イタリア語で"12気筒"を意味する名を冠したフェラーリの最新モデル「12Cilindri(ドーディチ チリンドリ)」が日本でお披露目された。最高出力830psを誇る自然吸気V12エンジンと革新的なデザインが与えられた同車は、1950~60年代のV12グランツーリズモの魅力を現代に継承すると同時に、フェラーリのDNAを未来へと導く1台となる。

フェラーリの決意表明

2023年5月3日、北米マイアミでワールドプレミアされたフェラーリの新たなるV12フラッグシップモデル「12Cilindri」が日本初上陸を果たした。2017年にジュネーブショーでデビューした「812スーパーファスト」の実質的な後継モデルとなる、フロントエンジン・リア駆動(FR)の2シーター グランツーリズモである。

「12Cilindriは、最高峰のパフォーマンス、快適性、そして美しいデザイン性を求める方にとって魅力的な1台であり、完璧なパワートレイン哲学を追求するフェラーリのDNAを代表するクルマです」

ジャパンプレミアでそう語ったのは、フェラーリジャパンのドナート・ロマニエッロ社長だ。

一方、マラネッロにあるフェラーリ本社から来日したプロダクト マーケティング責任者のエマヌエレ・カランド氏は「250GTOや275GTBといった50、60年代のV12グランツーリズモが、自宅からサーキットまで自走し、サーキット走行を楽しんだ当時のジェントルマンドライバーに愛されたように、12Cilindriは現代のジェントルマンドライバーの期待に応える1台です」と説明した。

プロダクト マーケティング責任者のエマヌエレ・カランド氏

ところで、時計の針を70年以上前に巻き戻そう。自動車メーカーとしてのフェラーリが産声を上げたのは1947年のこと。創業者エンツォ・フェラーリが自らの名を冠した最初のモデルとして世に送り出されたのが、1.5リッターV12エンジンを搭載した「125S」だった。

以降、「250GTO」や「275GTB」、「365GTB4 "デイトナ"」など、V12エンジンを擁する名車たちの系譜は脈々と受け継がれてきた。12Cilindriもまた、その血統の継承者であり、フェラーリのDNAそのものを象徴するモデルなのである。

しかし一方で、近年はガス規制の強化や電動化の急速な進展により、大排気量の自然吸気エンジン、なかでもV12エンジンの存続が危ぶまれるのもまた事実だ。フェラーリ自身、V8ターボやV6ターボのハイブリッドモデルをラインアップに加えるなど、電動化シフトを加速させている。

そうした潮流の中で、フェラーリが最新モデルに“12Cilindri”なる車名を与えたのは、同車がV12エンジンを搭載するモデルの集大成だというメッセージが込められているととれなくもない。

しかしジャパンプレミアの席でカランド氏は、「V12エンジンは私たちフェラーリにとって、DNAそのものです。現在は2026年まで有効なユーロ6Eの規制をクリアしていますが、私たちのV12モデルを愛するお客様がいるかぎり、開発し続けていきたいと考えています」と力を込めて語った。

つまり車名に込められていたのは、「フェラーリはV12エンジンというDNAを未来へ継承していく」という、いわば決意表明だったのだ。

伝統のスタイルと新しいデザインの意味

では、12Cilindriの心臓であるV12エンジンから見ていこう。2002年に登場したスペチアーレモデル「エンツォ」の「F140」型に端を発す、Vバンク角65度のV12ユニット「F140HD」だ。

6496ccという排気量は先代モデルとなる812スーパーファストと同様ながら、スペシャルシリーズ「812 コンペティツィオーネ」用の「F140HB」型で導入されたコンポーネントやソフトウェアが採用されるなど、細部にわたってアップデートされている。

その結果、最高出力は812スーパーファストの800cv/8500rpmに対し830cv/9250rpmへ向上。チタン製コンロッドやアルミニウム合金製ピストン、そして軽量なクランクシャフトなどの採用により、最高許容回転数は8900rpmから9500rpmへと引き上げられた。

一方、最大トルクは678Nm/7250rpmを発生。9000rpmオーバーの超高回転型でありながら、最大トルクの80%をわずか2500rpmで発生するフラットなトルク特性を実現しているのも最新のV12ユニットならではだ。

