スタイリング=櫻井賢之 撮影=長山一樹(S-14) グルーミング=HORI(BE NATURAL) 文=山下英介

襟先にメタルをあしらったオックスフォードシャツに、ネックバンドのような効果を果たす共生地のスカーフ、そしてレザー製のループタイ。トラッドの象徴を、見事にアップデートさせている

近未来都市で発表されたコレクションのもつ「意味」

 〝プラダ〟の2020年春夏メンズファッションショーは、アジアの時代を牽引する近未来都市、上海で開催された。無機質でインダストリアルな倉庫を使いカラフルなネオンサインで照らし出したそのランウェイは、この街のもつ前向きなエネルギーを、まさに体現するかのようだ。

 

〝プラダ〟が掲げる、未来への希望

 「OPTIMIST RHYTHM(楽観主義者のリズム)」をテーマに掲げたコレクションにも、そんなパッションが炸裂。アウトドア、シティ、ワークといった私たちのライフスタイルになじむワードローブを中心に構成しながらも、すべては未来へと進化を遂げている。サファリジャケットやアノラックはとことん機能的に、テーラードジャケットはショーツやロングシャツとコーディネートして、新しいバランスを構築している。カセットテープやビデオカメラといった過去のテクノロジーのアイコンも使われているが、そこには感傷的な趣は一切ない。

 

アメリカントラッドの象徴を未来へとアップデート

異なる長さのワードローブをレイヤードすることで、未来的なバランスを生み出したスタイル。しかしその背景には、クラシックへのリスペクトが秘められている。ちなみにショートブルゾンの背面にはバックプリーツが施されており、それが美しいシルエットの秘密

 そんなアクティブなムードに包まれたコレクションからautographが選んだのは、着丈の長いシャツとショートブルゾン、膝丈のショートパンツという斬新なバランスのコーディネート。ネオンカラーと相まってまさに近未来的な印象を漂わせるが、実はインナーに合わせたシャツはコットンオックスフォード生地で、身頃と両袖、背面の色を替えたクレイジーパターンという、アメリカントラッドを彷彿させる1着だ。ここに普通ならボタンダウンカラーとくるところだが、襟先にメタルをあしらった点が〝プラダ〟らしい。モダンなパステルカラーをまとってはいるものの、ブルゾンだってよく見るとクラシックなワークウエアのようなデザインだ。

ワイドなカーフのショートパンツに合わせるのは、ボリューミーなレザースニーカー。シルエットのコントラストが面白い

 伝統をリスペクトしながも、決して懐古主義に陥らず、前向きに生きる。混迷を極める現代社会だからこそ、〝プラダ〟のメッセージは心に響く。