ドリス ヴァン ノッテンのラストショーが、6月末パリメンズコレクションの期間中に発表されました。ドリスは「アントワープの6人」として90年代初めにパリコレデビューしたベルギー人デザイナーの1人です。「アントワープの6人」は80年代にコムデギャルソンの川久保怜やヨウジ・ヤマモトの山本耀司らが、真っ黒い服でパリコレクションに巻き起こした「黒い旋風」の次の波、として注目されました。お澄ましなパリモードに対し「アントワープの6人」の服はナチュラルで親近感があり、どこか未完成で新しい服の美しさを表現していたのです。

90年代はパリ外れの倉庫やクラブでショーを開催

 ドリスはテーラーリングをベースにエスニックな色やプリントを使い、着る女性にリラックス感を与える服で人気を得ました。

 90年代はパリコレクションで発表するショーの数がピークの頃で、アントワープの新人たちはパリクチュール協会が認めた正式なスケジュールには入れず、夜9時過ぎからオフスケジュールでパリ外れの倉庫やクラブでショーを開催していました。当時は食事をとる暇もなく30分刻みに行われるショーに駆けずり回ったのを覚えています。それでもときめくコレクションが多く、ファッションショーが最高に楽しかった!時代です。

  「アントワープの6人」と言われたアン・ドゥムルムステール、ウォルター・ヴァン・ベイレンドック、ダーク・ヴァンセーヌ、ダーク・ビッケンバーグ、マリナ・イーのアントワープ王立芸術学院出身のデザイナー6人のうち、ブランドは存続していても現役で自身のブランドをクリエーションしているのはドリスだけでした。

 今年3月ウイメンズのパリコレクションを終えて1週間ほど経った頃、自分のブランドのクリエーションを降板する内容のメールが「ドリスからみなさまへ」と書かれて届きました。その中でドリスは「‥‥‥新しい世代の才能がブランドに新たなビジョンをもたらす余地を残す時期が来たと感じています。‥‥」と。

モデルがキャットウォークすることで生き生きする服

 3月に発表された24年秋冬ウイメンズコレクションは全員がスタンディングオベーションするほど、素晴らしいショーでした。リアルなのに新しい。コロナが終息し、着飾る喜びを再び甦らそうとしても、世の中はまだ無難な日常着が中心でした。そんな中、ドリスが提案していたのは「見たことのないありふれたもの」。それは着こなしやコーディネイトによって新しいバランスやときめきを感じさせるドリスらしいテーマでした。ドリスの服ほど、モデルがキャットウォークすることによって生き生きする服はありません。彼の服への愛、ファッションショーへの愛を強く感じます。

 ショー会場はモンパルナス近くの駐車場ビル、ガランとした灰色の四角いスペースです。

 コレクションは、スウェット生地の半身トレーナーを重ね光沢感のあるハーフパンツと合わせたり、コートの裾から切り離しのデニム、袖口からは長いシャツの袖が出たりと美しいアンバランスのコーディネイトを見せました。シャギーにサテン、コットンにオーガンジーそのコントラストが新しさを演出しています。

その偶然の着こなしのようで計算されたフォルムと色のハーモニーが絶妙です。前から見る姿と横向き後ろ姿全てがアシンメトリーで、動く女性によってそのフォルムが変わってゆくのです。ドリスらしい気負いない今の時代にぴったりのモードでした。

そのコレクションの余韻が残るタイミングに、彼がデザインするコレクションは6月のメンズがラストショーだという手紙が届き、誰もが驚いたのです。

最後のショーは下町の大きな倉庫

 6月、パリのホテルに届いた銀箔のインビテーションにはLOVEと書かれていました。選んだ会場はパリのはずれ、アントワープにも似た下町の大きな倉庫です。招待状にはカクテルパーティーの後にショーがスタートすると書かれていました。

 会場に着くと大きなモニターに過去のコレクションの映像が映し出され、世界中から集まったジャーナリストやバイヤーたちの歓談で賑わう会場にドリス本人も登場。和やかな表情のドリスに「今まで素敵なドレスをありがとう」と伝えました。

 夜10:00近くにカーテンが開くとショー会場の長い銀箔のランウェイが一直線に伸びています。。往年のモデルからスタートしたショーはテーラーリングをベースにシアーな生地やハーフパンツを組み合わせて軽さを演出しています。

 ベーシックカラーにパステルを添えウイメンズを加えた69ルックを披露しました。フィナーレはモデルたちが爽やかな笑顔で登場し、ハッピーな気分が会場を包みます。ドリスが挨拶するとカーテンが開き、巨大なミラーボールが現れてクラブに様変わり。招待客は思い思いに踊り、笑顔の卒業パーティーは深夜まで続きました。明るい未来のスタートを感じさせる素敵なラストショーでした。

 今後、ドリスヴァンノッテンのメンズ、ウイメンズを引き継ぐデザイナーが発表されるとのこと。ドリス自身は違う立場でメゾンに関わるそうですがこれからの活躍にも注目です。