さらに、ギア比が適正化された8速DTC(デュアルクラッチ・トランスミッション)や新開発のトルク電子制御システム「ATS(アスピレーテッド・トルク・シェイビング)」などの採用により、自然吸気V12エンジンならではのリニアな加速とトルク感を実現しているという。

フェラーリの12気筒モデルといえば、唯一無二ともいえるエンジンサウンドも魅力だが、こちらもブラッシュアップされた。具体的には吸排気ダクトに革新的な設計を取り入れるなどして最適化することで、点火順序による美しい倍音成分をすべて響かせる、フェラーリならではのV12サウンドを実現したと謳われる。

12Cilindriの大きな魅力のひとつがエクステリアデザインだ。フェラーリのチーフ・デザイン・オフィサーであるフラビオ・マンゾーニ氏が「12Cilindriでは、フェラーリのこれまでのV12フロントミッドシップエンジンのスタイルコードを根本的に変えたいと考えました」と語るように、従来のV12モデルのスタイリングを大胆に塗り替えることに成功している。

例えば、なめらかな曲面で構成されたロングノーズ・ショートデッキの流れるようなフォルムは極めて端正で、クラシカルな美しさに満ちている。またブラックアウトされたベルトラインが左右方向に施されたフロントまわりが365GTB4 “デイトナ”を彷彿させるのも、クラシカルな印象を強調している。

とはいえ、12Cilindriのエクステリアデザインが単なる懐古主義かといえば、そうではない。カランド氏が「70年代のSF的な世界観からもインスピレーションを得ました」と語る通り、未来的でもあるからだ。

例えば、リアウィンドウからリアデッキにかけては、超高速旅客機「コンコルド」のデルタウィング(三角翼)をモチーフとした形状にブラックアウトされていおり、その大胆なグラフィックがどことなく宇宙船のようでもあるのだ。過去のヘリテージを継承しつつ、新しさを加味した絶妙なデザインといえるだろう。

こうした斬新な意匠の妨げないよう、リアスポイラーの替わりにリアスクリーンと一体化した左右2つの可動フラップが採用されたのもエクステリアにおけるトピックだ。60km/hから300km/hの間で作動し、最大で50kgのダウンフォースを発生するという。

テールランプ上の部分がフリップになっている

従来のV12モデルのスタイリングを大胆に塗り替えるに至った理由について、エクステリアデザインの責任者であるアンドレア・ミリテッロ氏はモデルラインナップにおける変化が作用していると語る。それはどういうことか?
 
先代モデルの812スーパーファストがデビューした当時、同車はフェラーリのラインアップで最もハイパフォーマンスを誇るモデルだった。しかし、現在は1000cvを誇るハイブリッドスーパースポーツ「SF90」がその座についている。そこで、12Cilindriではスポーツ性だけを伝えるのではなく、洗練性を模索することになったのだ。

一方、インテリアには「デュアルコックピット」と呼ばれる、ドライバーとパッセンジャーの2つのモジュールから成るシンメトリカルなレイアウトを採用。

インストルメントパネルには15.6インチのドライバー用ディスプレイに加え、中央には10.25インチのタッチスクリーン、助手席側には8.8インチのディスプレイが備わるなど、インターフェイスがデジタル化されたのも「ローマ」や「プロサングエ」と同様だ。

リサイクルポリエステルを65%含むアルカンターラをはじめ、サステナブルな素材を幅広く採用しているのも現代のモデルならではである。

足元に目を転じると、優れた回頭性を引き出すため、ホイールベースは812スーパーファスト比で20mm短縮された。ねじり剛性が812スーパーファスト比で15%高められるなど、ボディ剛性も引き上げられた。

ビークルダイナミクスについては、左右後輪を独立して制御する四輪操舵システム(4WS)や、今回V12モデルに初採用されたブレーキ バイ ワイヤをはじめ、多種多様な電子制御システムが採用されている。

このように先代「812スーパーファスト」から全方位的な進化を遂げた「12Cilindri」は、往年のグランツーリズモの魅力を継承しながら、フェラーリのDNAを未来へとつなぐ新世代のV12フラッグシップモデルなのだ。

オープントップでのドライビングを愉しめる「12Cilindri スパイダー」も同時に発表されており、価格はベルリネッタが5674万円、スパイダーが6241万円となる。