コレクションもコロナ禍以前の日常に
コロナ禍が過ぎたとはいえ、世界のあちこちで反乱が起き世の中全てが幸せ気分とは言えません。そんな中でも日常に小さな喜びやきらりと光る瞬間を摘み取りたいと思うこの頃です。
年2回開催されるヨーロッパコレクションもコロナ禍以前の日常を取り戻しながら、着飾る楽しみやときめき、ファッションの持つ力を思い出させてくれています。
ジュエリーが今まで以上に注目されています。もともとネックレスや耳飾り、腕輪や指輪など装飾品を身につけるのは人間だけ。それは服以上に歴史が古く、民族の威嚇や権力の象徴であったり、宗教やお守りとして生活に密着した必需品でした。そして時代と共に洗練され豪華になりながら変化してきました。
「真珠」は唯一、冠婚葬祭どちらにも使われるジュエリー。悲しい時にも清楚な輝きで心に寄り添ってくれます。特に日本では一連のネックレスは年齢に関係なく一生ものとして愛用され、親から子へと引き継がれてゆく習慣があります。
「ミキモト」創業者の御木本幸吉は「世界中の女性を真珠で飾りたい」という発想で世界で初めて真珠養殖に成功し、100年以上愛され続け「真珠の老舗」という信頼を得ました。
パリ、ヴァンドーム広場には世界中のハイジュエリーブティックが並びますが、ミキモトは唯一日本のジュエラーとして1986年に店を構えました。そこで毎年7月、パリオートクチュールコレクション期間中にハイジュエリーの新作を披露しています。
海をモチーフにした作品
2023年は真珠養殖成功130年という記念すべき年で、1年かけて発表する「A LOVE LETTER TO THE SEA」というテーマの新作が並びました。
海をモチーフにした透明感ある作品が物語を作ります。シロナガスクジラの親子が寄り添いながら泳ぐ姿のネックレスは、ダイナミックで立体感があります。グリーントルマリンのグラデーションで波しぶきを描き、散りばめられたダイヤが気泡のようにミステリアスな海を表現しています。クジラの目の表情やフォルムがキッチュでモダンです。
3連のウォーターパールの中にウニのモチーフを描いたネックレスはオパールの周りを白蝶貝やダイヤモンド、サファイヤやガーネットでトゲを表現しています。オパールはクラシックなイメージですが、このネックレスは海の神秘さを奥深く表現しています。もちろんモチーフを外してブローチとしても活用できます。アレキサンドライトを中心にブルーのグラデーションでトゲを表現したリングも神秘的です。
パールを波打つように繋げた大きな襟のようなチョーカーは、魚が群れをなして泳ぐ姿を描き圧巻です。つけ衿のような感覚でデコルテの服以外にも合わせられそうです。
ハイジュエリーコレクションですが、珊瑚のピアスは繊細なグラデーションとフォルムで日常にも使えそうです。夏、白いTシャツに合わせてコーディネイトしたら素敵です。
ハイジュリーはそれぞれメゾンのヘリテージや技術があって個性で魅力的ですが、ミキモトのジュエリーは日本の職人らしい繊細なデザインと技巧が特徴です。パールの魅力は禁欲的で清楚、上品なイメージで女性の着こなしに永遠の品格を与えてくれます。
コム デ ギャルソンの服にパールを
そのパールの着こなしに革命を起こしたのがコム デ ギャルソンとのコラボレーションでした。コム デ ギャルソンのデザイナー、川久保玲によるリクエストでパンキッシュなパールネックレスが誕生したのです。2020年、青山のブティックで発表されたプレゼンテーションではメンズモデルがコム デ ギャルソンの服にパールを合わせて登場しました。シルバーのチェーンを繋げたり、安全ピンをつけたりと、今までのパールの概念を超えたファッションジュエリーとして披露されました。
翌年にも新作が発表され、現在銀座のミキモト本店、ドーバーストリートマーケットで取り扱われ、男性のパルネックレス愛用も浸透してきました。
今、パールの魅力がまた注目されています。パールが冠婚葬祭だけでは勿体無い。もっとリアルにおしゃれにコーディネイトしたい。ココ・シャネルはバロックパールのロングネックレスを何連にも重ねるのが日常でした。お葬式では重ね付けはタブーとされていますが、決まり事ではなく悲しみが重なるからという日本らしい控えめな解釈だそうです。
「いつか使う一生物」より「毎日使いたい好きなジュエリー」としてパールと寄り添いたいです。
ミキモトはパール養殖のために必要な美しい海を存続させるために2009年から「ゼロエミッション型養殖」を実施、養殖過程での排出物は全て活用し真珠層タンパクで化粧品や健康食品を作っています。また、2023年よりネックレスの糸を絹糸からペットボトルを原料とした再生ポリエステル糸に変更しました。
自然環境に配慮した海と真珠の物語と関わりながらパールを身につけることは、今まで以上に魅力的な時間を過ごせそうです。