カルト的人気を誇るカリフォルニア セントラルコーストのワイナリー「カレラ」の正規輸入元が、今年4月から「エノテカ」になり、プレス向けのセミナーが開催された。果たして「この世でもっとも魅力的なピノ・ノワール」はいかほどのものか?

今回、試飲できた8種類の「カレラ」のワイン

偉大なる世界3大カレラの一角

この世の中には偉大なカレラが3つある。ひとつはポルシェ 911 カレラ。初代が1964年に登場し、以来、常に世界最高峰のスポーツ性能と実用性を兼ね備えた自動車として代を重ねるアイコン。ひとつがタグ ホイヤー カレラ。クロノグラフのスペシャリスト、タグ・ホイヤーが1964年に発表し、60年間、新作が作られ続ける腕時計のクラシック。そしてもうひとつが、今回話題にしたい1975年に誕生したカリフォルニアのワイナリーだ。

前2者はアルファベットではCARRERAと綴り、これは英語のキャリアに相当するスペイン語なのだけれど、この場合「道、レース」を意味する。直接的には「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」というメキシコの公道レースからインスピレーションを得ている。(ちなみにポルシェ パナメーラの語源もこれ)。

一方、ワインのカレラはCALERAと綴り、こちらもスペイン語だけれど石灰窯(いしばいがま)を意味している。オックスフォード大学人類学修士のジョシュ・ジェンセンがサンフランシスコの南、ロサンゼルスの北、セントラルコーストのハーラン山に見つけた窯で、石灰窯というのは炭酸カルシウムである石灰石を生石灰に焼成する窯のこと。これがある、ということは石灰石鉱床が付近にあるということで、ワイン業界で石灰の土壌と言えばシャンパーニュかブルゴーニュだ。

こちらがラベルにも描かれている石灰窯

ジョシュ・ジェンセンはブルゴーニュワインに惚れ込んでいた人物で、偉大なピノ・ノワールのワインを生み出しうる土地としてアメリカにハーラン山を見出し、ジョシュが一時期、収穫や通訳の仕事で関わっていたDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)から持ち込まれたのではないか? とも噂される、いずれにしてもブルゴーニュに起源があるピノ・ノワールをここで栽培、繁殖させた(現在、このピノ・ノワールの樹はカレラ・クローンと呼ばれている)。

ほどなくして、カレラのピノ・ノワールはアメリカン ピノ・ノワールのベンチマークとなり、2003年にはロバート・パーカーによって「カリフォルニアのロマネ・コンティ」と称された。

日本でも、いわゆるカルト的人気を誇っていて、ワイン好きが「カレラ」と言えば、それは911でも腕時計でもないのだけれど、今年4月から、正規輸入元が「エノテカ」になり、プレス向けのセミナーが開催された。そんなの参加するに決まっているじゃないですかー

セミナーは現在の「カレラ」のオーナー企業であるザ・ダックホーン・ポートフォリオの営業担当ディレクター、カール・コーヴニー氏(写真左)と、「カレラ」のワインメーカー、マイク・ウォーラー氏が行った

「地球上で最も魅力的なピノ・ノワールのひとつ」by ロバート・パーカーは如何ほどか?

かくしてテイスティングできたカレラのワインは8種類(うち1種類は同ワインのヴィンテージ違い)。プレスリリースによるとエノテカはカレラのワインのうち「計10品目取り扱い開始」とあるので、そのほとんどをテイスティングできたことになる。

現在、カレラはハーラン山以外のブドウもワインにしていたり、ピノ・ノワール以外のワインもあるので、事情がちょっとややこしいけれど、まずすべてのカレラの基本、ハーラン山のピノ・ノワール。この山はカレラが単独所有している。ワイン的に言うとマウント・ハーランで一つのAVAになっているので、モノポールである。

そして、そのハーラン山の中に畑が9つあり、畑ごとのワインが造られていて、うち6つ「ミルズ」「ライアン」「ド・ヴィリエ」「セレック」「リード」「ジェンセン」がピノ・ノワールの畑。今回はヴィンテージが統一されていなかったりはあるものの、4畑分をテイスティングでき、面白味に欠ける結論で恐縮ではあるけれど、私が一番すごいワインだとおもったのは、カレラのオリジナル「ジェンセン」畑のピノ・ノワールだった。

