大谷 達也:自動車ライター

フェラーリ SF 90 XX ストラダーレ

1億円超も相変わらず発表=完売御礼

 フェラーリは新しい限定モデル、SF90XXストラダーレとSF90XXスパイダーの2台を同時に発表した。

フェラーリ SF 90 XX スパイダー
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 生産台数にあらかじめ上限を設けたフェラーリの限定モデルはリミテッドエディションともスペチアーレ(イタリア語でスペシャルの意味)とも呼ばれるが、販売価格が高額であるにも関わらず発表の段階で完売しているのが通例で、しかも発売から数年を経ると販売価格を大きく上回る相場で取り引きされることで知られる。ちなみに、クーペ版のSF90XXストラダーレは77万ユーロ(約1億2000万円)、SF90XXスパイダーが85万ユーロ(約1億3400万円)と高嶺の花ながら、限定販売される1398台(内訳はクーペ:799台、スパイダー:599台)はすでに完売と、相変わらずの人気を誇っている。

 では、SF90XXの特徴はどこにあるのか、順を追って説明することにしよう。

SF90からSF90XXへ

 まず、そのモデル名からも想像できるとおり、SF90XXのベースモデルは2019年に発表されたSF90(SF90ストラダーレ)である。SFとはスクデリア・フェラーリ、すなわちレースで活躍するフェラーリのワークスチームを意味しており、2019年はその創設90周年にあたるため、この名が与えられた。

 なお、SF90ストラダーレ(ストラダーレはイタリア語で公道の意味)とわざわざ断っているのは、同じ2019年のF1マシンがSF90と名付けられたため。ただし、小文中でSF90と表記した場合には、F1マシンではなくそのロードゴーイングバージョン(公道仕様の市販車)を指していると理解していただきたい。

 SF90は4.0リッターV8ツインターボエンジンをミッドシップするスーパースポーツカーで、ここに3モーター式のプラグインハイブリッド・システムを搭載。ふたつの独立したモーターで前輪を左右個別に駆動することで、クルマのコーナリングを駆動力でも制御する先進的なパワートレインを採用していることを特徴としていた。なお、SF90は生産台数に上限を設けないカタログモデルで、日本での価格はおよそ6000万円である。

 では、そのスペチアーレ版であるSF90XXはどのようなコンセプトで開発されたのか?

 記者会見の席上、フェラーリのマーケティングとセールス部門を司るエンリコ・ガリエラは「XXプログラムの伝統を受け継ぎながら、公道走行も可能な初めてのモデル」がSF90XXであると説明した。

XXプログラム

 フェラーリのXXプログラムとは、このプログラム専用に開発されたモデル(FXX、599XX、FXX-Kなど)を顧客がサーキットでドライブし、そこで得られたフィードバックを将来的なロードカーの開発に生かそうとするもの。ちなみに、XXモデルはいずれも公道走行ができないサーキット専用モデルで、2005年に発表されたFXXはおよそ2億円で29台が限定販売されたものの、現在の取引価格は10億円を下らないといわれる。

 今回、発表されたSF90XXそのものは、フェラーリが開催するXXプログラムと呼ばれるサーキット走行イベントには参加できないけれど、XXモデル譲りのサーキット性能を有していることからその名が与えられたという。

 もっとも、XXモデルに比肩しうるサーキットでのパフォーマンスと、法規制の面でも快適性の面でも公道走行が可能なスポーツカーを1台で実現しようとするのは、決して容易なことではない。

過激なスタイリング

 まず、サーキットで安全に高速走行を楽しむには、ある程度のダウンフォースは必須とされている。そこでSF90XXではSF90のエアロダイナミクスを全面的に見直し、250km/h走行時に530kgものダウンフォースを生み出すことに成功した。

 ここで大きな役割を果たしたのが固定式のリアウィング。エレガントなスタイリングを重んじるフェラーリは、長年レーシングカーまがいの固定式リアウィングの装備を避けてきたが、SF90XXでは「もっと過激なスタイリングのフェラーリが欲しい」という市場からの声に応える形で採用を決めたそうだ。ちなみに、フェラーリのロードカーで固定式リアウィングを装備するのは、1995年にデビューしたF50以来のことという。

 この固定式リアウィングにシャットオフ・ガーニーと呼ばれる可変式空力デバイスを組み合わせることで、ときにはダウンフォースを増やしたり、ときにはダウンフォースを減らして空気抵抗を改善することが可能になった。

 こうして生み出したリアの強大なダウンフォースとバランスをとるため、フロントのボンネット内にはSダクトと呼ばれるF1由来の空力デバイスを装備。ボディ前端から取り込んだ空気流をボンネット上面に排出することでダウンフォースを生み出し、良好な空力バランスを実現している。

 いっぽうのシャシー関連では、サーキット走行で最高のパフォーマンスを生み出すため、SF90よりもバネ定数が高い(=硬い)サスペンション・スプリングを採用しているものの、オプションで用意されるセミアクティブダンパーを装着すれば、SF90と遜色のない快適な乗り心地を堪能できるという。

 ミドシップされるV8ツインターボ・エンジンは、吸排気系の内部を滑らかに仕上げて空気抵抗を減少させるとともに、圧縮比を引き上げることでSF90を17ps上回る797psの最高出力を実現。電気モーターも冷却系を強化したり、一時的にパワーの上限を引き上げるエクストラ・ブーストと呼ばれる新機能を採用することで、プラス13psの233psを達成した。

 結果としてSF90XXは0-100km/h加速:2.3秒、最高速度320km/hという並外れた動力性能を実現するいっぽうで、ロードカーに求められる快適性も確保。さらにサーキット走行では限界まで安心してプッシュできるハンドリングなどを手に入れたとフェラーリは主張する。SF90XXストラダーレは2024年第2四半期、SF90XXスパイダーは2024年第4四半期に納車が始まるそうだが、1日も早くそのステアリングを握ってみたいものである。