東京・西麻布のフランス料理店『Bon Pinard(ボン・ピナール)』が2022年5月に『ROZAN』として生まれ変わった。最大の魅力はどんどん希少化する名品と名高いブルゴーニュワインの古酒が最良の状態で飲めることだ。
ブルゴーニュワインマニア垂涎。進藤 康平ソムリエのコレクションが飲める
上の写真に心惹かれた人は、一度、西麻布『ROZAN』を訪れてみることをオススメする。
「こういうワインがゴロゴロありますよ」
と現オーナーの領家航(りょうけ・わたる)さんが言うように、この店のワインセラーには、こんなワインが2000本近くある。ほとんどがブルゴーニュ。数は少ないもののシャンパーニュもあり。いずれも、新品でも入手困難な名門による珠玉の名品ばかり。
希少化、高騰化を続けるブルゴーニュワイン。特に、名人、名門と謳われる造り手の作品は、欲しくても手に入らないという状況が新作においても数年間継続している。ここに、さらなる混乱をもたらしたのが新型コロナウイルスによるパンデミックだ。
苦境に立たされた飲食店が長年、保管していた名品を市場に流出させざるを得ない状況になり、ワインファンによる争奪戦が繰り広げられた。果たして、あの名店が持っていたあの名ワインは、いま、どこにあるのか……
西麻布のフランス料理店として通人を魅了した『ボン・ピナール』は、ソムリエ 進藤 康平さんがオーナーをつとめていた店で、進藤さんの確かな目利きと希少なワインコレクションはワインファンの間では有名だった。
なにせ、進藤さんは、六本木の『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』の初代シェフ・ソムリエ。当時の料理長は現『SUGA LABO』の須賀 洋介さん。後期ジョエル・ロブションの哲学が色濃く反映されたこのレストランは、その後の日本の料理界にも大きな影響を与えた。進藤さんはラトリエを離れたあとはボン・ピナールを起こし、料理界の最前線で活躍を続けながら、フランスと日本に、出自定かな3000本を越える希少なワインコレクションを持つようになった。とりわけブルゴーニュのワインの造り手と深いつながりがあり、例えばジョルジュ・ルーミエとは共にワイン造りをした仲。ゆくゆくはブルゴーニュで暮らしたい、という夢があり、パンデミックの混乱にボン・ピナールも巻き込まれると、日本でこのままレストランを続けるよりも、いっそ、夢を実現させるチャンスなのではないか? と考えるに至った。
そこで、ボン・ピナールと進藤さんのワインを引き継いだのが、進藤さんのワインのファンでもある領家航さんとそのワイン友達。進藤さんはボン・ピナールから『ROZAN』へと名前を形を変えた店に顧問的に関わり、どのワインが飲み頃か、どう飲めば最良の状態で愉しめるかを現ソムリエの金澤裕輔さんに指導。ゆくゆくはブルゴーニュでROZANのためのワインの買付を計画している。
ブルゴーニュのフィネスに寄り添う。ROZANのコンセプト
GMOインターネットグループから起業家となった領家航さんは、GMO時代に「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ」(DRC)の『モンラッシェ』に出会ったことが決定打となって、ブルゴーニュワインの沼にハマった。
「2000年頃に1980年代のモンラッシェが飲める機会があったのですが、ボトルを開けたら、香りが溢れて、僕の周りの空間がお花畑になったとおもったんです。ワインってこんなことができるんだ、と衝撃を受けて、それ以来ですね」
現在と比べれば、まだ、価格も控え目で市場在庫もあったブルゴーニュの古酒を飲み、集めるなかで、出会ったのが進藤さんのボン・ピナール。
「進藤さんが勧めてくれるワインが、本当に美味しくて。同じ造り手のワインでも進藤さんが出してくれると味も香りも違うんですよね……」
こうして進藤ファンとなった領家さん。友人も巻き込み、店主と客、という関係はやがて、ワイン愛好家同士の信頼関係へと発展した。そして進藤さんから店とワインを譲る、という話が出た。
「悩みましたよ。商売のことではなくて、そんな重責を負ってしまっていいのか、というところで。でも、向こう数十年のワインは心配なくなる、と考えることにして引き受けました」
店舗を改修し、ワインセラーを拡張。店名は『ROZAN』へと変更し、コンセプトをフレンチと日本料理とのフュージョン料理を出すワインバーへと変えた。店を取り仕切るソムリエ探しには難航したものの、銀座の三ツ星料理店で経験を積んだ金澤裕輔さんの参加が決まり、食材・料理は西麻布の二ツ星『豪龍久保』が協力してくれることになって準備が整った。
「年をとってくるとしっかりしたフレンチはだんだん厳しくなってくるでしょう? それに熟成したブルゴーニュワインは繊細。旨味の要素が複雑で、それに合うのは和のテイストだとおもうんです」
ROZANでは炭焼きができるのも強み。
「一部のピノ・ノワールがもつスモーキーなニュアンスとも好相性ですよね」
料理は、蕎麦やパスタ、炭焼の鴨、人気の炭火焼きの和牛ハンバーグといったアラカルトから、和仏フュージョンの旬の食材を使ったコースまで用途に合わせて。食事の予算は一人1~2万円程度。ワインに関しては、ものによる、としか言いようがないけれど、先述のように、出どころ定かな名品が、完璧な状態でサーブされる。
「ワイン好きからしたら、こういう名の通ったワインがいくらなのかなんて、分かるんです。そういう人にこんなに美味しく飲めるんだと感動してもらいたいし、それで高かった、とは言われたくないでしょう?」
ワインラヴァーのプライドに賭けて。
ワインが分かる人にこそ、知ってもらいたいお店だ。