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クリエイティブ・ディレクターという肩書きは、トム・フォードに始まる。1990年代以降、ブランドビジネスがグローバル化するに伴い、ファッションデザイナーは、服やバッグのデザインをするだけでなく、マーケティングや広告、販促活動、店舗展開まですべて一貫したスタイルのもとにブランドイメージを統括・指揮するようになった。このような責任を担う人がクリエイティブ・ディレクターと呼ばれるようになった。ビジネスマンにしてアーティストのような役割を担う人であるが、彼はこの分野の先駆者である。
トム・フォードは1990年、不振に苦しんでいた「グッチ」のデザインスタッフに加わり、94年にクリエイティブ・ディレクターに就任。世界でグッチ熱を再燃させ、ブランドを再建させた。2000年以降は、イヴ・サンローランが引退した後の同ブランドのクリエイティブ・ディレクターも兼任。こちらもグラマラスなグローバルブランドへとイメージを転換させ、成功をもたらした。広告はデザインの最終局面であるという考え方のもとに採用したビジネス戦略は、その後、他の多くのラグジュアリーブランドも競って展開するようになる。
両ブランドを退任して後、自身のブランドを設立。メンズ、レディス、香水、化粧品部門と着々と発展を続けている。2009年には、初の監督作品となる映画「シングルマン」を発表。主演のコリン・ファースがベネチア国際映画祭で男優賞を受賞するなど高い評価を博し、アーティストとしての才能を世に印象づけた。2016年には「ノクターナル・アニマルズ」も発表、ベネチア国際映画祭審査員賞を受賞している。
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「戦略・広告・ブランディング」時代を創った審美眼の高いテキサス生まれのカリスマは、2019年には、ダイアン・フォン・ファステンバーグの後を継ぎ、CFDA(アメリカファッション協議会)の会長を務めることになった。影響力はますます増している。
あらゆるものを創ってきたかに見えるトム・フォードが、2019年秋冬に初めて世に出したアイテム、それがダウンのアウターウェアである。トム・フォードのダウンはやはり、もっさりしたダウンではなかった。パラシュートナイロン、レザーなど、個性的な素材を使い、色合いもシックなのに艶やかでセクシーなブラウン。さらに、丸みがあるのに幾何学的なシルエット。革手袋とサングラスとともにコーディネートすれば、未來感覚が漂うスタイリッシュな冬のアウタールックが完成し、殺伐とした混沌からも身を守ってもらえそうな錯覚さえ生まれてくる。
文:中野香織
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