて、かつて誰が想像しただろう……って、思います。

自然農法を重視しているということは、ヴィンテージごとの仕上がりが必然的に異なるということ。これより、新発売された4つのボトルを紹介しますが、これらは一度逃したら、二度と出会えないということを今一度お伝えしたいと思います。

ハット・ストラップ シャルドネ(カーネロス)

100%手摘みで収穫されたブドウはすぐにプレスされ、24時間落ち着かせる。ステンレスタンクとフレンチオーク樽両方を使用し、低温で発酵。ジアセチルを生成しないように設計されたバクテリアによる100%マロラクティック発酵は、テクスチャーとまろやかさを与える一方で、バターのようなニュアンスは生み出さない。長時間の澱との接触と攪拌が複雑さとテクスチャーを与える。培養酵母を使用し、風味とバランスの一貫性を年々高めている。

ハット・ストラップ・シャルドネは、ゴールデン・デリシャス・アップルやパイナップル、レモンの皮のアロマから、ピーチ、マカデミアナッツ、パイナップル、軽くトーストしたオークの味わいへと続く。フィニッシュは長く、リッチで滑らか。

ヴィンテージ 2022
セパージュ シャルドネ100%
収穫 9月9日-9月28日
熟成10ヶ月、35%フレンチオーク
アルコール 14.5%
認証ソノマ・サステイナブル
希望小売価格(税込):7,150円

フォグ・スウェプト ピノ・ノワール(ペタルマ)

夏のほとんどの日、ブドウ畑は朝霧に覆われ、気温は朝から昼にかけて27度まで上昇する。この条件のおかげでブドウの生育期間が長くなり、芳醇な風味を生み出すことができる。ブドウは手摘みで収穫され、除梗された後、開放槽に移し入れられる。ワインは天然酵母で発酵。1日に2回パンチ・ダウンされ、2週間後に圧搾。圧搾後、ワインはオーク樽(50%フレンチオーク新樽)に移され、100%マロラクティック発酵後、ブレンドされボトリング。

鮮やかなチェリー、ザクロ、ワイルド・ストロベリーのアロマと味わい。フレッシュな酸味とピノ・ノワールの代名詞である土っぽさが複雑味を与える。

ヴィンテージ 2021
セパージュピノ・ノワール100%
収穫 9月16日-10月1日
熟成 15ヶ月、50%フレンチオーク新樽
アルコール 14.0%
認証ソノマ・サステイナブル
希望小売価格(税込):7,700円

エイト・スパー ジンファンデル(ドライ・クリーク・ヴァレー)

渓谷は日中の暑さをしのぎ、日暮れまでブドウを熟成させる。涼しい海風が渓谷を吹き抜けると、ブドウの生育期が長くなり、品種の複雑性が増す。その結果、低く垂れ下がった果実が放射熱を浴びて、強烈なアロマと味わいが生まれる。ブドウは夜間に手摘みで収穫され、優しく除梗された後、ステンレスの密閉式タンクに移される。野生酵母で発酵。18日間果皮とともに漬け込む。ブレンド・ボトリング前に40%新樽のフレンチオークで15ヶ月熟成させる。

ラズベリー、ブラックベリー、ストロベリー、シナモンの香りに、ドライ・クリーク・ヴァレーのテロワールをはっきりと表現したまろやかでリッチな完熟感のある味わい。幅広い料理と合わせやすいバランスの取れた味わい。

ヴィンテージ 2022
セパージュ ジンファンデル100%
収穫 8月3日-9月15日
熟成 15ヶ月、40%フレンチオーク新橋
アルコール 15.0%
認証ソノマ・サステイナブル
希望小売価格(税込):7,700円

ロック・カーヴド カベルネ・ソーヴィニヨン(アレクサンダー・ヴァレー)

アレクサンダー・ヴァレーは、ソノマ・カウンティでも最高品質のカベルネ・ソーヴィニヨンの産地として知られている。ブドウは夜間に手摘みで収穫され、優しく除梗された後、ステンレスの密閉式タンクに移される。野生酵母で発酵。28日間果皮とともに落ち着かせ、1日2回、発酵のピーク時には1日3回、最後の8日間は1日1回ポンピングオーバーする。優しく澱引きし、樽の中でマロラクティック発酵。ブレンド・ボトリング前に、50%新樽のフレンチオークで14ヶ月間熟成させる。

ブラックベリー、プラム、カラント、杉のアロマと芳醇な味わい。フィニッシュまで続くリッチさが特徴。

ヴィンテージ 2022
セパージュ カベルネ・ソーヴィニヨン89%、
プティット・シラー9%、アリカンテ・ブーシェ2%
収穫10月16日、10月20日
熟成 14ヶ月、50%フレンチオーク新樽アルコール 14.5%
認証ソノマ・サステイナブル
希望小売価格(税込):7,700円