こちらがジェンセン氏が最初にピノ・ノワールを植えた「ジェンセン・ヴィンヤード」。山の中腹にあるそれぞれ異なる方角を向いた4つの区画がある

収穫年は2020年。こちら、山火事の煙で日光が遮られたことで日照量が減り、生育期間を長くとることができたとのことで、ドライレーズンのような熟した果実の香りがする、酸味、苦味、旨味が溶け合うマルチレイヤーな味わいの液体で、ホントに、ブルゴーニュの同価格帯(カレラの「ジェンセン」は税込22,000円)のワインと比肩するか、ブルゴーニュワインが高騰化していることを考慮するなら凌駕する品質。オープントップの発酵槽にて天然酵母で100%全房発酵、フレンチオーク樽(30%新樽)で18カ月熟成だそうなので、そのあたりも現代ブルゴーニュ的。この造り方ということは、カレラは基本、自然な栽培・醸造をやっているということで(化学物資等が入るとこの方法では発酵時点で安定しない)認証としてはオーガニックだ。

もうひとつ、特徴的だと感じたのが「ド・ヴィリエ」畑のワイン。これはすごくアメリカンだった。あえて言えば、ナパの最近のエレガントなカベルネ・ソーヴィニヨンに似ている。2020年と2012年を味わえたのだけれど、基本的な雰囲気は一緒。リコリス的な甘みが感じられるのが印象的で、2012年は熟成の効果なのかヴィンテージに恵まれたのか、本当に素晴らしいことになっていた。カリフォルニアのワインが好きな人には値段以上の価値があるはず。

あとは「ミルズ」畑の2019年と「ライアン」畑の2019年をテイスティングできたのだけれど、「ミルズ」はハーバル、スパイシー、ウッディー、アーシーといった表現が似合うブルゴーニュ コート・ドール的ワイン。「ライアン」は全体的には奥ゆかしくおとなしい印象なのだけれど、その奥にはガツンと強い旨味、豚骨スープが潜んでいる感がある。価格は両者とも「ド・ヴィリエ」と同じ14,300円(税込)なのが悩ましいところで、もちろん、状況次第、好み次第ではあるけれど、「ミルズ」はこの価格にしては若干、元気が良すぎる、「ライアン」は若干、控えめすぎると私は感じた。

コストで言うと、もうこれでいいんじゃないか?とおもったのは「セントラル・コースト・ピノ・ノワール」の2021年。

ボトルのルックスは、どのワインでもほぼ変わらないけれど「セントラル・コースト・ピノ・ノワール」

これはハーラン山ではなくて、セントラルコーストの色々な場所で育ったピノ・ノワールをブレンドしたものなのだけれど6,600円(税込)と高級ワインの入り口的価格。深く力強い香り、まろやかさから複合的な味覚へと発展していくスタート時点で非常にキャッチーで、ここで「私はいいピノ・ノワールのワインを飲んでいる」という気分にさせてくれる。さらに中盤から酸味が立ち上がって苦味を伴う後味へと続いていくのも好印象。全体的にブルゴーニュのフィネス(繊細さ)よりもややパワフル目なのがアメリカのワインらしいのだけれど、それは目鼻だちのはっきりした顔みたいな感じで欠点ではない。レストランで、前菜のあとにこれをメインまでゆっくりと味わえば、本当に贅沢な気分になれるとおもう。

と、以上がピノ・ノワール。

ハーラン山のシャルドネもかなりいい

ほかにテイスティングできたのはシャルドネで「セントラル・コースト・シャルドネ 2021」(税込5,500円)と「マウント・ハーラン・シャルドネ 2019」(税込11,000円)の2種を味わえた。この2つは 基本的な性格は同じで、アメリカン・シャルドネではなくブルゴーニュ・シャルドネのほうがイメージは近いけれど、さすがに価格が倍違うだけのことはあって、高級感という意味では、マウント・ハーランの方が圧倒的。滑らかなテクスチャーではあるけれど旨味も酸味もしっかりしているので、ゆっくりと味わうメインディッシュ級の白ワインとして、大体、どんな料理にも合わせていけるとおもう。これもプロが料理からワインまできっちり面倒みてくれるレストランで味わうのが結果的には楽でいいようにおもう。

ただ、私はエノテカのお陰で噂に名高いカレラの最新作をテイスティングできたのだし、それはワインショップ エノテカでカレラが買えるようになったということでもあるので、あんまりレストラン推しするのも申し訳ない。だから、自宅で愉しむ場合は、オンラインでも簡単に、かつレストランで注文するよりはずっと手頃な価格で入手できる分、料理に悩み、手間暇をかけ、ワインはグラスや温度管理といった扱いにこだわることをオススメしたい。私は説明を聞きつつのテイスティングで大忙しだったのだけれど、このワインは雑に飲んでしまうのが一番もったいない。アメリカのカルト的ワインとしては身近な部類になったとはおもうけれど、あなたがどれだけお金持ちでも、カレラはゆっくり、丁寧に愉しんでこそのワインだ。